第10回:「場」の未来を問い直す
― 公開研究会「ミライバ」最終回 ―

ゲストトーク

佐別当隆志・楊麗璇(Miraie)

公開研究会「ミライバ」開催報告

Miraieの事例を取り上げたのは、2013年12月に開催された第3回ミライバのときでした。実際にMiraieを会場にさせていただきました。そこから現在のMiraieがどんな進化を遂げているのか、佐別当さんと楊さんにお話をうかがいました。Miraieは大崎駅がもよりの場所にある3階建ての一軒家。建設する以前からシェアできる家にすることが決まっていました。もともと佐別当さんと楊さんは同じシェアハウスに暮らしていましたが、お子さんが生まれるタイミングで子育て可能なシェアハウスがないことに気づきました。シェアハウスで色んな国籍の人たちのコミュニティで過ごす事が凄く楽しかった経験から、実際にこれから家族のあり方も凄く変わっていくんじゃないかなと思った佐別当さん。一方でこどもができるからコミュニティが狭くならざるを得ない現状に疑問を感じます。「未来の家を考えた時に、長期で住む人と短期で住む人を一緒にした家を造ろう」そう考えて生まれた家がMiraieでした。
Miraieのコンセプトイメージは長屋。家の中でシェアメイトとゲストと近所の人とが関わりつつ、イベントを通してさらに多様な人が出会える場。それは「家の中にフューチャーセンターを作れないかな」と言う佐別当さんの言葉の通り、多様なコミュニティが入り交じる家へと進化しました。 絶えることなく短期滞在のゲストが世界各国から訪れ、ニューヨークタイムズなど海外メディアの取材を受けることもあります。実際にこれまで訪れた短期滞在ゲストは200〜300人。異文化交流を目指しているため最低3泊から受け付けているそうです。実際にゲストと一緒にご飯を食べたり、地元の商店街で交流してもらったりもしているそうです。
玄関は2階。家の1階に3部屋の個室があり、2部屋に2人住んでおり、1部屋がゲストハウスとして構成され、そこにシャワーとトイレが完結するようになっています。2階はリビングキッチンとして共有スペース。3階は家族が生活しています。
共有スペースであるリビングが交流の場。招く側として、「年齢や国籍を超えてみんなで楽しめる」「いろんなひとたちが来る」「誰もが日常生活で取り入れ易い」「関係性を作る」「ストーリーを通じて学習に繋げる」「みんなで作っていく」と言った事を意識しているそうです。そして現在では、実際にワークショップや音楽イベントを行ったり、タップダンスの先生や演劇の先生を呼んだりもしています。特に楊さんが中心となって、Miraieにアーティストを呼ぶ企画が増えたそうで、アーティストを招く事業も始めました。「結果的にはこどもが学ぶ事にもの凄く真剣になってくれて、学んだ事が自分のライフスタイルにもなっている点が良かったです。自分で工夫を行うようになり、普通に勉強させるより効果が出ていると思います」と、楊さんも娘さんの学びを実感しているそうでした。佐別当さんも、アーティストのみなさんがMiraieで企画をすることについて好意的です。「受動的な場と家で一緒にアーティストと作る事では全然違う体験が得られるし、アーティストとは友達になれる。アーティストを呼んで毎月人が集まる事で、自分たちにとって意欲的な場が増えて来て、ダンス教室を自宅でやるような、『こういう暮らしってありなんだ』と気付ける場が増えたと思います。」
そうした経験から、現在ではアーティストなどを自分たちの家に招き、自宅でワークショップを行っている人を紹介するサービスを始めたそうです。楊さんも、娘さんを小学校に行かせずにホームスクーリングさせたいと考えており、自分の興味関心から作る学びの場を、家族でやっていきたいそうです。昨年は家を飛び出して大崎駅でイベントを行い、活動を紹介しながらホットサンドを販売したり、Miraieに来たアーティストに即興でライブをやってもらったりもしたそうです。現在大崎駅周辺は再開発が進んでいます。そのタイミングで周囲の人と協力して、Miraieからもう少し規模を大きくした、シェアタウンみたいなものを作りたいと思っています。1家族だけでできなかったことに、これからもMiraieは挑戦を続けるそうです。

後藤智香子(東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻 特任助教|りくカフェ)

