UTalk / 人類史上最高エネルギーで素粒子物理学者の夢に迫る

奥村恭幸

素粒子物理国際研究センター 准教授

第146回

人類史上最高エネルギーで素粒子物理学者の夢に迫る

5月のUTalkは、素粒子物理学がご専門の奥村恭幸さん(素粒子物理国際研究センター准教授)をお迎えします。ATLAS(アトラス)実験という国際共同実験グループの一員で、世界中の3,000人もの素粒子物理学者たちと協力して研究をすすめています。スイス・ジュネーヴにある研究機関CERN(セルン)に建設された「LHC加速器」がその研究の鍵を握り、LHC加速器によって作り出される人類史上最高エネルギーでの素粒子反応を精査し「宇宙の謎」に挑みます。素粒子物理学者がまさに人類の総力をかけて挑む「新物理発見」は、わたしたちの宇宙のなりたちを紐解く重要な鍵になるはずです。CERNで一体何が行われているのか、世界最大の実験装置であるLHC加速器とはなにか、宇宙の謎を解き明かす方法にどうやって挑むか、現場で活躍する若手研究者である奥村さんにお話を伺います。みなさまのご参加をお待ちしております。

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 2020年5月のUTalk(新型コロナウイルス感染症の影響でオンライン開催)では、素粒子物理がご専門の奥村恭幸さん(素粒子物理国際研究センター 准教授)をゲストにお招きしました。なかなか接する機会のない「素粒子」について、たとえ話やクイズを交えてわかりやすくお話ししてくださいました。

 奥村さんのお話は、素粒子とはなにか、の説明から始まりました。私たちが日常生活で接する物体の表面は滑らかに見えますが、拡大していくと見えるものが変わっていきます。1/100mmの規模で見ると、手やリンゴが細胞で構成されていることがわかるようになり、さらにミクロな視点に移ると原子の存在がわかってきます。原子核、陽子や中性子、とさらにスケールを小さくしていくと、クォークに到達します。クォークや電子など、今のところこれ以上分割できないと考えられている粒子が素粒子です。クォークや電子を登場人物として語られる素粒子物理の世界は、いくら拡大しても、人間の目に認識できる波長の光では直接見ることができません。

 この素粒子の世界を調べる実験に使う加速器には、大きく3つの役割があるそうです。まず高いエネルギー(運動量)の粒子を用いることで、可視光で見えない小さな世界を見るための「顕微鏡」の役割、新粒子を見つけるために非常に高いエネルギーの粒子を衝突させて別の粒子を作り出す「粒子生成装置」の役割、そして小さな領域に大きなエネルギーを持たせて誕生して間もない宇宙の様子を再現する「タイムマシン」の役割です。

 次に奥村さんは、今回のテーマにもある「素粒子物理学者の夢」を説明されました。たくさんの元素が載っている周期表は、研究が進むことで中性子・陽子・電子の3要素で説明できるようになりました。そして素粒子の「周期律表」を考えると、もっとシンプルに説明できます。4つある力を統一的に理解したいというのも素粒子物理学のテーマの一つです。このように、物理的な現象をよりシンプルに、より美しく説明することが物理学者の目標だそうです。

 最後に、奥村さんも利用する実験施設についてお話しされました。実験に使われるLHC加速器は、周長27kmの装置です。巨大な実験装置ですが、「衝突点」では、髪の毛の半分の太さまで絞った陽子の束同士を正面衝突させるという、繊細な実験を行います。この加速器を管理する研究機関CERNには世界中の研究者が集まり、国際共同研究を行っています。世界中でCERNを利用する研究者は12,000名もいるそうです。コントロールルームに多くの人が集まり実験結果に歓喜する様子など、奥村さんは写真を見せながらCERNの雰囲気をお話ししてくださいました。

 お話の合間にも会の最後にも参加者からの質問は絶えず、素粒子物理に関する質問もあれば、LHC加速器の運用の仕方に関するものもありました。奥村さんのお話から垣間見えた、世界中の研究者が巨大な実験装置を使って想像もつかないほど小さな世界の謎に迫っていく様子にワクワクしました。奥村さん、参加者のみなさん、ありがとうございました。

[アシスタント:石井秀昌]