先端科学技術研究センター 特任研究員
第182回
5月のUTalkは、社会情報学やイノベーションスタディーズを専門とする渡部一郎さん(先端科学技術研究センター 特任研究員)をお迎えします。私たちの経済にイノベーション(技術の進化、革新)が大きな影響を及ぼすことは周知の事実です。ですが、実際のところイノベーションがどのように起きるのかについて、データ解析に基づいた詳細な研究が行われるようになったのは最近のことだといいます。渡部さんからは、コンピュータグラフィクス技術関連の特許情報に注目した、技術進化の法則を見つけ出そうとする研究についてお話いただきます。みなさまもイノベーションスタディーズの最先端に触れてみませんか。ご参加をお待ちしています。
新しい潮流を生み出す技術は、いつどこで、どんなふうに生まれるのでしょうか?スマホのように革新的な技術も、あるとき突然登場したように見えて、実は「イノベーションが起きやすいパターン」の中から生まれたのかもしれません。5月のUTalkは、先端科学技術研究センターの渡部一郎さんをお迎えし、技術革新のパターンについて最新の研究結果を伺いました。
イノベーションを解析するために、渡部さんが注目したのは「特許」です。特許の表紙を調べれば、どんな技術が新しく開発されて、それがどのような先行の特許を「引用」して作られたのかがわかります。実際に「引用」の記載に厳しい米国の特許データを調べると、ほとんどの特許はたくさんの先行特許を基に発明されており、多くのイノベーションは過去の発見の積み上げのもとに起こっていることがわかります。
渡部さんが手にしたフリップには、複数の点が矢印でつながれたネットワークが描かれていました。点はそれぞれの特許、矢印は引用関係を表しています。このように表すことで、それぞれの特許間の技術利用の流れをデータとして可視化することができます。渡部さんは、このネットワーク図を用いて、GPU技術分野において「その後の技術開発への貢献度が特に高かった特許」を数学の手法でわり出しました。無数にある道筋の中で、主流になったものを割り出す手法なので、「Main path analysis」といいます。実際に数年分の特許をネットワークにしたものは、紙が無数の点と矢印で埋め尽くされていましたが、Main path analysisを使うと、いくつかのシンプルな道筋だけが残されました。この道筋が、技術革新の主流を表しているのです。
渡部さんは、「主流」となる技術の特徴を明らかにするため、5年ごとの主流の変化を比較しました。すると、ずっと主流に残っている特許と、一時的に主流にのるもののその後消えていく特許があることがわかりました。渡部さんは、技術の主流は5年間で選抜されていて、5年残ったものは長期的に残り続けるのではないかと考えました。さらに、長く主流に残り続けている発明品は、「中くらいの複雑さ」で「機能特化型企業が所有」するものが多いなど、様々なパターンが見えてきているそうです。「技術の発明は個別性が高いのに、ルールが見えてくるところがおもしろい」と語る渡部さんの言葉に、研究の醍醐味を感じました。
今回のUTalkは、カフェイベントの双方向性が生かされ、渡部さんと参加者の皆さまの活発な意見交換が印象的でした。まねされたくない技術はあえて特許化しない企業が増えていることや、バイオ分野では5年よりも早いスパンで潮流の変化が起きていることなど、それぞれの参加者がそれぞれの経験に基づいた実感を多く共有されたことで、UTalkの「大学の知と社会が出会う場」としての創発性を感じました。数学的なデータをわかりやすく丁寧にシェアしてくださった渡部さん、ご参加くださった皆さま、ありがとうございました。
[アシスタント:加藤千遥]