UTalk / 銀河の生い立ち ~天の川に思いを馳せて~

百瀬莉恵子

東京大学国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構 特任研究員

第161回

銀河の生い立ち ~天の川に思いを馳せて~

8月のUTalkは天文学を専門とする百瀬莉恵子さん(東京大学国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構 特任研究員)にお話しいただきます。夏の夜空を見上げると星が集まった天の川が見えますね。この天の川は、私たちの地球が属する大きな天体系である銀河系を中から見たものです。銀河系のように、星が数百数千と重力的に集まった天体を「銀河」と言います。銀河の成長には星の材料である「ガス」と「ガスの循環」が鍵を握っているそうです。今回のUTalkでは、銀河が成長するとはどういう意味?ガスはどのような役割を果たすのか?銀河の一生とは?など、天の川のような銀河一般の進化について様々な質問に答えていただきます。旧暦の七夕の前に一緒に学んでみませんか。

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 2021年8月のUTalkでは、天文学を専門とする百瀬莉恵子さん(東京大学国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構 特任研究員)をお招きしました。今回は「銀河の生い立ち~天の川に思いを馳せて~」というテーマでお話ししていただきました。

 百瀬さんはお話を始める前に、参加者の皆さまから宇宙に関して知っていることを募集しました。そこではたくさんのキーワードがあがり、宇宙は私たちの生活の中に潜んでいることが分かりました。なかでも百瀬さんは銀河の成長について研究されています。銀河は新しい星(自ら光を放つ星)が形成されたり、ブラックホールの質量が増えたりなど、人間と同じように成長を続けているのです。

 今回百瀬さんは、銀河が成長しているかどうかを観測するポイントとして銀河の色と星形成の2つを紹介してくださいました。1つ目の色については、銀河の質量と存在している年数の関係を調べると、形成されて間もない若い銀河は青、形成されてから時間が経った銀河は赤という違いが見られるそうです。ここで百瀬さんは実際の銀河の写真をたくさん取り上げて、実際の色の違いを見比べました。その中には、現代アートで見られるような、赤と青が点在するカラフルな色の銀河が含まれていましたが、そこで参加者の方から「実際にこのような色で見えるのか?」という質問が出ました。百瀬さんによると、研究の中で銀河の色について議論する時には光の波長に基づいて色の違いを比べており、写真を作る際には、わかりやすいように擬似的に色をつけているだけなので、実際にこのように見えるわけではないとお答えいただきました。
 2つ目の星形成については、星形成が活発で成長が盛んな銀河は青く、そうでない成長が停滞している銀河は赤いとのことです。ここから「星はどうやって形成されるのか?」というお話になりました。1つの星は星間ガスというガスが集まって形成されており、その後も星間ガスを取り込み続けながら成長し、やがて爆発して散らばる、という生涯を遂げます。銀河の内部ではこのようなサイクルがずっと続いており、銀河の成長につながっているのです。

 ここで百瀬さんから「ダークマター」という物質について説明がありました。ダークマターは宇宙の質量の4分の1を占める物質ですが、どのような物質で構成されているのかなどの詳しいことは何も分かっていない、謎に満ちた物質であることを解説していただきました。銀河はこのダークマターがたくさんあるところで生まれ、周囲の空間(銀河間空間)からガスを取り込み、全体として成長していくのです。

 このように銀河の成長について色と星形成の観点から説明していただきました。百瀬さんのお話を聞くと、銀河の成長についての謎がかなり解明されているようにも思えますが、実際にはまだ大まかなことしか分かっておらず、成長のプロセスでどのような現象が起こっているのかについてはまだまだ不明なことばかりで、世界中の研究者たちによる観測やシミュレーションが今も進められています。

 会の後半では、参加者を交えてディスカッションが行われました。前半にお話いただいた百瀬さんの研究に関する質問や、中には科学雑誌に掲載されていた従来のシナリオでは説明が難しい成長を経験している巨大銀河に関する質問まで、バラエティに富んだ質問が寄せられ活発な時間となりました。

 最後に百瀬さんから、国立天文台が行っている市民参加型の天文学プロジェクト(https:// galaxycruise.mtk.nao.ac.jp/)をご紹介いただき、参加者の皆さまの好奇心がさらに刺激されたような印象を受けました。

 私は天文学とは全く縁のない学生ですが、振り返ってみるとプラネタリウムに行ったり、満月を見ると思わず写真を撮ってしまったりと、身近に感じやすい学問の1つのように感じました。夏は七夕やペルセウス座流星群などが毎年見られますが、今年はそれに加えてスーパームーンと皆既月食が同時に起こるなど、空を見上げるきっかけがいつもより多いようにも思います。新型コロナウイルスの影響で今年も思うような夏休みを過ごせない方も多いと思いますが、この機会に銀河に思いを馳せる時間を過ごしてみるのもいいのかもしれません。百瀬さん、参加者の皆さま、楽しい時間をありがとうございました。

[アシスタント:山田瑞季]