工学系研究科 講師
第166回
1月のUTalkは化学工学を専門とする伊與木健太さん(工学系研究科 講師)にお話しいただきます。私達の身の回りの空気中や水中には、目に見えないほど小さな分子やイオンがたくさんいます。望ましいものであれば構いませんが、増え続ける温室効果ガスや私達に有害なものなどはできるだけ取り除きたいですよね。これらを思い通りに捕まえたり、別の有用なものに変換したりといったことを目指す時に鍵となる材料に多孔質材料があります。多孔質材料は小さな孔がたくさんあいた材料ですが、どれくらい小さいのでしょうか。伊與木さんが研究しているゼオライトという多孔質材料には100万分の1ミリメートル以下の孔が大きさを揃えてずらっとあいているそうです。しかも、ゼオライトは特別なものばかりではなく、実は身の回りにもあると言います。今回はそんな材料を作るところから使うところまで、緻密な作業からスケールの大きな応用まで及ぶ工学研究について、お話を伺います。みなさまのご参加お待ちしています。
大気中に増え続けるCO2。先のCOP26で、日本が「温暖化対策に消極的な国」に送られる『化石賞』をもらったのも、記憶に新しいですね。
「CO2排出量を減らすのも大事だけど、空気中のCO2をどんどん取り除ける技術があったら、もっと良いのにな…」と思うこと、ありませんか?
1月のUTalkは、「ゼオライト(沸石)」という材料でそんな夢を叶える、工学系研究科の伊與木健太さんをお迎えしました。
「ゼオライト」は、ナノメートルサイズの非常に小さな孔がたくさん空いた「多孔質」です。この孔の大きさや形を、キャプチャしたい物質がちょうどはまり込むようにデザインすることで、CO2などの有害な物質を取り除こう、というのが伊與木さんの研究テーマです。
ゼオライトは、石ころやガラスと同じ、シリカ(二酸化ケイ素)という原料でできています。ありふれた物質で価値あるものを創る。ゼオライトの合成は「現代の錬金術」だ、と伊與木さんは語ります。シリカの分子をどうやって組み立てると目的の孔ができるのか、合成手法の開発が腕の見せ所です。
ゼオライトはすでに社会の中で広く応用されており、例えば、原油からガソリンを作る過程にも、なくてはならない存在です。参加者の皆様からも、「原発事故で放出された放射性セシウムや、有害な排気ガスの除去にゼオライトが使われているのを知っている」という声が次々と上がりました。
それでは、ゼオライトの孔の大きさや形は、どうやってデザインされているのでしょうか?あまりに小さな孔なので、「シリカの塊にドリルで孔をあけていく」というような戦略は難しいそうです。
近年の合成ゼオライトの多くは、様々な有機物を孔の「鋳型」として使い、周りのシリカが固まった後に有機物を取り除くことで、任意の大きさの孔を作っています。伊與木さんは、鋳型になる有機物が高価であるという問題に着目し、これをクリアする低コストな合成法を開発されました(Itabashi et al., 2012, Iyoki et al., 2014)。また、800℃以上になる自動車エンジンの近くでも使える「超高耐久ゼオライト」(Iyoki et al., 2020)など、新たな材料の開発にも成功されています。
現在、ゼオライトの孔には250種類以上の構造がありますが、理論的には数万種類の孔が作れるそう。今後、様々な合成法が開発され、色々な機能をもったゼオライトができてくることを想像すると、ワクワクしますね。
今後のカーボンニュートラルな世界の実現に必要なのは、「CO2を集めて使う」カーボンネガティブな技術ではないか、と話す伊與木さん。特定の物質を吸着できるという強みを生かして、現在はCO2を捕まえて役立つ物質に変える、新しいゼオライトの開発に挑戦されています。参加者の方からも「期待しています!」という声が上がりました。
当日は、10人前後の参加者の皆様とともに、時に専門的な(!)話題で盛り上がりました。伊與木さん、ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。
[アシスタント:加藤千遥]