UTalk / 熱力学からみるリズムと同期

尹 松豪

物性研究所 特任研究員

第221回

熱力学からみるリズムと同期

9月のUTalkでは、非線形動力学が専門の尹松豪さん(物性研究所 特任研究員)をお迎えします。心臓の鼓動やホタルの明滅など、身の回りには、一定のリズムを刻む「振動」と呼ばれる現象が多くあります。振動するもの同士が影響し合うと、リズムが揃う「同期」が起こることがあります。尹さんは、エネルギーの流れを扱う熱力学の視点から、振動と同期を研究しています。題材の一つは、一定の周期で動作するスターリングエンジンです。複数のエンジンが同期すると、効率や出力がどう変わるのか。尹さんは、「不可逆性の保存」という性質に注目する新しい考え方を用いて、この問題を調べています。熱力学からリズムや同期を眺める尹さんの研究の世界を、飲み物を片手に気楽にのぞいてみましょう。

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今回のUTalkでは、物性研究所特任研究員の尹松豪さんをゲストにお迎えし、「熱力学の視点からリズムと同期を読み解く」というテーマを扱いました。

「同期」とは、周期運動をするもの同士が影響しあい自然にリズムが揃っていく現象のこと。例えば、複数のホタルが集まることで光の明滅リズムが揃う現象が挙げられます。このようなリズムの一致をエネルギーの流れを扱う「熱力学」から見ると、何が見えるでしょうか。今回は、スターリングエンジンという一定のリズムで動くエンジンを題材に、エンジンはどうやって動いているのか?複数のエンジンが同期することで、熱機関としての性能はどう変わるのか?を尹さんと紐解きました。

今回のUTalkで話題となったのが「熱機関の性能」をどのように評価するかということ。その指標の一つが「熱効率」で、エンジンが受け取った熱のうち、どのくらいを仕事として取り出すことができたか、を表します。熱力学第二法則によって、理論的に到達できる最大の熱効率である「カルノー効率」が決まります。しかし、カルノー効率に近づくためにはエンジンをゆっくりゆっくり動かす必要があり、単位時間あたりに取り出せる仕事である「仕事率」は小さくなってしまいます。そのため、実際に動く熱機関を考えるときには、熱効率だけでなく仕事率も重要になるそうです。

こうした熱機関の性能と関連して尹さんが特に注目されていたのは「複数のエンジンの同期」。複数のスターリングエンジンをつないで互いに影響しあうようにすると、条件によってはそれぞれの回転リズムが揃う「同期」が起こります。そして、エンジン同士をつなぐことで、個々のエンジンを独立に動かした場合と比べて、全体としての熱機関の性能が向上することが分かっているそうです。尹さんは、このような熱効率の向上がなぜ起こるのかを、熱機関を「力」と「流れ」の応答関係として捉えることで説明されていました。さらに,スターリングエンジンの「不可逆性」を保った物理的な描像を再構築することで、従来の応答関係に基づく解析よりも、元のモデルの結果をよく再現できることも示されました。こうした異なる視点から、エンジンで起こる現象を数式できれいに表されていた姿が印象的でした。

先生が少しずつお話を進められるとともに、「数式はどのように作られているのか?」「例えば車のエンジンでも、同期の仕組みを使っているのか?」「1つめの式と2つめの式は何が違うのか?」など様々な質問が出ました。 物理に疎い私にとってはそもそも「目の前で機械を動かしてデータを取るだけではなく、目に見えないエネルギーの流れを考える」という視点との出会いとなりました。また、「数式から何かを導くにしても様々な変数があり、この結果から何が言えるか?を正しく把握するのは複雑であること」を体感した時間となりました。そして物理に詳しい方はより専門的な理解をされたことと思います。

先生が持ってきてくださった数式は難解に見えましたが、参加者からの沢山の質問や先生と参加者とのやり取りから、自分なりに熱力学の世界を垣間見、面白さを掴むことができた、UTalkならではの時間となりました。

[アシスタント 鈴木 薫子]