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小坂理子

医学系研究科国際保健学専攻人類生態学分野 助教

明るい個食

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概要

4月のUTalkは、インドネシア・西ジャワの農村と都市部でフィールドワークを行う小坂理子さん(医学系研究科国際保健学専攻人類生態学分野・助教)をお迎えします。近年途上国では、太ったお母さんと痩せた子どもに象徴されるように、過剰栄養と低栄養が世帯で同時に起こる状態(栄養不良の二重負荷)が頻繁に見られます。このメカニズムを解明しようとする中で、小坂さんは個食に着目しているそうです。個人が好きな時間に好きなものを食べ、働ける体であれば「セハット(健康)」という、ネガティブでない個食。そうした西ジャワの人々の考え方に触れ、私たちの健康志向や食事に対する意識を振り返ってみませんか?

2018年4月のUTalkでは、医学系研究科国際保険学専攻人類生態学分野助教の小坂理子さんにお越しいただきました。インドネシアでの食に関するフィールドワーク研究から、特に「個食」をテーマにお話しいただきました。

小坂さんが調査を行っているインドネシア・ジャワ島西部では、ひとりで食事をとる「個食」が、ネガティブではない当たり前のこととして行われています。日本で個食というと、都市で一人暮らしをする若者や子どもたちの「社会問題」のように思えますが、インドネシアでは都市や農村に関わらず個食が一般的です。

例えば、ある家庭ではお母さんが朝に一日分の食事をつくりおきしています。家族のメンバーは自分が食べたいときにそれを必要な量だけとって食べる。毎日がビュッフェ形式になっているのです。
家の外でも、屋台で朝食を食べたり、子供たちが学校近くの出店で買い食いをしたりすることも普通です。「ちゃぶ台で一家団欒」という概念がそもそもなく、日本とは全く異なる食生活が営まれています。

ある時小坂さんは「悲しい時にやけ食いをするか」尋ねたそうですが、そもそも質問の意図が理解されなかったそうです。インドネシアでは「食」と「感情」を結びつけて発想せず、「がんばったからご褒美に食べる」こともないようです。

なぜ「個食」が一般的なのでしょうか。一つの仮説は、「一人分」で消費することが当たり前になっているからです。インドネシアでは会社勤めの人が少ないため、まとまったお金が入ることがありません。そのため、一回ずつ、一人分のモノを買うことが普通になっています。町や村の売店では、洗剤すら一人分に個包装されて売られています。

個食が当たり前になっていると、お母さんが家族全員の栄養を管理するのは難しくなります。そもそも小坂さんが「個食」に注目したのは、町に肥満(過栄養)の人と低栄養の人が同時に存在しているのはなぜかを考えたからでした。同じ環境で暮らしている人でも、ひとりひとり違う食生活を送っているからこそ、栄養状況の違いが生まれるのです。

ただ、結果として栄養の問題はあるにせよ、「個食」がそもそも「問題」であるわけではありません。参加者の方から「明るい個食」というタイトルに込めた意図を尋ねられた小坂さんは、そう答えられました。お母さんがキッチンの裏手のテラスに腰掛けて、陽の当たるなか一人で食事をしている。子供たちは、食事以外の場面で大人や仲間と関わりながら社会性を育んでいる。そんなインドネシアの光景は、日本に住む私たちの「当たり前」とは違う、もう一つの「当たり前」なのです。

小坂さん、参加者のみなさま、どうもありがとうございました。

[マネージャー:杉山昂平]

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