続いて、今日の発表に対する会場からの質問に対して登壇者の方々が回答をしました。
中原氏:「おやこdeサイエンス」プロジェクトでは、今回はNTTドコモさんにご協力を頂いたので通話料はかかっていません。教材の開発費は数百万円ほどです。コミュニティ維持のために、実験の委託などで数百万円ほどかかりました。
堀田氏:「Kids K-tai」プロジェクトでは携帯電話はNTTドコモさんから貸していただきました。教材の開発は数百万円、毎月の通話料は数十万円ほどです。そのほかホスティングサービスで毎月20万円前後かかっています。しかし、これは既存のインフラを用いた金額で、実用化されたときにはどのようになるかわかりません。
中原氏:「おやこdeサイエンス」プロジェクトでは、技術に理解がある我々はPC上のWEBサイトも携帯電話のコンテンツもハイパーリンクを用いたもので、同じように利用してくれると考えていました。しかし、多くの参加者はWEBサイトと携帯電話のコンテンツはまったく別物だと考えているらしく、予備実験のときに、参加者はテキスト中のハイパーリンクを全くクリックせず、一番下までスクロールして次へいくことしかしてくれませんでした。そのため、見て欲しいコンテンツを見てもらえなかったので、コンテンツをなるべく線的に構成するようにしました。あとは、音を出して欲しいという要望が意外に多かったです。ポータブルゲーム機のメタファーを持っているようでした。
西森氏:親の方からは紙でも見たい、PCの大きな画面でも見たいといった要望が出ていました。しかし、子どもからはありませんでした。
堀田氏:「Kids K-tai」プロジェクトでもうまくいかなかったことはたくさんありました。たとえばモバイル学習の問題は、学校の先生が作問する想定でいたが、実際には行われず、人材を投入する必要がありました。見たことが無いから使わない、といったことが起こりえるので、最初は主導していく必要があります。また、悩みを持った親御さんが、先生に直接電話をするといったケースもありました。
秋山氏:Visual掲示板で親御さんが子どもの活動を見ることによって、安心感を得られるケースがありました。また、友達付き合いがうまくいっていないのではないかと心配していた親御さんが、子どもがメールをしているのを見て、安心をしたというケースもありました。
村石氏:他の授業に差し支えがないように、携帯電話を使って良い時間は制限されていたのですが、それを守らない児童もいました。また、取材を行う際に、写真で撮ってしまうと手を動かす機会が無くなり、自分で考える機会が減ってしまうのではないかと危惧しています。
望月氏:「おやこdeサイエンス」プロジェクトに集まった親子は、先行研究のデータと比較してみると、たしかにもともと親和性の高い親子であったと思います。ですが、そのような親子でもプロジェクト以後にはさらに高くなったことは注目すべきことであると考えます。
堀田氏:「Kids K-tai」プロジェクトでは、電車通学をする児童が多い国立大学の付属であったからこそ実現できたことは認めます。公立小学校でこれを実践しようと思った場合、解決すべき問題は様々あるでしょう。しかし、今回のプロジェクトは入り口として意味があったと思います。
ここでそれぞれのプロジェクトメンバーに対して、親野氏と山内氏から登壇者に対して質問が投げかけられました。
中原氏:「しつけ」については現行で予定はありませんが、携帯電話で「しつけ」の教育は厳しいと考えています。何らかの方法は考えられると思いますが。参加した親御さんからは、お菓子作り(おやこdeクッキング)や体育(おやこde体育)といった希望があったのが意外でした。
堀田氏:このプロジェクトを継続する予定はありませんが、「しつけ」も含めて学校での指導内容やカリキュラムにさらに歩み寄ったコンテンツの可能性は感じました。
堀田氏:今の学校教育と携帯電話は相性が悪いと言うことです。しかし、そのままでよいのか、ということです。携帯電話が学習ツールになる具体例を見せていき、学校が携帯電話を上手に活用するようなカリキュラムに考え直させるようにする必要があると考えます。
中原氏:ケータイはケータイであって、Webやゲームではないことを意識する必要があります。もう一つは子どもを取り巻くエコシステムを意識するということです。家庭や学校や塾と言ったシステムに子どもは組み込まれているが、その中でどのようなタイミングで情報を提示したら良いのかを考える必要があります。
山口氏:ケータイを利用した教育のベストプラクティスを作ることの大切さです。ベストプラクティスを通して、ケータイの教育利用の可能性が具体的に明らかになると思います。しかしながら、そうした事例はまだまだ少ない状況にあります。ケータイの教育利用に興味がおありの方は、ベストプラクティスを作ろうとしている人々のコミュニティに参加してください。
山内氏:昨年度のBEATの研究はユビキタス技術に着目をしましたが、今年度は人と人とのコミュニケーションの中から学びが発生することをデザインしようとしました。このような学びをいつでもどこでも実現しようと、ユビキタス技術やモバイル技術に着目はしますが、今回のプロジェクトでそのようなことがとても難しいことを体現してくれました。難しかったとはいえ、人と人とのつながりから「学び」が発生したことを証明するプロジェクトだったと思います。今後も我々は研究を深めていく必要があると実感しています。
今回は、2005年度のBEATの研究を総括するものでした。学習環境で重要なのは、場所や設備といったものではなく、人の存在と、その人と人とのコミュニケーションであり、そこから発生する学びは、それ自体が知識の獲得であると同時に、次なる学びへの動機付けになっているということを実感しました。人と人とのコミュニケーションを研究対象にすることは、学習研究の新たな可能性であると同時に、研究に「人」という不可解な変数が入ってくることを意味しています。色々な意味で学習の研究はこれからとても面白くなりそうな予感がします。