UTalk / コンクリートの100年とこれから

大野 元寛

工学系研究科 特任講師

第217回

コンクリートの100年とこれから

5月のゲストは、コンクリート工学がご専門の大野元寛さん(工学系研究科・特任講師)です。 コンクリートは水に次いで世界で2番目に多く使われる身近な材料です。 東京大学のコンクリート研究室は100年以上の歴史を持ち、新材料やシミュレーション手法を開発してきました。 現在は環境負荷や生産性、構造物の耐久性といった課題に応えるプロジェクトが、産学連携で進められています。 さらに大野さんは、コンクリートの3Dプリンティングを活用した「メタマテリアル」開発に向けた基礎研究にも挑戦しています。 身近な素材の歴史から研究の最前線まで、飲み物を片手にのぞいてみませんか。

U-Talk Report U-Talk Report

身近な材料であるコンクリートをめぐってどのような研究がされているのでしょうか? 2026年5月のUTalkでは、工学系研究科 特任講師でコンクリートの研究をされている大野元寛さんをお招きし、安藤忠雄氏によって設計されたコンクリート基調の「情報学環・福武ホール」にて、コンクリート研究の「これまで」と「これから」についてお話しいただきました。

コンクリートは水に次いで世界で2番目に使われている材料です。その耐久性の高さや形状の自由度、低コストなどの特徴から世界中で愛されてきました。コンクリートはセメント、水、砂、砂利等から構成されており、この原材料の組み合わせで強度の調整や、重さの調整をすることもあります。コンクリートは土木技術者が設計できる唯一の材料であり、まさに「腕の見せ所」なんだそうです。

そんなコンクリートにも弱点があり、それは「引っ張りに弱いこと」です。今回、大野さんにお持ちいただいた直径5cmの円柱供試体は3トンのアジアゾウにも耐えられる程圧縮には強いのですが、引っ張られる力は圧縮の10分の1しか耐えられません。この弱点を克服するため、コンクリートの中に引っ張られる力に強い鉄筋をいれた「鉄筋コンクリート」が広く採用されています。鉄筋コンクリートによって弱点は克服されましたが、一方でコンクリートの特徴である耐久性は下がります。鉄筋は水と酸素に触れることで錆びてしまいますが、アルカリ性であるコンクリートが外側にあることによって表面に安定した保護膜が作られ、はじめは錆びることはありません。しかし、コンクリートが空気中の二酸化炭素と反応してアルカリ性が下がり中性化することによって鉄筋が錆びてきてしまいます。コンクリートは魅力的な特徴を持つ材料ではありますが、弱点も存在していて、それらを克服するべく東京大学のコンクリート研究室は様々な試みを重ねてきました。

このコンクリート研究室が大野さんが所属されている研究室ですが、コンクリート研究室は1919年に設立され、100年以上の歴史があります。その中でも大野さんは2名の研究者を紹介されました。

一人目は広井勇(ひろい いさむ)先生で、広井先生は小樽築港に多大なる貢献をなされました。海洋に触れる状態のコンクリートには耐久性の問題が付きまとうため、広井先生は火山灰を混ぜることを決断しました。当時、火山灰を加えるとコンクリートの耐久性が上がるという研究が報告されて間もないころで、実際に実践されることは珍しかったそうです。広井先生はその決断を下すと同時に、実際に耐久性に問題が無いか検証するために6万ピースの試験体を用意して100年間実験することを指示し、実際に2008年まで実験が行われました。その結果、火山灰を混ぜたコンクリートは100年が経っても中性化されていませんでした。

二人目は岡村甫(おかむら はじめ)先生で、岡村先生は「自己充填コンクリート」の開発など、世界的な業績を上げられました。生コン車で運ばれてくる一般的なコンクリートは流動性が低くなっており、型枠に流し込んで固める際には振動を加えながら隙間ができないようにします。その方法は生産性が上がらない要因、つまり労働集約型となっていました。岡村先生はこの問題を解決する技術として、「自己充填コンクリート」を世界に先駆けて開発されました。この技術は材料を型枠に流し込むだけで、自重で隅々まで広がっていく性質を持っています。この技術は特にヨーロッパの国で多く使われていて、広く世界でも利用されています。

その時代によって問題は異なり、それに伴い様々な研究がなされてきましたが、現在では「耐久性」が中心的なテーマとなっています。高度経済成長期に建設された橋などのインフラが老朽化して、その維持管理や耐久性の向上に取り組む必要がありますが、その一つとして鉄筋に変わる補強材を使うことが検討されています。その代替となる素材はバサルト繊維補強プラスチック(BFRP)で強度は鉄筋よりも高く、軽くさびない特徴があります。コンクリート研究室教授の石田哲也先生はJR東海とも共同研究されており、今後のインフラの整備にも役立てられることが予想されます。また耐久性だけでなく、岡村先生の業績の際にも説明されたように、労働集約型の問題にも取り組まれています。3Dプリンティングの技術を用いて、型枠組みなどが必要だった従来の施工方法を全て機械化、自動化することを目指し、世界でも活発に研究されています。

最後に、大野さんが特に力を入れて取り組まれているコンクリートのメタマテリアルについてもお話しいただきました。メタマテリアルは元々光学、電磁気学分野から始まった分野で、物体のナノマイクロスケールの内部の構造を工夫することによって、電磁波を受けた時の特性をコントロールするというところから始まりました。例えばメタマテリアルで光の屈折をコントロールすることによって、透明マントの開発も可能となります。メタマテリアルをコンクリートの研究にも導入することによって、固いイメージのあるコンクリートですが、柔軟な動きが可能になります。この研究により、今までは設計の対象ではなかった熱の伝導や水の流れのコントロールなども扱うことが出来るようになるかもしれません。

今回はコンクリート研究の「これまで」と「これから」についてお話しいただきました。身近にあるコンクリートの面白さを大野さんのお話で気づかされ、参加者の皆さんの質問が尽きない会となりました。大野さん、そして参加していただいた皆さん、誠にありがとうございました。

[アシスタント 松原正典]