2015. 2.24 開催
関西大学教育開発支援センター
反転授業公開研究会(FLIT共催)

反転学習はディープ・アクティブラーニングを促すか?

山内祐平 FLIT Seminar

講演1
反転授業による高次能力の育成

山内祐平 FLIT Seminar

山内祐平
東京大学/教授

みなさん、こんにちは。今回のテーマは「ディープ・アクティブラーニング」なのですが、「ディープ・アクティブラーニング」という言葉を使いません。使っている言葉で言うならば「高次能力の育成」という言葉が一番近い概念だと思います。そこで反転学習によって高次能力を育成するためにはどういったことがポイントなのかということをお話したいと思います。ですが、この話をするためにはいくつかの留保条件がありますので経緯をもう一度、振り返りたいと思います。

反転学習とアクティブラーニング

反転学習という言葉はアカデミックワードではなく、実践をベースにしながら出てきた言葉なので、実は研究者の間で共通した定義があるわけではありません。ですが概ね、従来の説明型の講義であったものをオンライン教材化し、それを視聴することを宿題とします。そして、従来宿題であった応用課題を教室で対話的に取り組むことで学ぶというものです。
反転学習はアクティブラーニングと言えないことはないのですが、どちらかといいますと学習の個別化や完全習得学習に対応するためのものです。この考え方自身は新しいものではなく、1970年代からよく行われていた方法です。
ここで言いたいのは、反転学習がもともと学習をディープにしようという指向性があるものではなく、どちらかと言うと底上げ教育として全員がある一定のレベルで学習ができるようにするというものです。しかし組み合わせによっては、反転学習とアクティブラーニングが相乗効果を起こす可能性もあります。

高次の能力を育成するには

山内祐平 FLIT Seminar スタンフォードの医学部の事例を見てみましょう。多くの医学部の授業は、とにかく大学では多くの知識の獲得が必要になる一方、医者になれば臨床知が必要なわけで、今までは、臨床知と大学で学んだ知識が途切れてしまっていたことが大きな課題でした。そこで基本的な知識を獲得する上でも臨床知と繋ぐ必要性から2012年に反転学習が取り入れられたのです。
この実践の特徴は、反転を導入したことでこれまでの教育目標が高度化をしているのです。従来の覚えるだけの授業ではなく、知識を活用するという高度な能力を育成するということです。当然、高度な能力となると深い学習が伴わないと高度にはなりません。そういった意味において、スタンフォードはディープ・アクティブラーニングを成功させているのです。

日本版MOOC「gacco」における反転学習の事例

次はgaccoという日本版MOOCに対面学習を加えた事例です。基本的なMOOCのコースはビデオで予め内容を見た上で、分からないところを掲示板上で質問や議論を行い、課題を解くといった流れのものです。これに反転学習コースというものをつくり、2週間に一度のペースで対面学習を行いました。その結果、13歳の中学生から81歳のお年寄り参加いただき、年齢が多様な環境でグループワークなどを行いました。
結果として、MOOCだけでも学習効果は確認されましたが、歴史的思考ができるようになったかどうかを比較すると、反転学習コースの方が有意に効果が高かったことが明らかになりました。追加の介入をしているので当たり前だと思われるかもしれませんが、対面学習コースは2時間のプログラムを2回行っただけにすぎません。短いセッションであっても、上手に構成すれば、きちんと効果が得られるのです。

反転学習を行う際の3つのポイント

アクティブラーニングと反転学習を行う際に気を付けなければならない3つのポイントを確認してみましょう。1つ目は、自宅学習において必要となる予備知識が網羅できているかということです。そうしなければ、議論が成立しないからです。アクティブラーニングを高度化すればする程、主導権が学習者に移るので、学習者が主体的になればなるほど対面学習で行うこと以外の知識を得てしまう可能性があります。2つ目は、授業の構成がきちっと出来ているかということです。このケースの場合、協調学習としての設計が出来ていたことが成功につながりました。3つ目は見逃しがちで一番むずかしいことなのですが、あらかじめ1つ目と2つ目が繋がるように学習過程を全体として設計しなければならないということです。

山内祐平 FLIT Seminar