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第9回 ラーニングフルエイジング研究会
「シェアを設計する」
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学び続け成長する存在としての高齢者―彼らの学習にはどのような課題があり、またどのような方法をとりうるのでしょうか。ラーニングフルエイジング研究会は、ミネルヴァ書房から2015年度刊行予定の書籍『ラーニングフルエイジング−高齢化社会に向けた学びの可能性−』との連動企画です。本研究会は、高齢社会に向けた学びの可能性について様々な研究者と話し、多角的に考えていきます。
第9回の公開研究会は5月15日(金)に福武ホールで開かれました。「シェアを設計する」というタイトルで、東京大学助教で建築家の成瀬友梨さん、東京大学特任助教の後藤智香子さんお越しいただきました。前半は、成瀬さんからシェアスペースのデザインについて、後半は、後藤さんから陸前高田市のコミュニティ・カフェ「りくカフェ」の取り組みについてお話いただきました。
成瀬さんからは、「成瀬・猪熊建築設計事務所」で手がけたシェアスペースの4つの事例、①FabCafe、②シェアハウス、③イノベーションセンター、④福祉施設について、ご紹介いただきました。
①FabCafe
Fabcafeとは、「Fablab」と呼ばれるレーザーカッターや3Dプリンタが置かれていて、それらをシェアしてものづくりをするスペースと、カフェが融合したスペースです。レーザーカッターをカフェの中央に置くことで、何かができあがると自然と周りの座席の人の目にも入ってきます。今まで出会ったことない人々が、ものづくりを媒介に出会えるスペースになっているそうです。
②シェアハウス「LT城西」
次に、シェアハウスの事例として、「LT城西」をご紹介いただきました。シェアハウスは多くの場合リノベーションでつくられるそうなのですが、このシェアハウスは新築でつくられました。建物の構造を変えられるという新築の良さを活かし、「共用部にすぐ出られるという近さもありつつ、個室にいるときのプライバシーもきちんと確保できる空間」を目目指して、個室と共用部の距離感を繊細にデザインされたとのことです。
③イノベーションセンター「柏の葉オープンイノベーションラボ KOIL」
また、成瀬さんはオフィスのデザインにも携っておられます。成瀬さんはコミュニケーションが起きやすく、色々な分野の人が横断をしてコラボレーションできるスペースを目標に設計されました。KOILは、机を借りて使うことができるシェアオフィスやデザイン工房、様々な規模のミーティングが可能なミーティングスペースが配置されたつくりになっています。また、土日には、地域の人々やこどもたちを対象とするレクチャーやワークショップが開かれ、地域のコミュニティスペースとしても使われているとのことです。
④福祉施設
最後にご紹介いただいたのが福祉施設です。従来、管理する側の目線でつくられがちな福祉施設を、そこで過ごす利用者の目線に立ってつくられたとのことです。成瀬さんは、高齢者のショートステイ、デイケア、障害者のショートステイ、障害児のデイケア、カラークリニック、コミュニティ・カフェなど色々なものが、廊下でゆるやかにつながった施設を設計されました。例えば、高齢者のデイサービスと子どもたちのいるスペースを近くに配置するなど、従来では管理面から敬遠されがちだった設計が利用者にとって重要と成瀬さんは考え、取り組んでこられたそうです。
最後に、成瀬さんは、現代社会の状況や人々の価値観について触れ、シェアスペースが施設の用途を超えて必要になっていると指摘します。例えば、「平均世帯の人数が3人をきる社会での新しい住まい」、「コミュニケーションがイノベーションを起こす時代のオフィス」、「少子高齢化する中で求められる新しい福祉施設」、「モノを買ったりするよりも,学びとか出会いにお金をかける時代の商業施設」等が今求められています。そして、こうしたことを考えている中で、「シェア」は重要なキーワードの1つとなっていると述べられました。
次に「りくカフェ」の取り組みについて、後藤さんからご紹介いただきました。今回は、介護予防事業「スマートクラブ」について詳しくお話いただきました。
後藤さんは、大学院生時代より、住宅や空き地などの私有地を地域のまちづくりに活かすための制度や取り組みについて研究されています。今回お話いただいたりくカフェも、内科医をされていらっしゃる方の私有地を活用したものであり、自分の研究がお役に立てればと、関わるようになったそうです。
陸前高田市は東日本大震災により壊滅的な被害を受けました。りくカフェは、震災後の2011年冬、「地域の皆が集まり憩える場所」を目指してスタートしました。医療関係者が多いという運営メンバーの特性を活かし、「心と身体の健康」をテーマに活動されています。陸前高田市は、被災した沿岸地域の高齢化率が30%を超えるなど、深刻な高齢化が進んでおり、介護予防をどのように進めていくかということが課題となっています。2014年度には社会実験として実施し、今年度から本格的に介護予防事業「スマートクラブ」を始めています。
スマートクラブの三原則は、「①正しい食習慣を身につけよう」「②短時間の運動を毎日続けよう」「③生きがい創りは幸せ作り」というものです。「食事」「運動」「生きがい」という3つの相乗効果を図り、「楽しい」ということを大切にして活動を進めているとのことです。
2014年度の社会実験の際には、60代前半から80代前半までの幅広い年代の8名が参加しました。プログラムは全5回、毎回、血圧や体重測定から始まり、インストラクターによるストレッチ体操、食事や口腔ケアに関する健康ミニ講座、昼食会、というように進んでいきます。このプログラムは大変好評で、1か月後に行われたインタビューの際にも、参加者の多くが、このとき学んだ食事、運動、咀嚼等を取り入れた生活を送っていると答えたとのことです。
最後に、後藤さんは、りくカフェの今後の展望についてお話されました。後藤さんは、今後3つのことを考えているとのことです。1つ目は、地域の健康づくりの核としての役割の役割を担うこと、2つ目は、健康づくりの担い手を育成すること、3つ目は市内全域に健康づくりを広めることです。
成瀬さん・後藤さんのご講演の後、約1時間程度の質疑応答の時間が設けられました。シェアスペースを設計する方法についてより詳しく尋ねられる方や、コミュニティ・カフェの運営の方法について尋ねられる方など活発な意見が交わされました。
成瀬さんの話から、コミュニケーションが重要視される現代におけるシェアのスペースの可能性について考えることができました。ハード面およびソフト面を考えた設計をすることで、今までにない付加価値をスペースに付与することができると強く感じました。
また、後藤さんから「りくカフェ」についてお話をうかがう中で、地域の方々の力を活かした取り組みの可能性を感じることができました。民間ならではのきめ細かい活動や地域の人と外部の人とつながりなど、高齢化社会について考える上で重要な観点となると感じました。
今回お話いただきました成瀬友梨さん、後藤智香子さん、お集まりいただいた参加者の皆さま、どうもありがとうございました。
〔ラーニングフルエイジング研究会・アシスタント: 原田悠我〕