公開研究会「ミライバ」開催報告

ミライバが開催された際、第1回目(2013年5月)に取り上げた事例が、陸前高田市に作られたコミュニティカフェである「りくカフェ」。それから約3年間、りくカフェはどのように変化してきたのか、今回は後藤智香子さんにご紹介いただきました。
タイトルは「わたしからはじまるみんなの場づくり」。「みんなの場」といえば行政の公共施設をイメージされる方が多い中で、これからの社会は「私」の空間ひとつずつがみんなの場になる可能性があると後藤さんは言います。それを象徴する場所の1つがりくカフェです。2011年の東日本大震災の後、2011年の5月頃に建築系の東京の4大学が避難所を回り、住民のニーズを調査したところ、地域の人が集う場が欲しいという声を聞きました。一方で津波の被害を免れた家の中でコミュニティカフェ活動を行う方がいて、この方が地域の方に支援物資を配ったりしていたのですが、自分の家だけでは限界がある状況を目の当たりにします。各仮説住宅地には集会所があるものの、事前予約制で誰でも使える訳ではなく、仮設住宅以外の人が自由に使える環境でもなく、外部のイベントがあるものの住民主体でないので一過性で終わってしまう事が多かったそうです。また、当時のゴールデンウィーク明けに、震災で病院を流された開業医の先生が私有地でプレハブの仮設の診療所をいち早くスタートしました。しかし病院だけでは地域の人も集まりにくいため、スーパーや歯医者さんを誘致したことで、地域の生活拠点になっていました。こうした背景を受け、民間企業とも連携し、仮設の小屋をレンタルする形で生まれた場所がりくカフェでした。当時はボランタリー運営で、地域のお年寄りから若い人、小さな赤ちゃん連れの人まで集い、飲み物や支援で届いたお菓子を出す場でした。ただ、10坪ほどの狭い場所だったことと、活動の幅を広げたいというスタッフの思いもあって、クラウドファウンディングや財団からの支援を受け、広さを倍にしてキッチンとトイレもつけ、スタッフルームもつけるという形でリニューアル。現在はランチが食べられる場所になりました。

2014年の本設リニューアルでは、健康を意識した食事をするカフェである事を意識したそうです。復興を経て商店街やコンビニが復活し始めると、単純に場があるだけでは人が集まらなくなりました。現在のりくカフェ代表がお医者さんだったり、運営に関わる人も医療関係者がいたこともあり、健康をテーマにしたコミュニティの場作りをすることとして、健康を意識した低カロリーな昼食を提供し始めました。加えて、高齢者を対象にした健康に関する「スマートクラブ」という活動もスタート。社会実験期間を経て、現在は市から介護予防事業を受託し、りくカフェ自ら運営しているそうです。2時間の間に健康診断からストレッチ体操をし、30分くらい健康に関する講座を受け、1時間で食事を楽しむプログラム。その他、歯に関すものや、低カロリーの食事をとるための講座なども展開。実際に研究データもとっているそうです。
りくカフェだけでなく、そうした地域のコミュニティの事例は他にもあるそうで、世田谷区「地域共生のいえ」の事例もご紹介いただきました。過去のミライバでも「いいおかさんちであ・そ・ぼ」の事例をご紹介しましたが、「いいおかさんち」も地域共生のいえ。民間の住宅をコミュニティの場にし、財団がサポートするという事例です。後藤さんが運営に関わっているのは「岡さんのいえ TOMO」。2人のクリスチャンが住んでいて、地域の子供達に英語やピアノを教えていた場所でしたが、2000年に家主の方が亡くなってから姪御さんに相続されました。その際に、「この家には地域の人たちと育てていたし、あの家は自分の子供のようなもの」ということを言われていた姪御さんは、悩んだ末に財団と相談し、建築家の方がサポートする形で2007にこの形が成立したそうです。そして現在は、オーナーを中心に地域の内外の人や、地域活動に関心のある高齢者が関わるだけでなく、地域の小学校や児童館などと連携しながら街づくりをしているそうです。

松田朋春(グッドアイデア株式会社 代表|ピノキオプロジェクト)

