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公開研究会「ミライバ」
第8回:オープン性を軸とした場づくり
― 専門家から小中高生まで一緒にモノづくりをする「Mozilla Factory」―
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第8回の公開研究会ミライバは、一般社団法人Mozilla Japan の赤塚大典さんをお招きして開催されました。今回の研究会では、はじめに赤塚さんより、Mozilla Japanが行っている学びの企画・場作りについて様々なプロジェクトのご紹介をしていただき、いくつかの議論テーマを出していただきました。後半は赤塚さんが参加者からの質問に答えながら、Mozilla Japanの今後の取組と未来についてディスカッションを行いました。
Mozillaといえば、おなじみのFirefoxやThunderbirdなどが有名ですが、Firefox OSも盛り上がっている注目の団体です。「団体」と書きましたが、Mozillaが他社と異なる点は、基本的にはMozilla Foundation を母体とした非営利の団体であり、世界中のボランティアと一緒に製品やプロジェクトを生み出している開発スタイルです。"We are building better internet"という「よりよいインターネット環境を作ろう」という基本的な理念に基づき、Firefoxや Firefox OSはもちろん、この後にご紹介する日本のMozilla Factoryの取り組みも生み出しています。Mozillaが他社と異なるのは、「コミュニティ」であることです。現在Mozillaのコミュニティは約4万人と言われており、コミュニティのメンバーは各国語にローカライズしたり、実際にコアのソースコードにコミットしてもらったり、というように、様々な貢献の仕方があるそうです。
そうした取り組みを経て、現在はウェブを消費するだけではなくて「みんながウェブを作れる生産者になっていける」という考えを掲げながら理念を体現しています。特に教育の観点から、リテラシーを育む取り組みがなされています。リテラシーマップを作成し、それに基づきカリキュラムを設計しています。その他、The X-Ray Gogglesという、 Web ページの裏側にあるコードを調べる、いわばHTMLのレントゲンのようなツールを開発し、HTMLを身近に感じてもらったり、アニメーション制作のワークショップを各国で開催したりしながら、活動の幅を広げています。
MozillaのFirefoxやThunderbirdなどのソフトウェアは、いわゆるオープンソースソフトウェアとしてプロダクトを世に送り出しています。こうしたオープンソースソフトウェアの発展のための4つのポイントがあると、赤塚さんは言います。
1)誰もが自由にオープンソースソフトウェアに利用できるということ
2)その利用できたものを複製あるいは改変・派生物を作るということができること
3)次のリユースに繋げていく再配布ができること
4)多様なレベルで貢献ができること
こうした理念を経て、Mozilla Japanとしての取り組みが、今回ご紹介いただいたMozilla Factoryであり、この場を通してこれまでのオープンな取り組みを体現したモノづくりを行っていこうとしています。まずは、Mozilla Factoryで動いているさまざまなプロジェクトをご紹介いただきました。
例えば"FabNavi"は、モノづくりをする手元に実際にモノづくりを進める手元の動画を投射することでモノづくりを支援するもので、大学と一緒に開発しました。「新しいプラモの設計図」とも言えるでしょう。また、Fablab Japanの創設者である田中浩也さんと一緒に、Fabbleというウェブサービスも開発しています。モノ作りの過程をきちんとレシピ化して共有していくウェブサイトです。こちらもモノの複製や派生を生み出したいという気持ちがあります。例えばあるモノ作りのレシピがあるとしたら、その一部を少し変更したレシピをまた公開することができます。その他にも"Open Source furniture"という、デザインや家具の分野にオープン性を取り入れてみる試みもありました。1つ面白かったのは、NOSIGNER™さんの発案された三角錐の鉄の部品をオープンソースにしたところ、フランスの家具屋さんがそれを見て、商品として出したいという打診があり許可したという事例があります。最後に、赤塚さん自身が特に盛り上がっているプロジェクトとして、"MozOpenHard"をご紹介いただきました。モーターやLEDなどを、JavaScriptやHTMLなどで制御できるようにしたボードで、実際に世界で5枚しかない本物のボードを見せてくださいました。
次に、こうした取り組みが生まれるMozilla Factoryという場についてご紹介していただきました。Mozilla Factory はMozilla Japan(港区六本木)のオフィスのなかに併設されています。オフィスもガラス張りで、明るくてオープンな場所になっています。内部はゆるやかに3つにエリアにわかれており、奥のエリアは固定席のワークスペースで、モニターが多く設置されており、主に作業をするエンジニアのための席です。中央のエリアはフリーアドレスになっていて、外部の方も自由に座って仕事ができます。そして一番手前のエリアがファクトリースペースになっています。奥に行けば行くほどオフィスそのものに近づき、入りやすさのグラデーションがある構造となっています。オフィスの天井にはレールが敷いてあり、物理的に空間を区切る際は、パーテーションパネルをひっかけることができるようになっています。必要に応じて透明パネルで場を区切ってパーティーをしたり、対談形式のイベントを行ったりと、用途や人数に応じてその場を作り直せる汎用性の高いオフィスになっています。また、ファクトリースペースには、ボール盤や3Dプリンタ、ペーパークラフト、レーザーカッターなど、豊富に取り揃えています。また、様々なセンサー類や電子部品、センサー、モーターなどという電子部品も常時準備されています。
