第10回:「場」の未来を問い直す
― 公開研究会「ミライバ」最終回 ―

パネルディスカッション 

  • 佐別当隆志(Miraie)
  • 楊麗璇(Miraie)
  • 松田朋春(グッドアイデア株式会社 代表)
  • 後藤智香子(東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻 特任助教)
  • モデレーター:早川克美(京都造形芸術大学 准教授)
公開研究会「ミライバ」開催報告

(モデレーターの早川さんから質問が投げかけられるかたちで進められました。) 

Q. Miraieが地域にどのように広がったのでしょうか?そのプロセスを教えてください。
佐別当 Miraieは建設当初からの構想でしたが、家がシェアハウスということもあり、ご近所さんに一通り挨拶にいきました。下町に近いような場所なので高齢の方も多く、町内会をやっている方も多いのですが、若い人がチャレンジすることや色んな人が街にくることを歓迎していただいて、最初にワークショップをやった時には副会長さんがお祝いの花をおくってくれるような関係ができていました。

Q. 現在シェアタウンの構想もあるということですが、それにあたってはどのような話し合いがもたれていますか?
佐別当 それについては専門家の方にも相談したいのですが、表参道にCOMMUNE 246 *という場所があり、そこは友人が運営しているのですが、そんな場を自分たちで作れたら良いなと思っています。建築家の人に相談したり、何十年も町おこしをしているドンのような存在の人からも若い人がこんな取り組みをしているんだと興味を持っていただいていて、その方は役場からの信頼もある方なので、一緒にできないか相談しているところです。
*) COMMUNE 246:南青山にあるコミュニティスペース。オープンエアドーム型の共用スペースを中心に、「フードカート」や「カフェ」、「シェアオフィス」、ユニークな講義を展開する学びの場「自由大学」が集まった場所。(http://commune246.com/

Q. Miraieでお子さんを育てるにあたってどんな影響があると思いますか?
佐別当 いろんな大人と関わるため、現時点で日英中の三か国語がしゃべれるようになっています。最初は恥ずかしがりますけど、1、2日すれば普通に色んな言葉を使ってしゃべっていますね。

公開研究会「ミライバ」開催報告

Q. りくカフェには外部の方がどのように関わってアドバイスをしているのですか?
後藤 物理的に距離が離れているのでたくさんというわけにはいかないのですが、震災直後は2回くらい、現地に赴き、地元の方と打ち合せをしていました。建築家の方は建築のサポートをし、私は運営などを一緒に考えていました。介護予防事業についても市の方にお声かけしています。

Q. これらの企画を長い間継続していくためにはどのようなことが必要だと考えていますか?
後藤 金銭的な自立化については少しずつ考えています。現在はランチを提供しているため人を雇う必要があり、人件費が一番かかります。ランチの売り上げや復興関係の費用、介護予防こと業などから捻出して、自立化を目指しています。あとは地元の方がやりたいことをサポートすることに徹しています。

Q.. 松田さんの中では「伴走者としてのアーティスト」をどの段階で構想されていたのですか?
松田 スパイラルに入って初めてアーティストと名刺交換をした時に、彼らはいきなり仕事のコンセプトを話すんです。普通、社会人は所属と肩書きしか話さないし、自分の役割しかいわないでしょう。それが印象的で、彼らを仕事の中に入れると、仕事を根本から変えるような効果があると直感したんですよ。実際、アーティストを仕事の中に入れると議論が深まる。役割ではなく個人の全体性というかひとりの市民としての批評性が消えないから。アーティストを表現者として考えているわけでなく議論の触媒として捉えている。もうひとつは、作り上げる経験値を持っていることも大事。そこから、ちょっと極端だが、「あらゆる仕事はアーティストが入ることで良くなる」と考えるようになりました。

Q. 前例がないことに消極的な事業者をその気にさせる秘訣は何処にあるのですか?
松田 こっそりやることはこっそりやって小さな前例をつくる。そして1つずつ安心してもらう。見たこと無いからできないというのは無理もないけど、見たことないけどダメな理由がなければ基本やってよい、という習慣に変えるのが寛容性の開発だと思うんです。粘り強くやるのが大事なことだと思います。 

