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2014/08/09

【開催報告】公開シンポジウム:知をひらく、知をつなぐ。―『知の技法』から20年―

 2014年7月19日(土)に公開シンポジウム「知をひらく、知をつなぐ。―『知の技法』から20年―」が開催されました。
 このシンポジウムは数十年で大きく変わった大学や知の可能性を議論するため、『ドーナツを穴だけ残して食べる方法』(以下、ドーナツ本)を出版した大阪大学「ショセキカ」プロジェクトと福武ホールのUTcafeでカフェイベント『UTalk』を行ってきた東京大学大学院情報学環UTalkチームの主催で行われました。

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 まず最初に基調講演として、20年前に『知の技法』を編集された小林康夫さん(東京大学大学院総合文化研究科)が登壇しました。『知の技法』は東京大学の教養課程の学部生向けに学問のやり方を教える教科書として作られましたが、一大学の教科書を超えベストセラーとなりました。
 小林さんは冒頭に、この講演ではパソコンによるスライドを使わないとの宣言をされました。理由は2つあると説明されました。ひとつは、講演では話し手が伝えたいことを伝えるのではなく、聞き手が伝えて手の話したことを頭で構成する姿勢が大事だと考えるからだそうです。2つめの理由は、スライドはその場でのアクシデントやアドリブに対応をできないことが欠点で、聞き手の様子を見ながらその日その場だからこその話を現場で組み立てて伝えたいからだそうです。
 小林さんが『知の技法』を編集する際に意識していたことは、大学における「開かれた濃密さ」の重要性と、知とは「行為」であるという思想だったそうです。大学は従来内に閉じた「象牙の塔」であると揶揄もされてきましたが、そうではなく大学は社会に向けて開かれているべきであると考えたそうです。同時にその知は開くことによって薄まるものではなく、濃密であることが重要でした。一方、その知はどのような個人の行為であるかが問われると考えたそうです。知はフランス語で「savoir:できること・能力」と表されます。すなわち、知とは知識を集積したものではなく、知的な行為として使えるものである必要がある、と考えたのだとか。
 『知の技法』の出版から現在まで、小林さんは大学同士のネットワークをつなぐことに注力してきたそうです。それは大学の中に人類の課題解決のための大きな可能性を見いだしていたからだそうです。大学は世界中のあらゆる場所に存在していて、それぞれの現場では個人の知的行為を通じた「弱い思想」が生まれています。ビッグなイデオロギーが失墜した現在、その各々の大学で生まれた「弱い思想」をつなぐことに大きな希望を感じているそうです。
 現在の知をめぐる状況について小林さんは、研究者が経営者化していて人文知があまり読まれず、結果的に自由な場所である大学が衰退してきたと言います。そして、今学生に向けて新しい本を作るとしたら、身体・メンタル・言語に関する本を作りたいとのこと。大学から自由が失われていく現在、その本を使って学生に生き延びる方法を教えたいのだという小林先生の言葉で講演が締め括られました。

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 次に「話題提供1」として登壇したのは大阪大学「ショセキカ」プロジェクトのみなさんでした。お話はドーナツ本が出版されるに至った経緯から始まりました。このプロジェクトが始まったのは2012年当初は有志で活動していたそうですが、その後授業として展開していきました。その後、授業内や大阪大学出版会でのコンペを経て、企画が正式採択されたのが2013年の3月そしてついに2014年の2月に出版に至ったそうです。
 授業を担当した中村征樹さん(大阪大学全学教育推進機構)によれば、ドーナツ本を作る際に意識したことは、主に3点あるそうです。第一に、知の受け手としての読者から知の作りとしての読者を意識していること。第二に、現在進行形の知をみせること。第三に、プロジェクトの不確実性を尊重したことです。これらの3点は実は知の技法や小林さんの思想と相通じるものがあるのだと中村さんは言っていました。
 授業を受講していた平野雄大さん(ショセキカプロジェクト代表学生)は、実際にプロジェクトとして活動する中でぶつかった壁や工夫したことについて話されました。執筆依頼をした際にアポなしで先生の研究室に行って門前払いされたり、「穴だけを残して食べる方法」というそのままのテーマでは書けないと言われたりした結果、研究内容を調べてメールで依頼し、書籍を2部構成にして必ずしも「穴だけを残して食べる方法」そのものに焦点化しなくても原稿を書いてもらえるようにしたといった話を紹介していました。また、送られてきた原稿を確認したところ、理系の先生の原稿は内容が専門的である場合が多く、内容がしっかり理解できるように、文系の学生が読んだ意見も参考にして物質名などを最低限にするといった工夫をしたそうです。
 出版する立場として登壇した土橋由明さん(大阪大学出版会)、川上展代さん(大阪大学出版会)は、このプロジェクトの経験を通して感じた書籍化する意味と大学教育への寄与についてふれました。今日、書籍による出版以外にも情報を伝達する手段はたくさんありますが、あえて「制限されたメディア」である書籍を活用するには、編集・造本・広報・販促に渡って工夫をすることが必要であると言います。この創意工夫において、書店・読者・著者・各コラボ団体など様々なアクターが参加しながら行われていることを感じることができたのが、知と社会をつなぐ「ショセキカ」プロジェクトでの大きな収穫だったそうです。また、大学での教育という側面では、本作り自体を授業化するという教員との協働やサポーターやコーディネーターとしての学生との協働が行えたことによって、出版という作業を通して学生の知能・技能の獲得につながったのではないかとのことでした。


