UTalk / 日常生活から環境負荷を減らすには

栗栖聖

大学院工学研究科 都市工学専攻 准教授

第160回

日常生活から環境負荷を減らすには

栗栖聖さん(大学院工学研究科 都市工学専攻 准教授)のご専門は環境システムで、環境負荷やCO2排出量を減らすための環境配慮行動を主にご研究されています。環境により配慮した暮らしに向けて、人の行動を変えていくには、まず現状をきちんと把握し、人がどんな心理要因で動かされているのか分析する必要があります。それをふまえた上で、どのように情報提供すれば行動が変わっていくのでしょうか。気候変動の脅威が深刻になり、世界中が脱炭素に向けて大きく動くなか、私たちがすべきこととは?お話をききながら一緒に考えてみませんか。みなさまのご参加をお待ちしております。

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 2021年7月のUTalk(新型コロナウイルス感染症の影響でオンライン開催)では、環境システムがご専門の栗栖聖さん(工学系研究科都市工学専攻 准教授)をお招きしました。今回のテーマは「日常生活から環境負荷を減らすには」です。

 栗栖さんはまず「環境配慮行動」について説明されました。環境配慮行動とは、温室効果ガス、資源消費や自然攪乱など、環境に悪影響を与えるモノ・コトを減らす行動です。この解釈には幅があり、例えば最も広く捉えれば、環境意識醸成に貢献する行動はすべて環境配慮行動である、と考えることができます。反対に狭義には、本人が環境保護に貢献すると認識していて、かつ実際に環境保護に貢献している行動を環境配慮行動と言うこともできます。研究者にとって、人々にこの狭義の環境配慮行動を促すことが最終的な目標であると栗栖さんはおっしゃっていました。

 このように環境配慮行動とは環境負荷を低くする行動ですが、これを明確に定義するためには、環境負荷を定量的に評価する必要があります。ここで用いられるのが、LCA(ライフサイクルアセスメント)という手法です。LCAは「ゆりかごから墓場まで」と言われるように、材料やエネルギーの製造から廃棄まで、製品やサービスのライフサイクルを通して生じる環境負荷を算定する手法です。LCAによって、環境負荷の総量を製品間で比較できるだけでなく、製造や洗浄、廃棄など、環境負荷が特に大きい工程を明らかにすることもできます。栗栖さんは例として、LCAで環境負荷の比較を行った結果をいくつか紹介してくれました。その1つは、買い物で使用するレジ袋とマイバッグの比較でした。レジ袋を1回使って捨てる、マイバッグを50回使って捨てる、マイバッグを100回使って捨てる、という3通りのシナリオで二酸化炭素排出量を算定した結果、マイバッグを50回使って捨ててしまうと、レジ袋を使い捨てた場合よりも環境負荷がわずかに高いことがわかったそうです。一方でマイバッグを100回使ってから捨てる場合には、レジ袋を使い捨てるよりも二酸化炭素排出量が少なくなります。

 次に栗栖さんは、環境配慮行動の影響因子についてお話ししてくれました。人々の環境配慮行動に影響する因子には様々なものがあり、ある行動への態度や社会規範、それが内在化した個人規範など個人内の因子もあれば、個人の外にある状況的な因子もあります。

 ではどうすれば、環境配慮行動を促進できるのでしょうか。栗栖さんたちは人々への情報提供に注目して、影響因子に関するどのような情報を、どのような媒体で提供するのが効果的なのか、調べています。また社会にLCA的な考え方(ライフサイクル思考)を普及させる研究にも取り組んでいます。製品やサービスの環境負荷を考える際には、ライフサイクル全体に目を向ける必要があります。栗栖さんたちはそれを理解する助けになるようなすごろくを開発し、その教育的効果を検証しているそうです。

 栗栖さんのお話のあと、参加者からは傘を入れるビニール袋や割り箸など、身近なものの環境負荷に関する質問がいくつも出ました。実店舗とEコマースのどちらの環境負荷が低いのか、という質問もあり、これらを環境負荷の観点で比較するという発想が新鮮で、個人的に印象に残りました。ちなみにこの質問への回答は、店舗でのエアコンや照明の環境負荷と宅配時の梱包や輸送の環境負荷の大小関係は自明ではなく、詳しく分析しないとわからないとのことでした。

 栗栖さんは何度も、LCAの分析結果が仮定(分析の設定)に依存することを強調していました。レジ袋とマイバッグの例を思い出すと、捨てるまでにマイバッグを使う回数の設定によって、比較結果が異なりました。このように多くの場合、「レジ袋の環境負荷は高い」といった一面的な言い方はできません。したがって仮定を置き去りにして分析結果だけを拡散しないように注意する必要があります。しかしLCAを通してわかる一般的な傾向もあり、例えば「プラスチックの廃棄による環境負荷は高い」「同じものを繰り返し使うと環境負荷が低くなる」といったことが知られています。このような概念的なメッセージが世の中に伝わるだけでも意味がある、と栗栖さんはおっしゃっていました。

 多くの過程から成る製品やサービスのライフサイクルと人間の行動という、非常に複雑に思える対象を扱っているにもかかわらず、「なんとなく」ではない丁寧な分析が行われていることに驚きました。栗栖さん、参加者の皆さま、ありがとうございました。

[アシスタント:石井秀昌]