反転授業公開研究会(FLIT共催)
反転授業公開研究会
開会挨拶
川村隆明
山梨大学/理事
みなさん、こんにちは。本日はお忙しいところ公開研究会にお越し頂きありがとうございます。最初に、少しこの研究会の背景を話させていただければと思います。今、大学の進学者が18歳人口の50%を越え、大学生の多様化により、大学にはたくさんのことが要求されるようになったと思います。この状況の中で、何をすべきかを見極め、学生一人一人の個性・能力が伸びる大学の教育をいかに展開していくか、ということが重要になってくると思います。
本学では特にアクティブラーニングに力を入れています。多くの学生が勉学に対して積極的に、また興味を持って取り組むようになることを目指しています。そんな中、たまたま、本学に反転授業の取材に来ていたNHKのディレクターから「反転授業を受けている学生の動きが違っています。学生が本当に活き活きとしています。」との言葉をもらいました。これは一つの成果だと思っています。ただ、どんな方法でもすぐにうまくいくというわけではありません。そうなるまで、担当の先生あるいは学生自身も、それなりの適応・改善に取り組んできたかと思います。
今日の研究会では、この反転授業を活かす方法、工夫、また、その中身などについて互いに引き出し合いながら、進めていけるといいと思います。みなさんの参加された背景はそれぞれ違うと思うのですが、その中で、この研究会が少しでも参加されたみなさんのお役に立てればと思っております。
基調講演
反転授業とアクティブラーニング
山内祐平
東京大学/准教授
みなさん、こんにちは。今日は、「反転授業とアクティブラーニング」についてお話させていただきます。
高等教育における反転授業研究の現在
この1年間で、「flipped classroom」とタイトルに入った高等教育の論考が111件報告されています。扱われる領域は主に人文社会系、工学系、理学系で、その他の領域でも数は少ないですが、ほぼ全ての領域で実践されていることがわかりました。このうち統計的に有意な成績の向上を確認した論考が9件あり、これはかなり大きな知見です。学習者の主観評価で高い満足度を確認した論考も11件あり、落第率の低下や自尊感情の向上を確認している報告もあります。一方で、成績向上が見られなかった報告も1件ありました。適切な方法で実践しさえすれば、反転授業は成績を向上させる可能性がある、というふうに考えることができるでしょう。ただし、これらの報告はほぼ全て教員による個別指導を中心とした「完全習得学習型」の実践です。グループワークを中心とした「高次能力学習型」の実践の導入は、教員側に高い力量が必要になるため今後の課題になるでしょう。
アクティブラーニングとは
話を聴くだけの一斉講義よりも学生の参加度合いが高ければ、広義にはアクティブラーニング(以下、AL)とみなすことができます。その意味では、「完全習得学習型」の反転授業も基本的には問題演習を含んでいるためALだといえるでしょう。しかし、最近の動向として、高次思考を要するグループ課題を扱ったものをALとみなす場合が増えています。
ALの3つのレベル
ALをそのレベルによって3段階に整理してみましょう。一番簡単なレベル①は、個人で課題に取り組んでもらい、教員が学生とやりとりをしながら学習を支援するタイプです。力量を問わず、比較的簡単に導入することができるでしょう。レベル②は、グループで課題に取り組んでもらうタイプです。レベル①に加えて学習者間の相互作用をマネジメントする必要があり、それ自体が非常に難しいことなので、教員側にノウハウが求められます。
それ自身が非常に難しいことなのでそれができる先生とできない先生の中でノウハウ的な差が出ます。レベル③は、さらにもう一段階難しいPBL(Problem/Project Based Learning)です。PBLには2種類あって、1つは問題があらかじめ設定されており、必要な知識を学習しながら最終的に課題を解決することで学ぶ問題設定型学習です。もう1つは、現実社会の課題に対して、学生が自律的に解決方法を発見するようなプロジェクトを通して学ぶものです。
反転授業・AL導入のポイント
大学全体で組織的に反転授業やALを導入するためには、段階的に取り組んでいく必要があります。手堅いのはレベル0と言いましょうか、冒頭で述べた完全習得学習型の反転授業から始めることです。それからALのレベルを上げていくにあたって、ポイントが3つあります。まず第一に、「よい課題をつくる」ことです。「よい課題」とは、与えられた時間でギリギリ頑張ったら解ける難易度であり、学習者にとって取り組むことの意味がわかる課題です。課題がよくなければ、グループで課題に取り組ませてもうまくいきません。2つめのポイントは、「グループ活動を促進する」ことです。例えば、4人がグループ活動すると、1人ばかりが喋っていて残りはフリーライダーになってしまい、実は全然学習していないということがたびたび起こります。それを避けるためには、よい課題をベースにしながらグループ全員がコミットメントする仕組みをつくる必要があります。最後、一番難しいポイントは「学習者の成長を見極める」ことです。PBLでは、グループのメンバーが自律的に動きながら、問題を解決していきます。その時に教員側に必要なのは、狭義の成績ではなく、テストではなかなか測れない学習者一人ひとりの高次思考能力(コミュニケーション能力、批判的思考、問題解決能力など)を見極めることです。教員が上手に学生の能力を把握できていないと、形式だけはプロジェクト学習でも、非常に浅い成果しか出てこないということになりがちです。これらのステップを意識しながら、反転授業やALを導入していくことが大事になるでしょう。
Seminar Report List
2016
2015
2014
- 2014. 9.24 開催
反転授業公開研究会 - 2014. 5.24 開催
反転授業のデザインと評価手法
先駆者に聴く、反転授業の概念と実践事例 - 2014. 2.12 開催
授業の常識をひっくりかえす! 『反転授業』を考える