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2018

2013/06/17

【開催報告】公開研究会「ミライバ」第1回:被災地に人のつながりをとりもどす

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公開研究会「ミライバ」
第1回:被災地に人のつながりをとりもどす
― 陸前高田コミュニティカフェプロジェクト 「まちのリビング」 ―
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 今まで独立して存在していた「家」「学校」「コミュニティ」の敷居が、近年徐々に低くなってきているように思います。東京大学 情報学環・福武ホールとミサワホーム総合研究所が開催する、公開研究会「ミライバ」では、この変化めまぐるしい現代社会のなかで、大きく意味が変わりつつある「場」の未来について考えていきます。

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 その記念すべき第1回が、5月31日(金)福武ラーニングスタジオで開かれました。
 今回のゲストは、東京大学大学院工学系研究科の小泉秀樹さん(都市工学専攻・准教授)。小泉さんのご専門は、都市計画、コミュニティ・デザインです。研究会前半にご自身の取り組みについてお話をうかがったうえで、後半には集まった14名の参加者からの質疑に応えながら、人のつながりをつくりだす空間に必要な要因についてディスカッションをおこないました。

 「日本における『コミュニティ・デザイン』は、元々は物理的な空間づくりが中心でした。コミュニティでの活動や組織のデザインを現代的コミュニティ・デザインの射程としたのは、まちづくりを対象とした僕らのグループでは1990年代の後半からで、2000年以降は情報デザインなどの領域でも同時に同じような考えをもつ方が現れるようになってきたように思います」と話す小泉さんは、被災地におけるコミュニティ・デザインにおけるデザイン対象を(1)物的環境(2)活動主体・担い手(3)他組織との連携・協働体制の3つに定義づけます。そのなかでも、デザインの過程において、空間のなかで行われるアクティビティやその持続性、担い手同士や他の組織との協働といった人との関係性に重点を置くのが、小泉流。今回は、2011年に起きた東日本大震災における被災地での仮設まちづくりについて事例を交えながらお話しいただきました。

 遠く離れた東京では、東北における復興はあたかも完了したかのような響きをもって伝えられています。しかし実際のところ、被災者の暮らす仮設住宅事情は、あらたな困難に直面しているのが現状です。高密で環境の悪い仮設住宅での暮らしにくさとあわせて、震災直後の緊急的な仮設住宅の建設計画には、中長期的な展望をもつ余裕がなく、やむを得ずコミュニティとしての持続可能性が低くなってしまうと言います。


miraiba_03.jpg そのような被災地の状況のなか、岩手県釜石市平田地区の仮設まちづくりで、小泉さんがはじめにおこなったのが、住民へのインタビューでした。実際に暮らす生活者の声から、現在の避難所ないし仮設住宅での問題点を掬い上げることが目的です。「自家用車をなくして、移動が不便」「家から仮設店舗や病院へのアクセスが悪い」など、住民の声をもとに、原案を何度も練り直し、そのなかで行なわれる住民の活動を想定しながら、施設の配置をはじめとする物理的な環境をデザインしていきます。それとあわせて、小泉さんは、コミュニティの持続性を担保するための仕組みづくりにも注力されています。とりわけ平田地区でのまちづくりでは、仮設商店の商業者組合、住民どうしの連合自治会、メンタル・フィジカル両面からのケアを行うサポートセンター、さらに外部支援組織を含めた「平田総合公園仮設まちづくり協議会」を運営体制として組織しました。小泉さんはあくまでも、この協議会のコーディネータ役。住民自身がコミュニティの担い手として、問題を解決できるような仕掛けをつくり、住民それぞれが成功体験を積み上げながら、自信をもって暮らすサポートをしているにすぎないと言います。

 小泉さん自ら、住民の意見を掬い上げながらスタートさせた釜石市平田地区のまちづくりに対し、そもそもの住民の発意から始まったプロジェクトもあります。岩手県陸前高田市での「まちのリビングプロジェクト:りくカフェ」です。この地区は、もともと同じコミュニティに暮らしていた人どうしが集まっており、住民からあがった「震災によって失われた地域の憩いの場を作りたい」という声がきっかけだったそうです。すでにあるコミュニティを生かし、外部組織を巻き込みながらデザインを進める場合、決して身内だけの排他的な空間に終止してしまわぬよう、ワークショップやイベント等での風通しを良くする工夫が必要になります。「居場所(Place)というものは、基本的に『誰かの居場所』としてあるもの。miraiba_04.jpgそのため『みんな』が利用する居場所になることは難しい。そこで、ある程度メインユーザーを想定しながらも、メインユーザーが色々な方に居場所を開くような形で活動を展開するような発想で考えていく」と小泉さんは言います。また「りくカフェ」では、インテリアや内装を工夫し、人と人との交流が生まれる仕掛けを施したこともご紹介いただきました。

 会場の参加者からは、それぞれの興味にもとづいた質問が多く出されました。なかでも「外部者としてのコミュニティへの入り方やコミュニティでの関係づくり」は大きな問いとなりました。小泉さんは、コミュニティのなかに入る際、キーパーソン探しから始めるそうです。キーパーソンどうしのつながりから輪を広げ、コミュニティ運営の人的な基盤をつくること、またコミュニティ・デザインに関わる専門家や外部支援団体と住民を引き合わせること、それがコミュニティ・デザインの初期段階でのコーディネータの役割となります。
 そのほか、他の地域への転用性やコミュニティ成立条件についての質問もあがりました。それに対し、小泉さんは「『理想的なコミュニティとは何か』という概念的な議論は、実践研究においては不毛なもの」だと言います。具体的な人と人とのつながりや、生起した具体的な活動の積み重ねこそがコミュニティを形づくるものです。理想的なコミュニティを定義することと同様に、コミュニティ・デザインをパッケージ化することは極めて難しいと言います。「事例をあえて一般化せずに、個々のコミュニティに寄り添うからこそ、産み出される成果がある」との小泉さんの言葉には経験に裏打ちされた重みがありました。

miraiba_01.jpg 昨今、単なる施設の整備を越えて、社会的関係の再構築を促すハード・ソフト両面への統合的アプローチが求められ、ますます行政・民間・市民がともに取り組む必要がでてきています。災害時という早急性を要する状況にあって、そこに暮らす住民との丁寧なコミュニケーションから持続可能なコミュニティをつくりだす小泉さんのお話は、「ミライバ」づくりへのひとつの重要なアプローチと言えるでしょう。
 
 今回お話しいただきました小泉さん、そしてお集まりいただいた参加者の皆さま、どうもありがとうございました。

[ 特任専門職員:野口雅乃 ]