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樋口洋平

農学生命科学研究科 講師

花を自在に咲かせる園芸学

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概要

11月のUTalkは園芸学を専門とする樋口洋平さん(農学生命科学研究科 講師)をお迎えします。お盆の菊や母の日のカーネーションのように「この日に咲いてほしい花」があったとき、どうやったら思い通りに花を咲かせられるのでしょうか。もしかしたら、人工的に光を当てて開花を制御する「電照菊」をご存じの方もいるかもしれません。では、なぜ光を当てると花が咲く時期を変えられるのでしょう。樋口さんは園芸学の立場から、遺伝子レベルで「どのようにして花が咲くのか」を研究されています。そこから見えてきたのは、より効果的に花を咲かせられるかもしれない方法でした。花を自在に咲かせる園芸学――そんな学問に出会ってみませんか。みなさまのご参加をお待ちしております。

2019年11月のUTalkには、樋口洋平さん(農学生命科学研究科 講師)をゲストとしてお迎えしました。樋口さんは園芸科学を専門にされていて、今回は開花の自在な制御をテーマにお話ししていただきました。会の前半では樋口さんから園芸学やキクの開花制御に関するお話があり、後半は参加者とのやり取りで会が進みました。

お話は園芸の説明からスタートしました。広い土地で開放的に育てるのと対照的に、園芸は比較的狭い土地の囲いの中で保護しながら植物を栽培管理することを指します。対象は大きく果樹・野菜・花卉(かき)の3つにわかれていて、樋口さんは花卉を専門にされています。

開花を人為的に制御することは、私たちの暮らしに重要です。花自身が商品になる花卉ではもちろんですが、穀物や果菜類でも開花の先に実を結ぶ段階があり、開花のタイミングが影響します。また葉物や根菜類では花を「咲かせない」という制御、また品種改良のためには異なる品種を同じ時期に開花させる技術が必要になるそうです。

今回テーマとなったキクは世界三大花卉の1つで、日本でも国内の切り花生産量の40%を占める、需要の高い花です。樋口さんは実際にいくつかの花を見せながら、キクなどの使われ方を説明してくれました。キクの需要は彼岸やお盆など「もの日」に集中するので、開花を調節して生産をもの日周辺に合わせることが大切になります。現在は照明器具を利用してキクを育てる、いわゆる電照菊が全国に普及しているおかげで、自然には秋に咲くキクを一年中買うことができます。

ではキクはどのように開花のタイミングを決めるのでしょうか。花植物は日の長さを知るために使う、光を感じるセンサーを持っています。これまでは、花を咲かせるホルモンが葉から茎を通って芽がつくられる部分に到達して花がつき、電照を利用するとそのホルモンの合成が抑制されると考えられていました。しかし樋口さんらの研究の結果、キクでは電照している間も花を咲かせるホルモンは常に合成されていて、一方で開花を抑制するタンパク質も合成されていることがわかりました。電照により開花を抑制するタンパク質の合成が促進され、開花の時期を調節できるのです。このタンパク質の性質や発現の様子を調べて、今よりも効率の高い電照栽培技術が提案されています。

参加者との会話の中では、キクの性質や栽培に関する具体的なこと、園芸一般に関することの両方が話題になりました。見た目に区別できないようなキクの品種が並ぶ花のカタログに参加者が見入ったり、参加者の体験談が話題を拡げていったりする様子が印象的でした。またゲノム解析やゲノム編集の技術も樋口さんから紹介がありました。人為的な操作に頼るゲノム編集に対して、自然のポテンシャルを利用する従来型の品種改良では形質を大きく変えることができ、その重要性は今後も変わらない、という指摘も私には新鮮でした。

樋口さんのお話の端々から花、キクが好きな様子が伝わってくる、素敵な回でした。樋口さん、参加してくださった皆さん、ありがとうございました。

[アシスタント:石井秀昌]

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