UTalk / 中国の外交研究:歴史と現在を見すえて

川島真

大学院総合文化研究科 国際社会科学専攻 教授

第171回

中国の外交研究:歴史と現在を見すえて

川島真さん(大学院総合文化研究科 国際社会科学専攻・教授)のご専門は東アジア国際関係史で、主に中国外交史を研究されています。ウクライナ情勢が注目される中、川島さんは中国に関する現状分析を国内外のメディアで発信されています。もともとの専門は歴史研究で、「人文系の研究は何の役に立つのか」と言われてしまう中、「歴史を語る人間が歴史研究を続けながら現在のことも語ることはできないのか」という問題意識を持ち、歴史と、日中の歴史認識問題や現在の中国の外交などの現状分析の両方に携わることをご自身で実践されてきました。中国の外交史研究をしてきた川島さんが、どのような変遷を経て今の姿に至るようになったのか、お話を聞いてみませんか。みなさまのご参加をお待ちしております。

U-Talk Report

2022年6月のUTalk(オンライン開催)では、東アジア国際関係史、特に中国外交史を研究されている川島真さん(大学院総合文化研究科 国際社会科学専攻・教授)をお招きしました。今回のテーマは「中国の外交研究:歴史と現在を見すえて」です。


会の前半で川島さんは、大学院で研究を始めてから現在までを振り返りながら、台湾に遷ってからの中華民国を含む中国外交史・現状について語ること・社会との関わり方、という4つの話題についてお話しされました。川島さんが大学院生のときに取り組み始めたテーマが中国の外交史です。当時の歴史研究では民衆に焦点を当てるアプローチが主流であり、外交は「浮いたもの」と捉えられがちで、さらに日本社会における台湾の好感度が低かったため、台湾にある中国の外交文書を基に外交史を研究する川島さんの研究スタイルに否定的な意見が多かったそうです。

そこから数年後、川島さんは北京で勤務するようになり、その後も頻繁に北京に足を運んで仕事をする生活を続けました。北京で携わった中国の機関に属して日本のODAを申請し実施していく業務では歴史ではなく、日中関係の現状を目の当たりにしたそうです。


そして2005年に起きた「反日デモ」を転機として、中国の現状に関する記事の執筆などにも取り組むようになりました。現状について語ることは特に日本の歴史学者にとって挑戦的で、川島さんもこの時機まで手を出さずにいました。しかし「反日デモ」の場合のように、歴史的知見が現状分析に必須であることは少なくありません。これ以降川島さんは、軸足を歴史研究に置きつつ、現状についても語るようになりました。


川島さんはさらに、現状について語ることについて、社会との関わり方という観点から掘り下げていくことになります。メディア露出も多い川島さんですが、そうした活動の背景には、歴史研究等の成果を社会に還元したい、という想いがあるそうです。社会に浸透している歴史認識は驚くほど古い、と川島さんは言います。この状況を改善するべく、川島さんは新書をはじめとする一般向け書籍の執筆や最新の成果を反映した教科書作成などにも時間と労力を割かれています。


筆者は中国政治にも国際関係史にも親しみがなく、お話についていけるか不安もありましたが、ご自身の経験を中心に語られる川島さんのお話はすんなりと頭に入ってきました。会の後半では参加者の皆さんから多くの質問があり、川島さんが中国や戦後の台湾の外交史に取組むようになったきっかけ、中国をはじめとする東アジアにおける歴史・歴史認識、近年の中国外交など、様々な話題についてお話を伺いました。この中で、日本の大学の研究環境の悪化やコロナ禍に巻き込まれた若手研究者の苦境、研究用データベースや外国メディアといった情報へのアクセスの格差を憂慮されていることが伝わってきました。


川島さんのお話にはいくつものキーワードがありましたが、その1つは「越境」です。川島さんは日本語・中国語・英語を使って活動し、複数のポストを渡り歩く中で分野の壁を越えてきただけでなく、学界と社会の越境も実践されています。参加者とのやり取りの中で、東アジア全体、日本全体で共通の歴史認識を持つことを是とするのではなく、歴史資料から逸脱しない範囲で歴史認識の多様性を認め、相互に理解することが重要なのではないか、というご指摘がありました。そして、複数の文化を経験することで「あの人たちならこう考えるだろう」という視点をいくつか持つことが物事を立体的に捉えることにつながる、というメッセージが印象的でした。

 川島さん、参加者の皆さま、ありがとうございました。

[アシスタント:石井秀昌]