芸術創造連携研究機構 特任助教
第197回
8月のUTalkでは、認知心理学を専門とされる髙木紀久子さん(芸術創造連携研究機構 特任助教)をお迎えします。「現代アート」というと、見た目が奇抜で難解な、とっつきにくい印象があるという人も多いと思います。こういったアート作品を制作しているアーティストたちは、一体どうやってそのアイデアを思いつき、作品をかたちにしていくのでしょうか。ご自身もアーティストとして活動を行なってきた髙木さんは、アーティストはどうやって作品のコンセプトを思いつくのかを明らかにするべく、認知心理学をベースにした芸術創造過程の研究に取り組まれています。近年では、不確実性の高まる社会背景のもと、芸術における創造性の研究は非常に注目を集めています。果たして、アート作品はどのように生み出されるものなのでしょうか。みなさまのご参加をお待ちしております。
2024年8月のUTalkでは、「アーティストのアイデアはどのように創られるのか」をテーマに、東京大学芸術創造連携研究機構の髙木紀久子さんにお話しいただきました。髙木さんは、芸術の創作プロセスについて、認知心理学を用いた研究をされています。 皆さんは芸術家のアイデアはどのようにして創られると思いますか。私は髙木さんのお話を伺うまでは、芸術家自身の信念や今までの経験が元になって、独特な発想と閃きにより、アイデアが生まれると考えていました。また、芸術家の発想力と表現力は、私自身とは次元が異なる、神から与えられた能力のようなものだと考えていました。
しかし、髙木さんが精力的に取り組まれた研究の成果をお聞きし、作品の創作過程において、作品コンセプトの生成が動的かつ漸進的に進むこと、そして、その思考のフレームワークが、我々の日常の仕事や研究活動にも活かせる可能性があることが分かりました。芸術家の創作活動が、私自身の普段の研究活動と類似性があり、かつ思考モデルを活かせるとのことで、少し親近感を抱きました。
髙木さんの研究では、2008年10月に東京大学駒場博物館で行われた「behind the seen アート創作の舞台裏」展に作品を出展した、篠原猛史氏に対して複数回実施したインタビュー、篠原氏の展示作品そのものや創作過程で生じたドローイングや写真などのプロダクツを分析対象とし、詳らかな分析が行われました。
篠原氏は作品コンセプトの探索段階で複数枚の写真を日々撮影したようです。個人的に印象的だったのは、作品のコンセプト探索のスタートとした「ボーダー」の捉え方が、実際にフェンスの網の目から木の葉が飛び出している様子、つまり物体がボーダーを超えているという「予期せぬ驚き」との出会いにより変化し、異なる視点からのコンセプト探索が行われるようになった点です。多角的な視点から物事を観察することが、創作のコンセプト決めていく上で大きな影響を及ぼすという示唆が得られたとのことでしたので、難しいことではありますが、私自身も日頃から視点を少しずらしてみるということを意識したいと考えました。
髙木さんのお話を受け、参加者からは日頃の芸術鑑賞や今後の研究の展望に関連した質問が大変多く寄せられました。個人的に印象に残っているのは、美術品の鑑賞方法についての質問です。この質問に対し髙木さんは、まずは作品解説を読まずに、自分自身の身体を通じて、作品にじっくりと対峙し、自分がどういう感情を抱き、どういう解釈をするかを体感することが大切だとおっしゃっていました。作品のキャプションなどの情報を得ることも重要ではあるが、自分の身体感覚をもって鑑賞することでより深く作品の知見を得ることが可能となるとのことです。
その後、髙木さんをはじめ3名の作家の作品3点を、実際に触れ、見て、鑑賞させていただきました。髙木さんに作品の解説を頂きながらも、私も自分の体を通じ、作品の解釈を試みました。参加者の皆さんが、作品を様々な角度からよく観察し、何度も触れていらした様子も非常に印象的でした。
髙木さん、ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。
[アシスタント:太田真莉]