情報理工学系研究科 助教
第120回
3月のUTalkは、バイオインフォマティクスを専門とされている福永津嵩さん(情報理工学系研究科 助教)をお迎えします。これまでの動物行動学では「人間の目」で行動をカウントすることが一般的でしたが、近年ではソフトフェアを開発し、「機械の目」で行動を視ることができるようになっています。例えば、メダカの行動について、機械の精密な目を通すと何が見えてくるでしょう。情報技術を活用した新しい生物学の姿についてお話いただきます。みなさまのご参加をお待ちしております。
2018年3月10日のUTalkは、福永津嵩(情報理工学系研究科 助教)をお迎えして行われました。福永さんは、メダカの求愛行動をコンピュータや数学を利用して研究されています。
福永さんが動物行動学を始められたのは、動物行動学が心の科学のフロンティアであったからでした。心と行動は密接に連動しており、まだ解明されていないことが多くあります。
まずは生物学の起源からお話が始まりました。生物学の起源は、アリストテレスに遡ります。もともと生物学としての動物行動学では、丁寧に行動を観察したり、2つの集団間にある行動の違いを比較したりすることが主流だったそうです。
福永さんの場合、人間が観察するのではなく動くメダカをコンピュータに認識させることで、行動の軌跡(トラッキングデータ)を分析します。メダカのトラッキングデータは、メダカを楕円に見立て、その位置と角度として取得されます。そのためのプログラムを開発されているそうです。
特に福永さんは、メダカの求愛行動を題材に研究されています。なぜメダカかというと、メダカが他者性を持ち、社会性があると言われているからだそうです。また、進化を研究するに際にも、メダカは血統が残っていることや稚魚が産まれやすいなどの特徴があるため、研究に向いているそうです。
こうしたコンピュータや数学を利用した生物学ビックデータの研究は2010年ごろから多くされるようになったそうです。福永さんは、さらなる普及を目指しているが、まだ技術的な課題や制約も多いとおっしゃっていました。
参加者からは、「心があるとすると、実験時にも環境が大きく影響するのではないか」という質問がありました。福永さんによれば、実際に、実験状況におけるタライの色や音などが影響することがわかっているそうです。白いタライの時にはメダカが一切動かないこともあったということでした。またこうした研究を人間に応用できるか、という話題も挙がりました。人間の行動のトラッキングはなかなか倫理的に難しいものの、投薬の影響の研究は蠅などを用いて行われ、人間への応用が考えられているそうです。
メダカの心や行動をコンピュータを使った行動分析から見ていくという研究は、私たちの眼では見えていなかった生物の不思議を顕在化させていく可能性のある研究だと感じました。福永さん、参加者のみなさん、ありがとうございました。
[アシスタント:青木翔子]