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2015/03/09

【開催報告】公開研究会「ミライバ」 第7回:「街にあるものを使いこなす」学びのプロジェクト

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公開研究会「ミライバ」
第7回:「街にあるものを使いこなす」学びのプロジェクト
― アーティスト・街・子どもの繋ぎ方 ―
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 今まで独立して存在していた「家」「学校」「コミュニティ」の敷居が、近年徐々に低くなってきているように思います。東京大学 情報学環・福武ホールとミサワホーム総合研究所が開催する、公開研究会「ミライバ」では、この変化めまぐるしい現代社会のなかで、大きく意味が変わりつつある「場」の未来について考えていきます。

miraiba7-1.png 第7回の公開研究会は12月16日(火)に開かれました。ゲストはアートを切り口としたプロジェクトを数多く手がけている松田朋春さん(グッドアイデア株式会社)です。今回の研究会では、はじめに松田さんより、街を活用したプロジェクト作りの事例について話題提供をいただきました。後半は松田さんが参加者からの質問に答えながら、これから街をにおける今後の展望についてディスカッションを行いました。

 松田さんはこれまでアートとデザインの間で数々の興味深い企画を手がけてきました。例えば、谷川俊太郎さんが書き下ろした詩集を顕微鏡で読むという『obla( )t(オブラート)』というブランドを立ち上げたり、ダイアログ・イン・ザ・ダークのアテンドのみなさんとともに、今治タオルの新しいブランド開発を行ったりと、一見関係がないように見える領域の人とのコラボレーションの中から、新しい価値を生み出すような企画を数多く手がけてきました。一方、松田さんのフィールドの多くは「まち」にあり、まちとアートを融合させた企画を多く手がけてきました。


miraiba7-2.png まちを舞台とした企画の1つに、柏の葉キャンパス駅周辺で年1回開催されている「ピノキオプロジェクト」があります。かつて柏の葉キャンパスシティは、新線進駅開通に伴い、大規模なタワーマンション型の複合開発が進んでいました。当時は新線新駅での新しいまちづくりを行うための「まちのソフトづくり」のモデル開発をする必要がありましたが、その際、ハード面の開発だけでなく、そこに住む住人がコミュニティをどう形成していくのかという課題に対し、地域交流の仕掛けをアートで取り組むことになったそうです。そこで、「隣人」と呼ばれるコミュニティの主役(新住民と旧住民】と、「未来の街の担い手(隣人)」となる子どもたち、そして、民間企業や大学などの「ステークホルダー」という3者の連携による「五感の学校」というアートプロジェクトが実現することとなります。

 五感の学校は「ソフト」と「ハード」と「エンジン」という3の視点から考えられています。まずはマルシェやピノキオプロジェクトなどの活動から形成していき(ソフト)、その活動と関係のある形でアートワークを作る(ハード)というプロセスにこだわることで、街に関係のないものが生み出されない仕組みを形成しました。また、その活動を継続させるための担い手(エンジン)をどう生み出すのかを常に考え取り組んできました。そして2007年のららぽーと柏の葉のオープンと同時に、「未来観測」という光のインスタレーションや、東大で運動生理学を専門としている小林寛道先生と開発した「はっぱっぱ体操」、マンションの建設予定地に3ヘクタールの芝生を育てて社交の場にした「ピクニックエキスポ」など、一見変わった企画が多く誕生しました。そして、五感の学校によるアートプロジェクトの1つとして「ピノキオプロジェクト」も実施されることとなりました。

miraiba7-3.png ピノキオプロジェクトはもともとイタリア・フィレンツェのアーティストであるエドアルド・マラジジ氏が始めたイベントでした。ヨーロッパでは様々なバージョンがあり、たとえば、大きなピノキオのボディを作りその素材がどこから来ているのかということを社会学習として捉えていく、といった方法をとっています。しかし、日本では「子どもがまちで働く」というテーマで実施することにしました。まず揃えたのは衣装でした。衣装があることで非日常性が強い学習を生み出すと考え、ひびのこづえ氏(コスチューム・アーティスト)に特別にデザインしてもらった衣装を準備しました。お店そのものはまちの事業者さんに協力をしてもらい「ピノキオ市場」という商店街を作り込みました。お金は「Pi(ピー)」という架空通貨を活用しましたが、実際に会場にある本物の銀行を会場に、給与の支払や両替業務を実施することもできました。また、継続的な活動ができているため、図書館から紙芝居を借り出して読み聞かせの教室をおこなったり、手芸グループともの作りを開催したりするなど、子どもたち自身が仕事を開発するようになりました。そしてピノキオプロジェクトでは片付けが最も盛り上がるそうで、企画で準備したものを子どもたちと一緒に全部壊すのだそうです。

