UTalk / 2.5次元舞台と女性ファン文化

田中東子

情報学環 教授

第175回

2.5次元舞台と女性ファン文化

2022年10月のUTalkはメディア文化論、ジェンダー研究を専門とする田中東子さん(情報学環 教授)をお迎えします。ファンカルチャーの世界では、かつては男性がアイドルなどの女性を見て楽しむことが一般的でした。ですが、現在、マンガやアニメを原作にした2.5次元の舞台芸術を中心に、女性が男性を見るという性別の逆転現象が起きています。田中さんはフィールドワークを通して女性ファンたちの姿を追いながら、サブカルチャーとジェンダーやフェミニズムの関わりについて分析を進められてきました。なぜ2.5次元舞台に注目したのか、フィールドワークで苦労したことは何かなど、研究のプロセスも含めてご紹介いただきます。みなさまのご参加をお待ちしています。

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 2022年10月のUTalkでは、田中東子さん(情報学環・教授)をお招きして「2.5次元舞台と女性ファン文化」というテーマでお話しいただきました。田中さんは今年の春から東京大学に着任された先生で、フェミニズムやメディア文化の研究をされています。

 アイドル・スポーツ選手・アニメキャラクター…多くの人が、何かのファンなのではないでしょうか。この「ファン」を対象にした研究は社会学の分野で歴史がありますが、長らく「男性ファン」のみが研究の対象だったそうです。「女性ファン」による実践やコミュニティは存在していましたが、研究者やメディアの主流の研究対象からは除外され、無いものとして扱われていました。ところが、2010年代を境に「女性ファン」研究の状況が変化したそうです。フェミニズムが再び注目を集めたことで(#MeToo運動をご存知の方は多いのではないでしょうか)、女性たちの文化実践や批評がメディアでも取り上げられるようになりました。 田中さんも携わった雑誌の特集はどれも予約の段階で売り切れる人気ぶりで、女性を対象とした文化研究がこれまでいかに封じられてきたか、多くの人が気づくきっかけになったそうです。ファン研究の中に「女性が男性を見る」という視点が加わり、田中さんはポピュラー文化と現代の女性たちの関係をフェミニズムの観点から問い直すという視点で2.5次元舞台の調査をされています。

 「2.5次元舞台」は、2次元の漫画・アニメ・ゲームを原作とする3次元舞台の総称です*。1974年に宝塚で上映された「ベルサイユのばら」を皮切りに、2003年のミュージカル「テニスの王子様」によってその方向性が決定づけられたと言われています。キャラクターが3次元に立体化され、最先端テクノロジーで原作の世界観が再現されるので、2次元の世界に入り込んだような感覚を味わえます。2.5次元文化の女性ファンたちは、単に舞台鑑賞だけでなく、グッズ購入、キャストを推す、二次創作を行うなど、様々な形で2.5次元を楽しんでおり、コミュニティを形成しているのだそうです。  社会において女性は、既婚/未婚、子供の有無、学歴など様々な軸で分断されますが、2.5次元文化によってそのような社会的な立場を超えて女性たちがネットワークを形成していることも、田中さんは興味深く思われています。

 田中さんは2.5次元舞台を女子向けオタク文化の総合芸術と捉え、ご自身も多くの舞台に足を運ばれています。お話の中でも演者さんやストーリー、舞台技術に関する博識ぶりに感嘆させられました。田中さんご自身も2.5次元舞台のファンでいらっしゃることが筆者にはとてもよく伝わりました。

 今回からハイブリッド形式の開催となり、対面・オンライン両方からたくさんの質問がありました。対面参加の方は、会の終了後も田中さんの研究室で二次会が開かれ、対面ならではの活発な交流も垣間見えました。田中さん、参加者の皆さん、ありがとうございました。

*日本2.5次元ミュージカル協会:https://www.j25musical.jp/

[アシスタント:山田瑞季]