公開研究会「ミライバ」開催報告

2014年12月に開催された第7回ミライバにおいて、ピノキオプロジェクトの事例を紹介してくださった松田朋春さん。本業はスパイラルでプランナーとして、アートを活用した企画に様々な企画を生み出してきました。スパイラルにいた2000年、プラットフォームによってアーティストやクリエイターを繋いで次世代プロダクトの開発を手がけて以降、これが様々なものの掛け合わせを生み出す始まりでした。例えば谷川正太郎さんと詩を本の外に出すという活動や、顕微鏡で読むガラスの詩集の制作。ダイアログ・イン・ザ・ダークと連携し、見えない方の触覚の鋭さを生かした今治タオルの開発や、横浜では省エネ技術をコンセプトに入れたイルミネーションのフェスティバル、道後温泉で行われたアートフェスティバルのプロデュース…多くの人に知られているものばかりです。
その中でも今回取り上げるピノキオプロジェクトは、柏の葉キャンパス駅周辺を、三井不動産がデベロッパーとなって大規模な街づくりをしている場所。10年ほど前にまだ何も無かったころから地域交流をアートで作るということで始まりました。当初、ワークプロジェクト全体の事を「五感の学校」と呼び、そこにアーティストを呼んで街を学びの場にしていくところから始まります。最初のプロジェクトは「何も無い」ことを逆手に暗闇を利用した光のプロジェクト。2000個のシャンデリア球を画素にして70m四方のモニターを地面に配置し、そこに自分の様子が映ることで、人の気配の無い場所から人の気配が出てくるというプロジェクトでした。その後、3万平米の開発用地に芝生をの種を植え、これから街になる空間を街の人と味わおうという企画を手がけます。芝生を飛行機のかたちに切り抜いたモニュメントは小学校に贈呈されて、地域を結ぶきっかけになりました。さらに、ららぽーとのテナントさんの協力で、福袋にピクニックらしい商品を詰めてもらったり、夏の夜にもピクニックをしたりと、企業や団体も巻き込み「外でやる企画」を生み出します。野外で行ったワークショップも相当数。まさに街の風景を作っていくプロセスを地域の人と共有していく企画でした。
こうした取り組みに見られる特徴は、アートそのものを作るのではなく、街の中にあるものにアートを取り入れていくこと。ピノキオプロジェクトもそうした企画の1つです。ピノキオプロジェクトの主役はこどもたち。こどもを巻き込む理由はこどもを巻き込むと大人が動くからだそうです。ピノキオプロジェクトの大元は、エドワルド・マラジジさんというフィレンツェのアーティストがピノキオをテーマに手がけていたワークショップ。試行錯誤と実践の象徴としてピノキオがあげられていて、様々なバージョンがあり、たとえば中国製の積木を使って大きなピノキオ像を作っているのですが、これを通じて積木の材質などを学び、社会を学ぶワークショップです。マラジジさんの来日にあたり、こどもが街で働く事というテーマに絞って共同企画を行うことになりました。最初に行ったのは、子供を集めて嘘をつくワークショップ。ピノキオは嘘をつくと鼻が伸びるのでなるべく長い鼻、大きな嘘をつこうというものでした。次に働くための衣装を、ひびのこづえさんプロデュースで準備しました。こどもは小さいので、なるべく変な格好をさせる事で、街の人に何かが起こっている事を認識させることができます。UCDKと呼ばれるまちづくりセンターをショッピングモールにして、街の事業所の方にも協力を得て、お花屋、おもちゃ屋、床屋…など様々な仕事を体験してもらいました。独自の通貨「PI!」を発行。通貨の両替と発行を行う場所は千葉銀行さん。未就学児はららぽーとに設置したピノキオバルーンをフットポンプで大きくするという仕事で参加ができるようにしています。シンボルがある事は大事なのだそうです。今年で10年になるピノキオプロジェクト。現在はららぽーと側の理解も進み、ららぽーとの実店舗にピノキオたちが入ることもできるようになりました。ファッションショーのプロデュースや国立がんセンターとのコラボレーションも実現。これらに伴って大人の創造性も育ち、できる事が増えてきたそうです。
最後に、柏の葉のアートの導入の考え方の1つをご紹介いただきました。それは、「市民が何かをする時にアーティストが伴走者となる事で、アーティストのクリエイティビリティが市民に学びをもたらし、コミュニティの変化に寄与する」ということ。アートと街の関係をうみだす重要なポイントだといえそうです。



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