 ピノキオプロジェクトで重要な存在は子どもたちですが、松田さんによると「子どもを真ん中に置くと、立場を超えた大人の交流が起こる」ことが重要なのだそうです。例えば実際にピノキオ市場にカフェを作ることになり、商工会議所を通じて地元企業に協力依頼をすると、当初は非協力的だったそうです。しかし、子どもたちがいると笑顔で対応してくれるだけでなく、次の企画を待ち遠しく思ってくれていました。また、第1回参加者のときに小学生だった子どもたちは現在高校生の歳ですが、プロジェクトのリーダーとして関わり続ける子たちも登場するようになり、継続のための骨格が形成されてきました。7年も実施していると、想定外のことがどんどん起こりますが、松田さんはそのことがむしろ大事だと言います。「まちで働く」という基本のコンセプトを保持しながらも、実際にプロジェクトの対象者が勝手にやりたいことをできるようになることで、どんどんプロジェクトが変貌します。実際に今年リーダー層が東北に交流をしに行き、実際に2014年のピノキオプロジェクトでは交流した結果が会場に出てきたそうです。


 ピノキオプロジェクトは、一見ドイツの「ミニミュンヘン」に似ていると言われますが、ピノキオは大人と一緒に働くという環境を作っているので、ミニミュンヘンとは異なります。地域のプロジェクトでは、子どもたちが大人と一緒に働き、大人の姿を見て子どもは大人を尊敬することを覚えるべきであると考えられているからです。そういう意味でもクオリティには非常にこだわっています。また、こうした機会は大人にとっても「失敗の許容」を学ぶ機会にもなっており、子どもたちも大人になるという意識をもって取り組んでいるからこそ、クオリティが担保されているそうです。さらに、柏の葉では、市民の取り組みの隣にアーティストがいることで、アーティストは伴走者であるという言い方をしています。実際にアーティストから学ぶことは多く、その学習がコミュニティの体質の変化に寄与するだろうという考え方が柏の葉周辺のプロジェクトに大きな影響を与えています。

 また、このようなアートプロジェクトを運営するために3つの方法論があると松田さんは言います。1つ目は【公共空間活用】です。公共空間はメディアであり、出来事をなるべく屋外で行うことで、見たことのない風景を生み出すことでメッセージを発信し続けることができます。2つ目は【共有化】です。同じ経験をする、それで道具を持つ、ルールを持つ、というような具体的なものであり、かつ、他のまちにも自慢できるようなものであることで、街のプライドを形成することができます。3つ目は【力量形成】です。毎年出来ることが増えていくということそのものが大切なので、能力のある人を育てることだけでなく、やったことがないならやってみるという寛容性を育てる必要性もあります。そのためには外部ネットワークの存在が必要です。そして、アート特有の楽しさをベースとした波及効果も活かすことが重要です。



miraiba7-4.png 会場の参加者からは、特に地域イベントを興す上で、住人とアート(アーティスト)との関係性に関する質問が多く出されました。例えば地域活性型のプロジェクトは年々増加していますが、一方で人集めに苦戦する地域も多くある中で、更にアーティストの存在を理解し難い住人も出てくると想像できます。松田さんは、アーティストが「伴走者」であるということは、アーティストが「主役ではない」ということであり、それを協力してくれるアーティストにも明示していると言います。その理解がなければ仲間として協同することは難しいそうです。また、松田さんご自身のプロデューサーとしての素質についても議論がなされました。松田さんの取り組みのポイントは、自治体と地域住民、地域の企業との連携にとどまらず、企画のクオリティを担保するため下支えとなる資金をうまく獲得し、ビジネスのレイヤーと公共的価値のレイヤーをうまく繋いでいる点にあると考えられます。松田さんは、アートとデザインが綺麗に区別されていると感じていますが、柏の葉に関わる中で、「問いがアートで答えがデザイン」という理論を考案されたそうです。仕事はソリューションに対して対価が支払われるので、「答え」ばかりが必要となっています。しかしそれだけに取り組んでいてはダメで、アーティストに答えを求めてはならないし、デザイナーは回答する立場とはいえ、答えばかりを主張すると次の段に進めないという状況に気づき、意識しながらマネジメントを行っているとのことでした。

 地域活性に関する取り組みは、少子高齢化が進む中で、多くの自治体が様々な取り組みに挑戦している中、柏の葉で取り組まれたプロジェクトの特異性が浮き彫りとなりました。特に、松田さんでない人がプロデューサーになる場合、ベタな企画の提案があり、クオリティも上がらず、結果人もお金も集まらなくなり、持続せずに途中で頓挫してしまうというプロジェクトとなることが容易に想像つきます。クオリティが高く、その街の人が元気になる取り組みは、これから一層求められていくと思いますが、30年を見据える町づくりの中で、どうすればそうしたプロデューサーを巻き込むのか、むしろ、育てていくのか、という観点も重要かもしれません。

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 今回お話しいただきました松田さん、そしてお集まりいただいた参加者の皆さま、どうもありがとうございました。

▼次回ミライバのご案内▼
次回は3月26日に、一般社団法人Mozilla Japanの赤塚大典さんをお呼びし、インターネットの特徴である「『オープン性』を軸とした場作り」をテーマに開催いたします。
お気軽にご参加ください。
http://fukutake.iii.u-tokyo.ac.jp/2015/02/28/16.html

[ ミライバ事務局(NPO法人Collable):山田小百合 ]