UTalk / 窒素化合物を効率的に作る

杉野目 駿

工学系研究科 助教

第222回

窒素化合物を効率的に作る

10月UTalkでは、錯体を用いた触媒反応が専門の杉野目 駿さん(工学系研究科 助教)をお招きします。アンモニアをはじめとする窒素化合物は社会で広く利用されており、近年では次世代の燃料としても期待されています。しかしその主要な原料である窒素ガスは、水や酸素と比べて圧倒的に化学反応を起こしづらい物質です。そのため、窒素化合物をつくるには高温高圧の過酷な条件が必要です。そこで杉野目さんの所属するグループでは、錯体と呼ばれる化合物を「触媒」として用いて、より穏やかな条件で窒素ガスを反応させる手法を開発しています。杉野目さんが使う触媒はどのように窒素ガスの反応を促すのか。実験の様子などとあわせて、飲み物を片手に気楽に聞いてみましょう。

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10月のUTalkでは、錯体を用いた触媒反応を専門とする杉野目 駿さん(工学系研究科 助教)をお招きし、窒素化合物を効率的につくるための最先端の研究についてお話を伺いました。アンモニアをはじめとする窒素化合物は、肥料や工業製品の原料として現代社会を根底から支えており、近年では環境にやさしいエネルギー資源としても注目されています。一方、原料となる空気中の窒素ガスは非常に安定した強固な三重結合を持ち、水や酸素と比べて化学反応を起こしにくい物質です。こうした性質を踏まえ、より穏やかな条件で窒素化合物を効率的につくることを目指す研究の最前線に触れる機会となりました。

現在、世の中で使われているアンモニアのほとんどは「ハーバー・ボッシュ法」という約100年前に開発された方法で作られています。これは空気中の窒素から大量のアンモニアを生み出せる画期的な技術ですが、高温高圧という過酷な条件が必要で、水素の製造過程で多量の二酸化炭素が発生するのが課題です。そこで杉野目さんたちが目指すのは、巨大な工場に頼らず、必要な時に必要な分だけ作れる仕組みです。

そのお手本にしたのが、実は身近なマメ科の植物でした。植物の根にいる微生物(根粒菌)は、常温・常圧のまま、空気中の窒素からアンモニアを作り出しています。杉野目さんの所属する研究室では、この微生物が持つ酵素の構造に着目し、「モリブデン」という金属に有機物を組み合わせた「錯体」と呼ばれる触媒を設計・開発しました。強固な窒素分子を金属で挟み込んでほぐし、水を水素源としてアンモニアを作ることに成功したのです。この触媒が壊れずに働き続けられる回数も、開発当初から着実に向上しており、実用化を目指して企業との共同研究も精力的に進められています。

お話の後半では、普段は窺い知ることのできない研究室のリアルな日常も明かされました。杉野目さんたちが扱う錯体は、水や酸素に極めて敏感な物質です。そのため、フラスコの中を真空ポンプで減圧して空気を取り除いたり、「グローブボックス」と呼ばれる酸素や水分を遮断した箱の中に手を入れて手作業で試薬を調合したりと、繊細な手技が求められます。 また、目に見えない錯体の構造を知るためには、医療のMRIと同じ原理で分子構造を探る装置や、作製した結晶にX線をあて、数学的な処理で分子構造を可視化する解析技術が使われています。これらを駆使し、パズルのように分子構造を突き止めていくのが楽しいと杉野目さんは笑顔で語ります。

参加者から寄せられた「研究におけるAIの活用」という質問に対しては、情報収集や英語論文の執筆に有効活用しつつも、実際の実験ではAIの予測通りにいかない予期せぬ反応が起きることも多く、人間による試行錯誤が不可欠であるという、研究者目線の実感が語られました。

今後はアンモニアのみならず、ナイロンやアミノ酸といった付加価値の高い有用化合物の合成へと応用を広げていく構想も共有されました。最先端の化学がひらく循環型社会の可能性と、化学者の日々の研究生活や実験・解析の様子を知り、研究の面白さを感じられるひとときとなりました。杉野目さん、そしてご参加いただいた皆様、誠にありがとうございました。

[アシスタント 大島 早瑛]