UTalk / 空き家再生を通じたまちづくり

青木公隆

大学院工学系研究科 特任助教

第187回

空き家再生を通じたまちづくり

青木公隆さん(大学院工学系研究科都市工学専攻都市デザイン研究室 特任助教)のご専門は建築設計とエリア再生で、主に密集市街地におけるエリアマネジメントを研究されています。一級建築士としても活躍されている青木さんは、新築も手がける一方で、地域の社会課題に応えたいという想いで10年前から空き家再生に取り組んでいます。北千住で改修した築70年〜80年の空き家2軒は、整体やカフェ、自習室など、様々な用途をもつ地域のコミュニティの拠点となっています。日本中で問題視されている空き家ですが、どうすれば上手に活用することができるのでしょうか。先生のお話を聞きながら一緒に考えてみませんか。土曜日の午後、カフェでの知的好奇心を刺激される時間。みなさまのご参加をお待ちしております。

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2023年10月のUTalkは、「空き家再生を通じたまちづくり」をテーマに、大学院工学系研究科都市工学専攻都市デザイン研究室の青木公隆さんにお話しいただきました。

青木さんは大学院を終了後に設計会社に就職し、その後独立して建築事務所を立ち上げました。また、博士課程に入り直され、学位取得後、現在は、都市工学専攻都市デザイン研究室の特任助教を務められています。ご自身の建築事務所では、住宅などの建築だけでなく街づくりに関わる機会が多く、その中で「空き家」の問題は必ずついて回ってきたと言います。

空き家活用に関する大切なこととして、最初に、活用内容、事業投資、活動し易い環境を考える必要があります。空き家が多い地域は、コミュニティーが衰退している地域もあるため、街との継続した関わり方も含めて考えます。 2つ目の課題はエリアマネジメントの観点です。空き家が1軒改装されたとて何かが大きく変わるわけではなく、再生した空き家をうまく住民や地域の企業と連携していくことが重要です。 青木さんは、ご自身の事務所で手がけている建設設計と、研究テーマであるエリアマネジメント、そして不動産運営・事業投資という3つを絡めながら「都市デザイン」が実現できると考えられています。

そして、青木さんはこれらを北千住をフィールドにして展開されています。北千住は荒川と隅田川に囲まれている元宿場町で、路地の周りを所狭しと木造住宅が建っている木造密集市街地という特徴があります。また、北千住駅は1日の乗降客数が世界第6位という非常に多い人の往来がありながら、空き家が増え続けているという矛盾を抱えている興味深い地域だそうです。 このような北千住の西口にある住宅街エリアで、青木さんは「せんつく」というスペースをつくりました。これはもともと、空き家を抱えるオーナーからの相談から始まったそうで、当初はその空き家を古民家レストランやホテルといったものに改装することを検討していました。しかし、駅から徒歩13分という立地がそれを難しくします。しかし、青木さんはここで「空き家なのだから通常の不動産の価値観を一回外して考える」と発想を転換し、むしろこの場所は「住宅街のど真ん中である」ということ、そのために住宅街に密着した建物をつくろうという考えに至ります。 そうしてできた「せんつく」は、地域のさまざまな人たちが集まる建物になっていきます。もとあったブロック塀は撤去して家具を配置し、路地に面した立地を生かして敷地の一部が公共空間の延長のようになりました。また建物は飲食店や整体、ワークショップスペースなど複数のテナントが入り複合的になっていきます。年に数回は市場を開催したり、新型コロナウィルスの影響で中止になっていた夏祭りの会場としても開放するなど、イベントの場としても地域に解放されていきます。このようにさまざまなテナントが入ることで、それぞれのお店に関わる違った層のお客さんが建物に出入りし、小さな施設にもかかわらず広がりのある活動が展開されています。

「せんつく」の成功は、「せんつく2」の創出につながっていきました。せんつく2も、空き家を抱えるオーナーさんからの相談で始まりますが、このオーナーさんはせんつくの活動をご存じで、自分のもつ空き家もぜひそのように変えて欲しいという希望から進んでいくことになります。ここでは、最初のせんつくで実現できなかった耐震の問題をクリアするため、大きく外観をかえることのなかった初代せんつくに対して、屋根と骨組み以外は総改修を行い、現行の建築基準に合致した建物としてせんつく2が建てられました。せんつく2は、2階に学習塾やフリースクールなどがはいり、子供の新たな居場所としてNPOとの連携も進行中ということです。

最後に青木さんは今後の展開として、せんつくを北千住に10拠点つくりたいとおっしゃいます。街を歩いていると郵便局が目につくことがありますが、郵便局は程よい距離感で地域のニーズやインフラを支えている建物であり、せんつくも地域や住民にとってそのような地域に根ざした存在になってほしいと青木さんは言います。

最後のQ&Aでは、せんつくに入居するテナントの決め方が話題に上がりました。入居者は実際に青木さんが決められているそうですが、基準が明確にあるわけではなく、「会っていいなと思った人」に入ってもらっているそうです。これは、空き家という性質上、空調の管理が難しかったり、複数のテナントが同じ家のなかに入っているので音の問題もあるので、ある程度許容してくれる、おおらかな人というのが決め手なのだそうです。

空き家問題は全国で問題になっている課題ですが、都市部での空き家活用の事例として参加者の皆さんからも活発な質問が飛び交いました。青木さん、参加者のみなさん、ありがとうございました。

[アシスタント:増田悠紀子]