大気海洋研究所 講師
第163回
平林頌子さん(大気海洋研究所 講師)のご専門は古気候学で、主にサンゴの化学分析をもとに過去の海洋環境復元をされています。平林さんは、昔の海がどんな様子で、どのように気候が変化したかを、サンゴを用いて復元しています。サンゴにとりこまれた放射性炭素や微量元素などを分析することで、過去の海の様子がどのようだったのか理解できるそうです。過去の気候変動を知り、地球が変化するメカニズムを理解することで、温暖化等、将来の予測にもつながる古気候学。休日の午後、先生のお話を聞きながら少し学んでみませんか。みなさまのご参加をお待ちしております。
2021年10月のUTalkでは、古気候学がご専門の平林頌子さん(大気海洋研究所 講師)をお招きし、「サンゴは海のタイムカプセル」というテーマでお話しいただきました。
「古気候学」という言葉はあまり馴染みがないかもしれませんが、長い地球の歴史の中で起きた様々な気候変動の実態を明らかにし、これからの地球環境の予測など最先端の取り組みに生かしていく学問です。現在は分析機器が発達し、高精度な気候データをリアルタイムで記録できるようになっていますが、季節や数十年、数百年から数千年といったスケールで起きる気候変動を明らかにするには、機器による記録がない時代の気候を調べることが大切になります。
古気候の復元では、暖かい・寒いといった気候に関する情報と、それがいつ頃の気候なのかという年代の情報を明らかにすることが求められます。平林さんは海洋環境の復元を専門的に実施されていますが、日本の南方に生息しているサンゴを使用することで、日本周辺の海に関する古気候が分かるのだそうです。サンゴの骨の成分である炭酸カルシウムを分析することにより、昔の海洋環境と年代の両方を明らかにできるとのことでした。さらに、サンゴが生息する水深が明らかになっているので、サンゴの発見場所によって、たとえば「このあたりは昔、もっと浅い海だった」という情報を得ることもできます。また、津波や台風によって打ち上げられたサンゴの分析をすることで、防災研究にも役立つ情報を得ることが可能になります。このようにサンゴは私たちが思っているよりも、たくさん地球の歴史に関する情報を人類に提供してくれているのです。
会の後半では、参加者の方から質問が多く上がりました。昔の気候を調べるために使用されるのは、サンゴだけではありません。「他の調査対象物から得られた結果と、サンゴの調査による結果が違う場合はどちらを採用するのか」という鋭い質問がありましたが、そういった時には様々な研究データを集めて、慎重に結果の検討を行って古気候学という学問自体の発展につなげているそうです。また、法律を学ばれている参加者の方からの「現地に調査に行くときに法律的な問題で難しいことはあるのか」という質問に対して、調査に行く時は環境省や県からの採捕許可が必要なこと、海で調査をするときは地元の漁協や漁師の方の協力が不可欠になるので、地域とのネットワークも大事になる、というようなエピソードもお話しいただきました。
「昔のことを調べる」というと当時の人が書いた文字史料や芸術作品などを調べるインドアなイメージが強いですが、地球の気候の歴史を知るためには、平林さんのようにサンゴを海まで採りに行くアウトドアな調べ方もときには必要になるということを実感できた時間になりました。
平林さん、参加者のみなさま、楽しい時間をありがとうございました。
[アシスタント:山田瑞季]