MOOCと反転授業で変わる21世紀の教育
講演
サンノゼ州立大学におけるMOOCと反転授業の実践
Mohammad Qayoumi
スタンフォード大学/教授
MOOCと反転授業が、学習プロセスに大きな影響を与えたこと、もっと大きなインパクトを学習に引き起こすことを申し上げたいと思います。
サンノゼ州立大学について
サンノゼ州立大学は西部で最古の州立大学で、シリコンバレーの中央に位置しています。このあたりの大学全部あわせた数より多くのエンジニアを産出している大学でもあります。工学で特に有名(公立大学で全米第二位)です。これまでも20年くらいの歴史のあるオンライン学習プロセスを運用してきました。
高等教育の岐路
世界の人口の81%がモバイル端末を使っている現在、人々の情報へのアクセスはとても簡単になりました。今までは、一部の人しか知識を持てなかったのに対し、今は多くの人が情報にアクセス可能になったことにより知識を持てるようになりました。つながるデバイスの普及により教育の力学が変化しているのです。学習においても、未曾有の変化がおこると言えるでしょう。Amazonなどのインターネットプラットフォームはサプライチェーンモデルを変え、Facebookが人々のプラットフォームとなり世の中は大きく変化してきました。それと同じように教育もグローバルに、モバイルにできると考えます。
今の大学生は卒業して41歳になる時までに10回程転職している可能性があります。大学を出ただけではすまなく、知識をどんどんアップデートしていく必要があり、それを支えるための生態系が必要になる時代が来ると考えられます。高等教育は岐路に立っているといえるでしょう。
高等教育の変革における4つの重点課題
1つ目は、サイバーセキュリティーです。
どんな技術でもダークサイドがあると考えています。小さい子も含め全ての人が健康的に情報技術を活用できることが求められています。サンノゼ州立大学のシステムは心理学の専門家も入って作っています。
2つ目は、ビッグデータです。
「データは新しい石油である」と言われるようになった、21世紀において、ビッグデータをどう扱うかが鍵になるといえるでしょう。ビッグデータの利用により社会科学や人文学も大きく変わると思います。直感に頼るのでなく、データを利用することで知識のベースや情報が様変わりしていくでしょう。
3つ目は、予測解析です。
シリコンバレーと同じように、大学でもデータオフィスが大きな役割を果たすようになるでしょう。大事な大学戦略を組み立てる人も必要になると考えます。
授業をオンラインにすることで、宿題にどれくらい時間がかかったかなどのデータが今までとは比べものにならないくらい取れるようになりました。この大規模学習データを使った予測解析はますます重要なものとなるでしょう。
4つ目がMOOCです。
2012年はedX、Coursera, Udacity をキープレーヤーとするMOOCの年でした。最初のMOOCはカーンアカデミーから始まりました。様々な組織が大量のMOOCを公開していますが、やり方がそれぞれちょっとずつ違います。
edXは、人の集中力が続くのが最長で7分なので、集中が切れない範囲で5-6分程の短い動画クリップを配信します。最後に必ず小さな質問の時間が設けられ、受講者が積極的に参加するようにデザインされているといえるでしょう。
Udacityは、個人授業を家庭教師から受けているようなイメージで黒板に人がいろんなことを書き込んでいきます。複雑な問題を解けるようになるために、最初に質問が提示され、そのあと答えの見つけ方について少しずつ情報を出して、学生が自分で解を求められるように促しています。
Courseraは一流大学の様々な講座を世界中で無料で提供しています。学生数はMOOCの中で最大です。
サンノゼ州立大学での反転授業とMOOCの活用
サンノゼ州立大学では、はじめにMITのedX講座を用い反転授業を導入しました。教授は授業の視聴の様子を観察し、受講速度、同じ箇所を何度見たか、等から難しい所を特定し、授業では一番難しいことを中心に教えるようにしました。結果、通常授業では、59%しか単位を取ることができていなかった必修科目において91%の学生が単位取得に成功しました。
2番目の取り組みでは、Udacityの授業を導入しました。教材は自分達で作りました。低コストで授業を提供したいと思い、150ドル3単位で講座を実施し、メンター制度を導入しました。わからないところについてはいつでも助けを求められるようにしました。2,000人が受講料を払って受講した一方で、94,000人がMOOC(のみ)で学習しました。受講料を払った学生の中でも州内からはたったの7%で、残りの93%は州外または国外から受講し、Google+やチャットを使って学習しました。
履修者の50%が高校生だったこの授業の合格率は、春のコースでは対面方式より低いものとなりました。高校生の履修者には、家庭にPCがない人、学校で30分しか使えない人、また長いメールが読めない人が少なくなかったことが原因としてあげられるでしょう。これを踏まえ、秋のコースでは、履修前にいつ、どのように勉強したら良いかをガイダンスすると、いくつかの授業で高校生の合格率が大学生の合格率と変わらないという結果を出すことに成功しました。
私は、オープンウェアモデルにはいろんなものを入れたいですし、また、高校生もアクセスしてほしいと思っています。高校生がアクセスすることで、補習も可能となりますし、大学で学ぶことも先取りができます。それは、大学に入ってから良いスタートラインにつけることや、インターンやサービスラーニングなど高いインパクトの活動ができる時間を作ることになり、その後のキャリアや人生へと繋がることでしょう。
新しいテクノロジと新しい学習の生態系
MOOCに加え、さらにグーグルグラスなどの新しいテクノロジの出現・普及により、人がどうやって学習するのかの情報を大量に得ることができるようになるでしょう。この情報は知識を生み出す源泉にもなれるのです。新しいテクノロジにより教育は見直され、もっと関与的になり、新しい学習の生態系を作るでしょう。それはローマ数字で計算していたのをアラビア数字にするような、まさに革新です。
「すべてコントロールできている気がしたときは速く走っていない時だ」ともいいます。つねに挑戦しながらよりよい方法を探していきましょう。
Seminar Report List
2016
2015
2014
- 2014. 9.24 開催
反転授業公開研究会 - 2014. 5.24 開催
反転授業のデザインと評価手法
先駆者に聴く、反転授業の概念と実践事例 - 2014. 2.12 開催
授業の常識をひっくりかえす! 『反転授業』を考える