UTalk / オペラで紡ぐ、君だけの物語

大野はな恵

先端科学技術研究センター 特任助教

第201回

オペラで紡ぐ、君だけの物語

2024年12月のUTalkは音楽教育・文化政策がご専門の大野はな恵さん(先端科学技術研究センター・特任助教)をお迎えします。「オペラ」と聞くと、難しく敷居が高いもの、観客としてじっくり鑑賞するものと思われる方が多いかもしれません。しかし子どもたちがオペラを創り上演する場があるとしたら、そのプロセスや作品を見てみたいと思いませんか。大野さんはこれまでに国内外の劇場が実施する教育普及事業・社会包摂事業の評価に関わり、現在は地域のつながりや居場所づくりの「コーディネーター」の育成にも携わっています。そしてその知見を生かし、子どもたちのための「オペラ創作プログラム」を多数実践されています。子どもたちとオペラを創ることの魅力について、そして教育や社会包摂機関として劇場が果たすべき役割について、研究と実践の両面からお話しを伺います。みなさまのご参加をお待ちしています。

U-Talk Report

今回のUTalkでは、先端科学技術研究センターより、大野はな恵さんをお迎えし、オペラの創作活動を通じた子供の教育をテーマにお話ししていただきました。

大野さんは、子供の時に、自分が生きているのとは違う世界に入り込むことができることから、劇に魅力を感じ、将来は舞台に関わる仕事をしたいという思いを抱いたそうです。そして、新国立劇場にて、出演者に歌詞やタイミングを指示するプロンプターとして、実際に舞台の現場を支える仕事をされた後に、文化庁新進芸術家海外研修制度によりニューヨークのメトロポリタン歌劇場にて研修をされました。

大野さんは、実際にオペラの現場で働かれる中で、オペラを鑑賞する観客の平均年齢がミュージカルなどと比較して高いことに課題意識を持ったそうです。若い世代をはじめ、より多くの人にオペラを届け、オペラを広く社会に開かれた存在にしたい、また、音楽・演劇・美術などのいろいろな芸術が複合したオペラを文化政策・音楽教育の研究と実践に活かしたいという思いから、多くの人にとって身近になる制度やプログラムを探したそうです。その中で、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場が最初に開発した「オペラ創作プログラム」に注目したそうです。

このプログラムでは、子供達がオペラの出演者とその舞台を支える仕事の両方を担い、子供達の力でオペラの制作から上演までを行います。舞台を支える仕事としては、衣装・大道具・照明・ナレーション・作曲などがあります。子供達は、周りと協力しながら、自分が何をしたいかを自分で決めて、一人一人が「主役」として、自身の役割を全うするとともに、自分なりに作品を表現し、実際に形にする過程を体験します。 大野さんはオペラ創作プログラムを日本でも導入するため、2019年に学校の音楽の先生、ダンサー、ピアニストなど様々な経歴を持つ方々とともにプログラム団体を設立しました。現在は年に3,4回ほど公共ホール、ユースセンターでプログラムを実施しています。

大野先生はオペラ創作プログラムの具体例として、2024年の8月から9月にかけて西東京市の保谷にある公共ホールにて行われたプログラムを紹介してくださいました。このプログラムにおいて子供達は、「わらしべ長者」をテーマに6回かけてオペラを作成しました。子供達自身がストーリーライン、音楽の組み合わせなどを考えるとともに、衣装や背景などプログラムの中で制作が終わらないものは、やりたい人が自宅でやってくる、そして大人はあくまでサポート役というように、主体性や創造力が求められるプログラムです。実際に子供達が考えた劇の一部を映像で拝見しましたが、出演者の舞台上での動き、照明の切り替わり、舞台の背景のデザイン等、みんなで力を合わせて考えた「オリジナルわらしべ長者」の物語を、自分なりにこう伝えたい!という思いや、自分の役割を全うしよう!という思いが画面越しではありましたが、非常によく伝わってきました。

ただ、オペラ創作プログラムを実施する上で何点か課題があると大野さんはおっしゃっていました。例えば、使用可能なホールの確保や子供達の日程調整、華やかな舞台が見たいという親の期待とのギャップなどがあるそうです。親の期待とのギャップに関して、大野さんは、「このプログラムでは、華やかさよりも子供中心を大切にしていて、自分がやりたいことや得意なことに一生懸命取り組むことを通じ、子供達には自分たちでやり遂げたという自信を提供したいと考えている」とおっしゃっていました。

オペラ創作プログラムに参加することを通じ、子供達の中でどのような心境の変化があったか、参加後の行動選択に何か影響を与えたかといったことは気になりますが、今回大野さんのお話をお伺いし、このプログラムは日頃の学校の教育現場ではなかなか提供が難しい価値・経験を子供達に提供できているのではないかと強く感じました。 映像や写真を交えながら非常にわかりやすく説明をしていただき、私自身もオペラに興味を持つきっかけとなりました。素晴らしいお話をしてくださった大野さん、活発に質問をしてくださった参加者の皆様、ありがとうございました。

[アシスタント 太田真莉]