ファクトリースペースは、毎週土曜日を基本的には解放をし、多くの方が自由に使っています。もともとMozillaとして、主にワークショップをやることがありましたが、単発のワークショップでは機会を提供するのみに留まってしまい、せっかく興味を持った方の次のステップを用意できていないと気づき、活動を継続する場として土曜日のスペースを解放しているそうです。その他は冒頭でご紹介があったプロジェクトが進行しており、他の人がそれを見て、興味を持ってコラボレーションが始まっていくといったような事例もありました。また、ものづくりにおいて困ったときに誰かに聞けるような拠り所として機能していったらという願いもあるそうです。
Mozilla Factoryの理念は、"Moz Bus"というワークショップバスのプロジェクトでも体現されています。100ボルト16アンペアの発電機を積み、衛星ブロードバンドインターネット用アンテナがバスの上に装着されているため、どこでもインターネットに接続できる状態になっています。他組織とのコラボレーションでワークショップを実施したり、防災に関しての取り組みにも発展しています。実際に、小学校や中学校でインターネットを利用したワークショップを行う場合、学校のインターネット回線は色々な制約も多く、このバスを学校の敷地内に設置してバスの回線を使ってワークショップを行うことも多いそうです。こうした移動型の利点を活かして、海岸や山の奥、温泉地など、ネットワークが入りにくい場所でのワークショップができないかと考えてもいるそうです。
また、最後の事例として「コモジラ研究所」という、学生さんが主体となって学生のためにワークショップをやるという活動についてもご紹介いただきました。各回テーマを変え、そのテーマに沿ったスペシャリストたちをお呼びし、Mozillaのメンバーも教わっていくことで、一緒にものを作っていくというスタイルをとっています。
Mozilla Factoryは、「何かモノを作っていきましょう」といった際に、それに興味を持った方々が入ってきてくれる場になっており、プロジェクトを通じて、多くの人がアイデア力や技術力など、様々な面で成長してくれたらと考えているそうです。また、赤塚さんは「みんなが同じ目線で物事を進めていくことが継続する」ことが大事なことなのではないかと考えています。みんなで「こういうものを作っていこう」というゴールを決めて、みんなで協力をして物事を作っていく関係が、年令を問わずに生まれています。何より、自分が楽しくなければきっと誰も楽しくないので、自ら楽しむことをコモジラに関わる学生さんにはお伝えしているそうです。
一方、こうした魅力的な取り組みを行う赤塚さんには2つの悩みがあり、今回の研究会はこの悩みを切り口としてディスカッションを行いました。1つ目は、参加する子供達のご家庭との関わりについてです。Mozillaとしてはもっと自由な発想で、思ったことを思ったようにモノづくりに参加してもらいたいと思っています。しかし参加者の保護者の意向とのバランスを考慮しなければならない場面もあるそうで、自由な取り組みにおけるご理解をいただくための信頼関係をどのように築くとよいかという観点です。2つ目は、MozBusをもっと活用したい!という悩みで、移動型のファクトリースペースとして、他にどういう可能性があるのかを議論したいというお題をいただきました。
後半は赤塚さんのお話と2つのお悩みを切り口に議論が展開されました。保護者との関係については、あえて保護者向けのワークショップに取り組んでみたらどうか、というご提案がありました。また、MozBusの活用については、伝統工芸など、今までITとかけ離れていた分野へのリーチや、「プロジェクションマッピングをしちゃいますバス」などのコンテンツ込みのバス企画を打ってみる、といったご提案や、その他、医療分野との親和性についてもご提案がありました。加えて、こうした取り組みだけでなく、デジタルやファブリケーションなどにほど遠い人がどのようにMozilla Factoryのプロジェクトに参加できればよいのかという議論にも発展しました。
今回のミライバは赤塚さんのファシリテーションでフラットでオープンな議論ができ、まさにMozillaの理念が反映された場になりました。また、「場」という言葉は、人が集う空間という共同体的な側面と物理的な空間という側面とが組合わさった概念ですが、今回のテーマには「サイバースペース」が入っていることが特徴的といえます。スペースの問題が単純に物理的なものだけではなく、インターネットと常に同時に考えなければならなくなった時代が来ていることが実感できます。現代では私たちは家にいても、スマートフォンを持った瞬間にみんな違う二重の世界に生きています。しかし、物理的な空間とサイバースペースが、現在ではまだ統一的にデザインされていない現状であるとも考えられます。こうした場をどう再構成していくかということがこれから求められるでしょう。
今回お話しいただきました赤塚さん、そしてお集まりいただいた参加者の皆さん、どうもありがとうございました。
[ ミライバ事務局(NPO法人Collable):山田小百合 ]