UTalk / ストーリーで繋ぐデザインとテクノロジー

吉本英樹

先端科学技術研究センター 特任准教授

第164回

ストーリーで繋ぐデザインとテクノロジー

11月のUTalkでは、テクノロジーとデザインを繋ぐ、ということをコンセプトに、様々な世界的ブランドとクリエイティブワークを行ってこられた吉本英樹さん(先端科学技術研究センター 特任准教授)をゲストにお迎えします。これまで吉本さんがご活動の中で最も重要視してきたことは、ストーリーを語る、ということ。どんなプロジェクトでも、根幹にストーリーがあり、それを具現化するためにデザインやテクノロジーがある、という姿勢で活動されてこられました。吉本さんのこれまでのご活動や、東京大学で新しくスタートされるプロジェクトから、その手法の一端をご紹介いただきます。

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 2021年11月のUTalk(オンライン開催)では、さまざまな世界的ブランドとクリエイティブワークを行ってこられた吉本英樹さん(先端科学技術研究センター 特任准教授)をお招きしました。今回のテーマは「ストーリーで繋ぐデザインとテクノロジー」です。

 吉本さんは修士課程まで航空宇宙工学を学んだあと渡英し、Royal College of Artで博士号を取得、その後ご自身の会社を立ち上げてロンドンを拠点に活躍されてきました。この春日本に戻り、先端科学技術研究センター(先端研)に新しく開設された先端アートデザイン分野でも活動されています。航空宇宙工学からデザインへの転身は一見すると不思議ですが、吉本さんの中では自然につながっている、とおっしゃっていました。

 簡単な自己紹介のあと、吉本さんはこれまでの作品の画像を見せながらお話ししてくれました。はじめに登場したのは起業するきっかけになった作品で、先端から温かい光を放つ細長い棒が何本も地面から生えており、それが周囲の状況に反応して揺れたり明滅したりします。これは「INAHO」という作品で、実際の稲穂を再現したようなデザインではないにもかかわらず、見る人に稲穂のある風景を思い出させます。私は作品名を聞いたときに違和感なく「なるほど、たしかに稲穂だな」と思い、吉本さんから説明があって初めて、不思議なことが起きていることに気付かされました。鑑賞者の記憶、情景への「入口を提示することで、見る人の頭・記憶・想像の中で作品が完結していくと美しい」という吉本さんの言葉が印象的でした。

 このあとも吉本さんは、依頼されてデザインしたものを含めて、色々な作品を紹介してくれました。例えば自動車部品メーカーの依頼で未来の車をテーマにデザインした作品は、白い糸でつくられた車のような形の殻の中に、表面がLEDディスプレイになっているサッカーボール状の物体が収められたものです。中にいる人間にとって居心地がよく、かつ外界から頑丈に守るという車の性質を、蚕の繭をメタファーとして表現しました。吉本さんはこの繭のメタファーのように、どのようなコンセプト・ストーリーを提示するか、という部分を大切にしているとのことで、それぞれの作品の紹介を聞いていても、そのことが伝わってきました。
 現在では作品制作に加えて、先端研の先端アートデザイン分野で、テクノロジーとデザインを組み合わせた新たな技術開発に取り組んでいるそうです。筆者はなんとなく、新たな技術(工学)が先にあってそれが芸術・デザインに応用される印象を持っていましたが、それが逆転して芸術・デザインから工学へのフィードバックを試みている様子が印象的でした。そして最後に、六本木ヒルズにこの冬展示されるクリスマスツリーを紹介して、吉本さんはお話を締めくくりました。

 吉本さんの作品には随所に技術的な側面も散りばめられていて、お話や参加者とのやり取りを聴くなかで、工学への関心が一貫して活動の中心付近にあるのだろう、と思いました。個人的に、最先端の技術を前面に押し出した作品には少し尖ったような落ち着かない印象を持つことが多いのですが、今回見せていただいた作品はそのような刺さる感じではなく、温かい雰囲気を持っていたように思いました。あくまでもストーリーを伝えることを軸にしつつ、作品に新たな技術を取り入れていることの効果なのだろうか、と想像しました。

 今回の吉本さんのお話では抽象的な一般論が先に提示されたわけではなく、具体的なエピソードと作品(の映像)を鑑賞していくなかで、吉本さんが重視する「ストーリーを伝える」という姿勢が浮かび上がってきました。そのため今回のレポートには吉本さんの言葉をそのまま載せるだけではなく、筆者の体験を言語化してまとめたいと考えました。このような言語化まで含めて、作品を鑑賞するという体験をできたように感じています。

 吉本さん、参加者の皆さん、ありがとうございました。

[アシスタント:石井秀昌]