 続いて「話題提供2」として東京大学大学院情報学環UTalkチームが登壇しました。UTalkは福武ホールがオープンした2008年3月に第0回を開催し、月1回のペースで福武ホールのUTcafeを会場に開催されています。
 UTalkを始めた時から関わっている森玲奈さん(東京大学大学院情報学環)は、UTalkが始まった背景として、研究者と話をする場を設けたいというUTalkチームの意思とゆるやかな学びの場・緩やかな知の場であるカフェの存在があったと言います。
実際にUTalkではどのようなカフェイベントなのかについては、池尻良平さん(東京大学大学院情報学環)が説明しました。UTalkが実際に行われている場面の映像によって、その回のゲストである研究者の方が実際に人や物を使って自分の研究を説明している様子が紹介されていました。
 また、佐藤優香(東京大学大学院情報学環)さんは裏方としてのUTalkチームの役割を紹介されました。事前にゲストとして呼ぶ研究者の方と打ち合わせをする時、当日の進行をする時、それぞれにおいて、ホスト(その回を担当するUTalkチームのメンバー)が気を付けていることとその背景にある考え方を説明しました。佐藤さんによれば、ゲストの方との事前打ち合わせでは、研究のどの部分を話してもらうのかを決め相談しながら、ストーリーのイメージを確認していくのだそうです。その上で、ゲストとホストが一緒にタイトルを考えるのだとか。当日の進行では、ゲストと参加者のコミュニケーションを円滑にするために、わかりづらい部分の聞き直しや言い直しをするように心がけているそうです。
 森さんは最後にUTalkの想いと広がりについてふれました。UTalkが行っていることは、対話を重視し、一つの時間を共有する中で知をみつけていくことだそうです。そして、自分たちで学びを作っていくことができる人たちを増やしていくことが一つの目標だと言います。UTalkを参考にした取り組みは同志社大学や京都外語大学といった他の大学にも広がりをみせており、コーヒーと対話マインドがあればカフェイベントは開催できるというUTalkの考えの実例ともなっているのとのことでした。


 最後に小林さん、「ショセキカ」プロジェクト、UTalkチーム3者のメンバーによるパネルディスカッションと会場からの質問を受けたフロアディスカッションが行われました。

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 パネルディスカッションではまず、知をつなぐ主体の役割が論点になりました。小林さんはショセキカ・UTalkの両者において、知をつなぐ人が表舞台から消えていることが興味深いと指摘し、なぜそうなっていて、知をつなぐ人はそこにどのような喜びを感じるのか問いかけました。ドーナツ本では、授業の主催者である中村さん個人の名前は表に出されず、あくまでもプロジェクトの一メンバーとなっています。中村さんによれば、このプロジェクトは同僚と話しながらコラボレーションの中で作られていったもので、誰かが主導して作られてものではないため、自分が知をつなぐ主体で表に出たいという意識はなかったそうです。一方、UTalkチームでも、UTalkは知をつなぐ舞台を作るのがメインであり、実際のイベントがどういう形になっていくのかは主催者としては関与していないため、サポートすることで十分に役割を果たしていると感じているそうです。
 また、もう1つ大きな論点となったのは、文系分野と理系分野の知の関係でした。小林さんは、理系の先生が問いかけているのは、具体的に客観的な「もの」が動く事柄であるので、スライドでプレゼンテーションがしやすいが、人文系は物質として指させない人の思考という主観を扱っているためプレゼンテーションにむかないと言います。ですが、今の大学は理系が基準になっていて、人文系の学問でもスライドでプレゼンテーションをしようとしており、これが人文系の知が衰退して行っている一つの要因ではないかと小林さんは考えているそうで、両者はどのようにこの知の関係をとらえているのかを問いました。この問いに対して、UTalkチームは人文系の先生も多く呼ぶようにしていると言います。UTalkでは、1人1人の研究者の中にあるものを共有するイベントであるため、成果以上に方法や人柄にフォーカスしているそうです。人文系の研究者は方法にフォーカスするととても面白く魅力を伝えられることが多いと佐藤さんは語っていました。一方、ドーナツ本でも人柄にフォーカスする工夫をしたそうです。平野さんによれば、理系の先生は事実を中心に原稿を書く特徴があるため、人によっておもしろさが2分してしまいます。そのため、原稿の導入として、先生の感じたことや経験したことを書いてもらうことで分野の違いを超えて読書に入りやすくなる工夫をしたのだそうです。


 最後に小林さんは、知をひらく場は、知識ではなく技術や態度がマネジメントするものだと語り、会を総括しました。
 このシンポジウムは3者がそれぞれの立場から知をひらく、つなぐための思想や技術を語り合う場となりました。それぞれ立場の異なる3者がコラボレーションしたことで、会全体を通して知の性質や知と社会のつながりとは何かということを考える場になったと感じました。お足元の悪い中会場にお越し下さった参加者の皆様、ありがとうございました。

[文責:中野啓太]