UTalk / ジェイムズ・ウェッブ望遠鏡でみる宇宙

播金優一

宇宙線研究所 助教

第176回

ジェイムズ・ウェッブ望遠鏡でみる宇宙

2022年11月のUTalkは天文学・宇宙物理学を専門とする播金優一さん(宇宙線研究所 助教)をお迎えします。2022年夏に人類史上最大の規模の宇宙望遠鏡「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」が本格的な観測を開始しました。1990年頃に始まったこの大望遠鏡プロジェクトは、長らく世界中の天文学者たちがその観測開始を待ち望んでいましたが、期待を上回るような初期成果がでており、現在では各国の天文学者たちがジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の初期観測データの解析に没頭しています。今回のUTalkでは、なぜ彼らがジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡に熱狂しているのか、何が期待されているのかを、播金さんが研究している昔の銀河を具体例にお話しいただきます。みなさまのご参加をお待ちしております。

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 2022年11月のUTalkでは、天文学・宇宙物理学を専門とする播金優一さん(宇宙線研究所 助教)をゲストにお迎えしました。今回は2022年夏に本格的な観測を開始した、人類史上最大規模の宇宙望遠鏡「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」の特徴や天文学者が期待していることについて、伺いました。

 宇宙の研究は理論と観測の両面から進められており、観測に用いる重要な装置が望遠鏡です。その中にはすばる望遠鏡のように地上に設置されているものだけでなく、宇宙で観測を行う宇宙望遠鏡があります。昨年末に打ち上げられた「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」は、これまで活躍してきた「ハッブル宇宙望遠鏡」の後継機です。プロジェクトは1990年代に開始し、当初は2010年頃に打ち上げ予定でした。しかし先例のない規模の予算の確保など困難が多く、予定から10年以上遅れて2021年末に打ち上がりました。天文学者が待ち望んだ観測データが今年の夏ごろから手に入るようになり、研究者たちはこの望遠鏡の観測データの解析に没頭しているそうです。

 播金さんはジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の強みについて、ご自身の専門である昔の銀河の研究を例にお話ししてくれました。銀河は宇宙の138億年の歴史のどこかで誕生したはずですが、それがいつ頃なのか、そして昔の銀河がどのような様子なのか、よくわかっていません。昔の銀河を調べる重要な道具の1つが望遠鏡です。それは、宇宙では昔の様子を文字通り「見る」ことができるからです。光の速さは有限なので、遠くにある銀河の発した光が瞬時に地球に届くわけではありません。例えば光の速さで135億年かかる距離にある銀河を望遠鏡で見たとき、私たちが見ているのは現在の銀河ではなく、135億年前の銀河です。したがって遠くを見るほど、昔の銀河を観測できることになります。昔の銀河の見え方には(1)暗く、(2)赤い(波長が長い)、という特徴があります。暗い宇宙を見るためには、多くの光を集められる大きな鏡を搭載した望遠鏡が必要です。また波長の長い光(赤外光)を観測するためには赤外光を検出できる装置が必要な上に、観測性能を高めるために望遠鏡の温度を低く抑えないといけません。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は折り畳み式の大きな鏡、太陽光を遮る遮光版といった優れた装置を搭載し、さらにラグランジュ・ポイントと呼ばれる地球から離れた場所に設置されていることで、遥か彼方の銀河からやってくる暗く・波長の長い光を高感度で観測できるのです。

 播金さんは印刷した画像や資料に加えて、実際に研究で使われている画像やデータも見せてくれました。ニュースなどではきれいに加工された宇宙の写真を目にしますが、研究に使う加工前の画像は白黒で、ノイズでざらついていました。解析用ソフトウェアも使いながら画像から天体の情報を数値データとして抽出し、複数の波長で撮影した画像の情報を組み合わせることで、天体の種類や距離=古さを推定するそうです。ソフトウェアの出力には間違いも多く、最終的には研究者が自分の目で画像を確認するため、観測データを取得してから研究成果を論文として投稿するまでに長い時間がかかります。しかし天文学者たちがジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の観測データをあまりにも心待ちにしていたため、データが公開されてから2週間程度の間に30本程度の論文が投稿されたそうです。期待を上回る性能のデータに研究者たちが盛り上がり、睡眠時間まで削って研究に打ち込んでいることがわかります。観測性能が飛躍的に向上したことで、理論だけでなく観測結果を基にした研究の射程が拡がり、理論研究と観測に基づく研究の間の議論も活発になってきているそうです。

 今回のUTalkは、会場(UT Cafe)の様子をZoomで配信するハイブリッド形式で行いました。会の全体を通して参加者の方からの質問やコメントがあり、播金さんも参加者の興味に沿いながらお話しを進めてくださいました。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の特徴や運用、研究の進め方、そして遥か昔の宇宙や銀河に関する話題まで、様々な観点でのやり取りがありました。ゲストと参加者がキャッチボールをしながら会をつくっていく、対面のUTalkらしさが前面に出た回でした。筆者が現地でUTalkに参加するのは約3年ぶりで、15時のUTalk終了後に立ち話が続く様子も懐かしく感じました。播金さん、参加者の皆さん、ありがとうございました。

[アシスタント:石井秀昌]