Q. ピノキオプロジェクトが10年続いたのはなぜでしょうか?
松田 続く仕事と終わる仕事の違いは明確にあって、続く仕事は形式がきちんとしていることが大事。ピノキオの場合は「子どもが街で働く」という一点が明確です。繰り返せるスタイルが明確でそれなりに手応えがあると止められなくなるんです。スタイルが弱いと迷ってしまってすぐに続かなくなってしまう。最近は自分たちがやりますというお母さんたちが出て来ました。ようやく根付いた感じを持っています。

Q. 今はディベロッパーや資金が入っている状況ですが、それらが手を引いた時にどのようなものが残るとお考えですか?
松田 最初はアートでスタートしたのは何も無かったからです。アートの良いところは何も無くてもはじめられる点です。今はスマートシティというテーマで分散しているので、アートは選手交代しても構わないと思っています。でも、これだけ街の人から支持されているのだから、どこかでバランスをとりながら絆みたいなものとして残るだろう。0になることは無いと思っています。

公開研究会「ミライバ」開催報告

Q. アートという意味では佐別当さんの暮らしの中にもアートを用いていますが、暮らしの中でのアートの効用を教えてください。
すごく創造的な時間を家で表現できることです。娘のスカーフのデザインも、「これやりたい」というところから始まり、3人で一緒に作りました。アートの視点から学ぶのはとても楽しくて学校では身に付かないことも自然に身に付くので、こどもが勝手に成長するし、自分も楽しいです。
佐別当 街の中にアートがあると面白いという話でしたが、家の中にアーティストがいるのもまた面白い生活になると思います。例えば音楽のアーティストにきてもらって、特別な技術が無いと音楽ができないとかではなくて、風船やペットボトルで音楽を作るなど、日常の中にアートを組み込めるワークショップをしてくれるのでそこが面白いと思います。

Q. アートに関して「岡さんのいえ TOMO」ではどんな取り組みをしていますか?」
後藤 アーティストの方は入っていないですが、60〜70代の男性でもともと建築系の仕事をされていた方が芸大、美大を出ており、その方の発想や工作の力がすごくて、パンフやチラシなどを作って下さっていていつも助かっています。そういう意味で活動に密着していると思います。その方がアートに関して出張に行って総合学習の時間に授業をしたりしています。

Q. 3人に最後の質問です。3人は関係性のデザインをしているという印象ですが、これからの場のあり方はどのように考えられていますか? 
佐別当 僕はサラリーマンで妻は主婦ですが、Miraieみたいな家は誰でも真似できる家にしたいと思っています。妻は大学でホテルなどの勉強をしているのですが、自分の家がホテルになるとした時にリビングでくつろげないんです。だから誰でもできるけど、誰もができる訳じゃないと妻は言うんです。
まず人を好きじゃないといけないです。あと視野が広いことが重要です。
佐別当 本当はハードな話が多いと思うんですけど、人作りをしていかないと未来の場は作れないと思っています。
後藤 専門が都市計画の私が、プライベートな空間から入っていった理由は、都市計画の考える際に、これまでは住環境の劣悪な所については公共のお金を使って改善していくか、全員が合意してルールを作るかの2つの視点で、普通の街をどうしたら良くできるか考えてきました。そうすると地域の人全員が合意してルールを作るのは無理なんじゃないかと思い、それならできる人から少しずつ環境を作って場を作っていくと少しずつ良くなっていくのではと考えました。1人ひとりができる範囲で手を携えながら場を作っていくことが重要だと思っています。
松田 「隣人」って言葉がキーワードで、私はこれまで仕事の中でたくさん掛け合わせをやってきたんですけど、かけ算をすると一瞬すごいことが起こるけど、結局もとの2つにわかれて戻っていきます。それより、隣り合ってゆっくりと影響しあうことの方が大事だと思うようになりました。私は詩の活性化の仕事もしていて「詩人の隣人化」という言葉をよく使うのですが、詩人の人口は少ないので、詩人を見たことない人も多いし、珍獣を見るような感じになってしまうのですが、生き方が違う人たちと接点を持つだけで気付くことも多いでしょう?だから、友人というほど近くなくてもいいから居場所が分かっているというか、必要な時に声が掛けられる関係だとよい。かけ算疲れや活性化疲れはしがちですが、強い作用を求めるんではなくて、いろんな隣人を知っていて、必要に応じて呼び出せる温度感が大切なことだと思います。 

ミライバ事務局( NPO法人Collable ):山田小百合



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