2015. 7.25 開催
第4回 公開研究会

学習テクノロジーの未来

ダニエル・シュワルツ FLIT Seminar

講演1
学習テクノロジーの未来

ダニエル・シュワルツ FLIT Seminar

ダニエル・シュワルツ
スタンフォード大学/教授

今日はテクノロジーを使った学習とその評価について、学習ゲームを使った私の研究をもとにお話したいと思います。なぜ学習ゲームなのかというと、コンピュータ化した学習ゲームを作るときには教育的な指導、評価、そしてフィードバックの全てを設計の中に織りこまなくてはならないからです。では、そのゲームの良し悪しを決めるものは何かについて、3つ紹介したいと思います。

誰かのために学習するという動機付け

ダニエル・シュワルツ FLIT Seminar 1つ目は「動機付け」です。初めに良いゲームの例として、ティーチャブル・エージェント(Teachable Agents)を用いたゲームを紹介しましょう(参考:Teachable Agents http://aaalab.stanford.edu/research/social-foundations-of-learning/teachable-agents/)。プレイヤーは選んだアバター(エージェント)が問題に回答できるよう、コンピュータ上の概念図(concept map)を作ってエージェントに因果関係を教えます。その後、子どもたちが教え込んだエージェントが正しく答えられるかをゲームショーの形式で賭けさせるというものです。

私たちは、中学2年生を「ティーチャブル・エージェントに因果関係を教えるグループ」と「自分自身が学ぶために概念図を作るグループ(クイズショーは自分自身で答える)」の2つに分けてこのゲームで遊んでもらいました。その結果、子どもたちは誰か他の人を助けていると考える方(ティーチャブル・エージェントに教えるグループの方)がより多くの時間を学習に費やし、成績も良くなることがわかりました。つまり、自分の時間を犠牲にしてまでも、誰かのために学習しようとしていたのです。

正解に近づけさせる教授的なインタラクション

ダニエル・シュワルツ FLIT Seminar 2つ目は「教授的なインタラクション」です。私たちはフィードバックの方法が異なる2種類のゲームを作りました。1つは回答後に正解だけを伝えるゲームで、もう1つは回答後にどの程度自分の回答が正解から離れていたかを伝えるゲームです。このゲームのどちらか1つを選ばせて子どもたちに遊んでもらい、最初の回答に対してそれぞれのフィードバックがされた後、2度目の回答がどう変化するかを比較しました。すると、最初の100問を解いている間は、どちらも50%以上が同じ間違った回答を繰り返していることがわかりました。ところが、次の100問を解いた時に違いが出てきたのです。前者のゲームで遊んだ子どもは、先ほどと同じく50%以上が同じ間違った回答を繰り返していたのですが、後者のゲームで遊んだ子どもは50%以上がより正解に近い答えを出せるようになったのです。ティーチャブル・エージェントのゲームも同じで、フィードバックの中でどこがどのように間違ったのかを明らかにすることで、因果関係や合理性を学習することができるのです。つまり、良いゲームとはリッチな情報や役に立つ情報を提供しながら、次に正解を出せるように導いていくものなのです。

学習成果を将来の学習のための準備と捉える

3つ目は「学習成果」です。良いゲームは将来の学習のための準備ができるものです。良いゲームとは何かも、そのような視点から評価するべきです。

私たちは”Stats Invaders!”というシューティングゲームを用いて、エイリアンの攻撃パターンから統計を学べるかを実験しました。ゲームをする群としない群で統計に関する学習効果を比較したのですが、群間で有意な差は見られず、一見ゲームが無意味であったかのように思われました。ところが、生徒たちに統計学の他の分野の説明文も提供するようにしたところ、ゲームをした後に説明文を読んだ生徒たちは、ゲームをしなかった生徒に比べて成績が良くなるという結果が得られました。これを私たちは「将来の学習のための準備(Preparation for Future Learning)」と呼んでいます。つまり、将来的に子どもたちがひとりで学ぶことができるよう、準備の機会を与えられるようにするべきだということです。

技術はやっと人間の創造力に追いついてきたと思います。今こそイノベーションを起こす時です。今なら昔よりもクリエイティブで面白いものができるようになると思っています。

ダニエル・シュワルツ FLIT Seminar