大学院理学研究科 地球惑星科学専攻 教授
第162回
杉田精司さん(大学院理学研究科 地球惑星科学専攻 教授)のご専門は惑星科学で、JAXAの小惑星探査機「はやぶさ2」の可視画像の解析責任者をされています。「はやぶさ2」の成果は、わたしたちが住む太陽系の初期進化について様々なことを明らかにする鍵となります。近年、太陽系の惑星が過去に大きな軌道変動を経て現在に至ったとする仮説が主流になりつつありますが、「はやぶさ2」が持ち帰った小惑星リュウグウの試料分析は、この惑星進化理論に大きく寄与することが期待されるそうです。「はやぶさ2」は何を成し遂げたのか。何が分かって、今後にどんな発見が期待されるのか、お話を聞きながら宇宙への夢を一緒に膨らませてみませんか。みなさまのご参加をお待ちしております。
2021年9月のUTalkでは、地球惑星科学がご専門の杉田精司さんをお招きし、「リュウグウの粒と太陽系の謎」というテーマでお話をしていただきました。杉田さんは、JAXAで小惑星探査機のはやぶさ2に関するお仕事をされています。今回のお話では、はやぶさ2がどのように探査を行ったかについてお話してもらいました。
そもそも、はやぶさ2はどのような目的を持って打ち上げられたのでしょうか。それは、生命の材料物質である「地球の水や有機物の起源を探る」こと。これが、はやぶさ2のミッションであったそうです。
惑星がどのようにできていくのかというテーマについては、さまざまな天文学者が調べており、調べ方も多様です。そのなかの一つのアプローチとして、電波望遠鏡があげられます。例えばアルマ望遠鏡を使った調査では、形成中の惑星の写真からリング状の形状が観測されました。これは、星雲から惑星系になる途中の状態です。様々な星雲や惑星系においてこのような惑星ができあがる初期の状態を観測するのに望遠鏡はとても優れています。
他方で、はやぶさのような探査機は、1回につき1つの場所にしか行くことができません。しかし、物質の分化がどのように起こっているのかは、そこの場所に行って物質をとってくるしか方法がありません。このように、どんなに大きな望遠鏡でみてもわからない疑問に、惑星探査機は応えることができるのです。
このような目的のもと、はやぶさ2は2014年12月3日に種子島宇宙センターから発射されました。行き先は、小惑星「リュウグウ」です。打ち上げから3年半たち、リュウグウの実際の姿がはやぶさ2から送られてきた際、杉田さんたちはもともと想定していた球に近い形ではなく、まるでそろばんの珠のようなひし形の断面形状をしていることに大変驚いたそうです。送られてきた画像からリュウグウの地形図を作成し、一番大きなクレーターは「ウラシマ」と名付けられました。そのなかで、リュウグウの色が反射率2%ととても黒いことから、炭素に富むということも判明しました。
はやぶさ2の着陸のため、地形に関する調査は続きます。その結果、リュウグウの表面は、いたるところに岩石が転がっており、当初想定した着陸ができそうな砂地が見当たらないことがわかってきました。よく見ると、土砂崩れのような跡がみてとれたり、角礫岩とよばれる違う場所からきた石の破片同士がくっついた岩もあり、かなり複雑な様相を呈していたのです。そこから、だんだんリュウグウという小惑星自体の歴史もわかってきました。
このような調査を踏まえて、最初のタッチダウン(着陸)が成功し、サンプルを無事取得することができました。はやぶさ2では、着陸の際に弾丸を発射し、そこで巻き上がった粒子を採取します。杉田さんに見せていただいた映像では、反動で多くの石や砂が飛び散っている様子が映されていましたが、はやぶさ2の本機自体には損傷もなく成功したということでした。
最初のタッチダウンでサンプルの回収に成功しましたが、これは小惑星の表面を覆う物質でした。その後、人工的に大きなクレーターを作ることにも成功したのですが、この際に露出した部分が表面とは色が違うことから、衝突により地下物質が表面に露出したことがわかります。
ここで、あえてリスクをとって2回目のタッチダウンを行うかどうか、苦悩があったと杉田さんはおっしゃいます。1回目のタッチダウンは成功しており、このまま帰還しても世界初の偉業は保証されているわけですが、もし2回目にチャレンジして失敗してしまったら、最悪の場合試料を地球に持ち帰れない可能性もあります。しかし、もし2回目の採取が成功すれば、圧倒的に科学的価値の高い物質が手に入ります。そこで杉田さんたちは、地下物質が必ず存在するというデータ、そしてこのチャレンジが必ず成功するといえるデータを提示し、見事2回目のタッチダウンを成功させます。
はやぶさ2は2020年12月6日に地球に帰還しました。このミッションを通して、なんと予定の54倍である5.4gもの採取サンプルを持ち帰ることに成功していたのです。詳しいサンプルの分析はいま行われている最中で、杉田さんはその結果が楽しみですとお話を締めくくりました。
参加者のみなさんからの質問のなかでも、はやぶさ「3」の可能性について期待する声がありました。後継機に関して、未分化な太陽系の初期の状態について調査が可能な天体への探査機を検討しているとのことでした。
今回のお話のなかで、最初に宇宙についての研究の手法として望遠鏡と探査機の対比がありました。私たちにとって宇宙とは例えば夜空の星を見上げるように遠く手に届かない存在だと感じられます。これに対し、はやぶさ2が撮影した小惑星リュウグウのゴツゴツとした表面の様子は、手の届かない宇宙に急に手触りを感じたような気持ちにさせてくれました。はやぶさ2はミッションを終え、無事に地球に帰ってきましたが、持って帰ってきてくれた試料の研究はまだまだ始まったばかりです。これから、その分析結果によって新しい研究知見をもたらしてくれることが待ち遠しく感じられました。
[アシスタント:増田悠紀子]