工学系研究科都市工学専攻 講師
第167回
中谷隼さん(工学系研究科都市工学専攻 講師)は、ライフサイクルの観点からプラスチック、リサイクルのあるべき姿について研究されています。ある製品が環境に与える影響を考える時、原料を作る段階から廃棄までをトータルに考える、ライフ・サイクル・アセスメント(LCA)の視点が重要です。ペットボトルとマイボトルはどっちがいいの?日本でも海洋プラスチックは大問題?私たちが分別したプラスチックはどこへ行くの?リサイクルされるならプラスチックの使用量はこのままでいい?一人では解決策の見えない疑問をこの機会に専門家にぶつけてみませんか。みなさまのご参加をお待ちしております。
2022年2月のUTalkでは、中谷隼さん(工学系研究科都市工学専攻 講師)をゲストにお招きしました。テーマは「プラスチックのリサイクルは必要か?」です。
最近レジ袋有料化やプラスチックストローの廃止など、プラスチックに関するニュースが身近になっていますよね。プラスチックに関わる問題は多岐にわたるなかで、中谷さんがご用意されたトピックのうち、参加者の皆さんの投票によって選ばれた「海洋プラスチック問題の現状」、「国内のプラスチック資源循環」、「日本と欧州のプラスチック戦略」の3つについてお話しいただきました。
海洋プラスチック問題は、世界中で議論されています。国連によると、これまでに生産されたプラスチックのほとんどはリサイクルが進まず、地球上に何らかの形で残されているそうです。一方で、海の汚染を防ぐためプラスチックのリサイクルをやめるよう提唱している報告書も存在し、意見が真っ向から分かれているように見えます。どちらが正しいと言い切ることはできませんが、中谷さんによれば、海洋プラスチック問題に影響するのはプラスチックの処理に関するインフラがしっかりしていない国の場合だそうです。日本のように処理システムがきちんとしている国では、海洋プラスチック問題とリサイクルを安易に結びつけない方がいいとのことでした。そして、リサイクルに消極的な主張はプラスチックの焼却(すなわち二酸化炭素の排出)を前提としているので、昨今注目されている「脱炭素」の流れに逆行する説ということが分かりました。
国内におけるプラスチック資源循環の話題では、日本のペットボトルのリサイクル設計が非常に優れていることが分かりました。ペットボトルはキャップ・ラベル・本体の分別がとても簡単ですよね。これは偶然ではなく、ペットボトルの設計ガイドラインで決められているのだそうです。このことは、リサイクルによってペットボトルの原料である「透明PET」だけを手に入れやすいことにつながります。そのため、日本のペットボトルは国内外を問わずリサイクル業者からの需要が高いのだそうです。あまり知られていないかもしれませんが、このように製造段階でリサイクルのことまで考えた設計になっているプラスチックの事例は、世界でもあまり見られないそうです。
最後の日本と欧州の戦略については、両地域を比較しやすいように表を使ってお話ししていただきました。欧州ではプラスチックのリサイクルがサーキュラーエコノミーという循環型経済の枠組みと結び付けられやすく、経済成長の要素として語られることがあるそうです。日本ではあくまで廃棄物処理の意味合いが強いため、使い捨てプラスチックの発生抑制に関する目標が欧州よりも数字で明確に示されているなど、両地域の大事にしているポイントを分かりやすく教えていただきました。どちらかが絶対的に優れた戦略であると言い切ることはできませんが、それぞれの性格を理解した上で、今後の戦略を考えていくのが大事なのではないかと感じました。
プラスチックに限らず、資源のリサイクルというと一見聞こえがいいですが、どうしてもリサイクルできないものまで無理にリサイクルする必要があるでしょうか?多額の費用をかけてリサイクルできるものが少ししかない、という循環に意味があるでしょうか?中谷さんはプラスチック問題について、LCA(ライフサイクルアセスメント)という広い視野で循環を考えること、リサイクルの必要性について適材適所で考えていくことの重要性をメッセージとして残されました。
今月のUTalkは、参加者の投票によってトピックが決定したり、それぞれのトピックごとに参加者とのトークが設けられたりと、終始ゲストと参加者がインタラクティブに交流できた回になりました。中谷さん、参加者の皆さん、ありがとうございました。
[アシスタント:山田瑞季]