工学系研究科 准教授
第200回
200回目となる2024年11月のUTalkはアクティブセンシングがご専門の夏秋嶺さん(大学院工学系研究科電気系工学専攻・准教授)をお迎えします。夏秋さんは主に合成開口レーダ(SAR)を使った観測と解析に取り組まれています。SARは人工衛星や航空機に搭載されたレーダから発射される電波を用いて地球環境などを観測する時に使われる技術です。地震や火山、洪水といった災害時の地形変化の把握や森林伐採監視などに活用されており、活況を呈する宇宙ベンチャーでも近年注目を集めています。その観測や解析の技術のさらなる発展のために、夏秋さんはどのような課題に向き合っているのでしょうか。皆さんも目には「見えない」電波で世界を「見る」ことの最先端に触れてみませんか。ご参加をお待ちしております。
本日は工学系研究科電気系工学専攻の夏秋嶺さんをお迎えして、電波で世界を「見る」ということについてお話を伺いました。人工衛星第一世代とほぼ同い年だと語る夏秋さんは現在、人工衛星に積まれたレーダから得られる画像の処理などについて研究されています。今回のUTalkは衛星画像や小型の装置を実際に全員で見ながら行われ、電波を利用した技術をとても身近で感じられるものとなりました。
はじめに、可視光や電波を用いた地球観測の仕組みを解説していただきました。私たち人間は光という波を使って物を見ていますが、その波長をより長くした電波を使うと人間の目では見えない情報も観測が可能になります。そうした電波を発生させるレーダを人工衛星に搭載し、打ち上げることにより、地球に関してより多くの情報が得られます。たとえば海の波や船舶の位置、農作物の生育状況などです。しかし、これらのデータは可視光で得られるデータとは異なり、白黒の濃淡のみで表現され、また人間にとって時々非直感な表現がされます。たとえば東京ドームは可視光で見れば全体が白く見えますが、屋根が布でできており電波が透過するため、レーダではスタンドのみが白く見えるのだそうです。このように光学と異なる特性を持つため、データの解析には独自の手法や仮定が必要となり、夏秋さんはその解析に携わられています。
次に、レーダの干渉技術についてご説明いただきました。波というのは2つを重ね合わせると強くなったり弱くなったりしますが、この性質を干渉と呼びます。電波を飛ばしている衛星もこの波の干渉を利用して、地形を観測しています。衛星が同時に2か所から、もしくは同じ衛星でも場所を変えて2回観測すると、観測箇所が互いにずれているために電波の干渉が起こります。たとえば観測場所が山に近づくと、地面が相対的に衛星に近づくため、干渉する場所がずれ、干渉縞ができます。その干渉縞の方向は標高に対応しており、等高線を描きます。この技術を応用すると、地震などによる地表の変動や標高の変化をセンチメートル単位で観測することができます。ただし観測幅には制限があり、現在の技術では1回の観測で約50km程度の範囲しか捉えられません。この制限を克服するためには、衛星の数を増やしたり観測手法を改良したりする必要があります。
観測データの解析には、高度な計算が求められることも議論されました。人工衛星は秒速7 kmで移動しており、その間に電波を発射・受信し、地表を観測します。この際、わずかな時間差や位置のズレが観測結果に影響を与えます。現在のコンピュータ技術では、100万分の1秒単位の補正が必要であり、これがデータ処理の課題となっています。また、観測時に生じる“もやもや”、ゴースト(偽信号)の処理も重要です。例えばレーダの反射についてある仮定を置いて測定したとき、仮定より明るすぎるために電波をよく散乱してしまう場所があると、本来それが位置する場所とは異なる場所にも信号が入り込み、画像にゴーストが生じます。仮定の置き方によりいかにゴーストを上手く消すかというのが課題になっています。
レーダを搭載した人工衛星による観測は、「見えないものを見る」という人類の探求心を満たす技術であり、私たちの社会をより豊かにするものであると夏秋先生は強調されました。顕微鏡を工夫して細胞を発見したフックのように、見えないけれどたしかに存在する100万分の1秒の世界を知らなければならない時代であり、そこが面白いのだと私たちに教えてくださいました。素晴らしいお話をしてくださった夏秋嶺さん、ご参加された皆さん、ありがとうございました。
[アシスタント 森田千歩]