UTalk / 宇宙を観測する新しい窓 重力波

三代木伸二

宇宙線研究所 准教授

第118回

宇宙を観測する新しい窓 重力波

1月のUTalkは、岐阜県神岡町を拠点に重力波望遠鏡の研究開発をされている三代木伸二さん(宇宙線研究所 准教授)をお迎えします。2016年に初めて重力波が観測され、翌年のノーベル物理学賞受賞に世界が沸きました。初観測まで、本当に検出できるかどうかも分からなかった重力波の研究は、異端とされた時代もあり、その苦労から今日のように国際的な協力体制が生まれたそうです。宇宙の誕生をも見ることができるという重力波天文学の始まり、それを支える超高感度の実験装置の世界をのぞいてみませんか?みなさまのご参加をお待ちしております。

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今回のUTalkでは、宇宙線研究所宇宙基礎物理学研究部門重力波観測研究施設准教授・博士(理学)の三代木伸二さんをお呼びし、重力波についてのお話を伺いました。

「重力波」とは、光でもなく電磁波でもない、文字どおり、重力の波です。

"波"といえば海が思い浮かびます。海の波はゆっくりと流れるような波です。東北や熊本で起こった地震もこの"ゆっくり波"の仕業です。波にはこの"ゆったり波"のほかに、とてつもなく速い電磁波と呼ばれるものがあり、携帯電話やテレビなどが使えるのも、この電磁波のおかげです。

では、"重力"とは一体何でしょうか。まず、バンジージャンプを思い浮かべてみましょう。人は支えも地面もなくなった時、初めて重力で「落ちる」体験をします。ところが、落ちている本人はまるで宇宙遊泳をしているかのように、ふわふわと浮かんでいるように感じるのです。まるで恋のようですね。自分は浮かんでいて、周りのものが上がっていっているだけ。重力は本当にあるのでしょうか?ないのでしょうか?

では、何か自分以外の他のものと一緒に落ちてみましょう。例えばりんご。1つでは寂しいので4つのりんごと。するとどうでしょう、4つのりんごは地球の中心一点に向かって集まるように落ちていきます。もし浮かんでいるならこんなことは起きないはずです。

りんごが地面に向かって落ちるのは、地球とリンゴの間の万有引力で引っ張られているからだとニュートンは説明しました。でも4つのりんごの場合の左右のりんごが近づくのは万有引力だけでは説明できません。なぜなら万有引力は、'空間'しか考えていないからです。そこでアインシュタインは'時間'も空間と同じに扱うという概念を持ち込みました。

りんごがそこにある、といった時、そのりんごはその時、その場所に、存在しています。そして'質量'を持って存在しています。アインシュタインはこの質量があるおかげで、まわりの'時空'がゆがんで、左右のりんご近づくのだと説明しました。これは人も同じ。つまり私たちは、今、ここに、存在しているというだけで時空を歪めているのです。

アインシュタインの発想のおかげで、りんごが動くというのはわかりました。海の波が上下し、寄せては返すのも、時空の歪みに原因を帰することができます。

重力波は、質量を持ったものが非軸対称な運動をすることによって生まれます。これを検出するには、星のような非常に大きな質量を持ったものが必要になります。しかも、その振幅は非常に小さいので、地球上で観測することははなかなか難しい。しかし、それでも重力波の直接観測に挑戦すべく、アメリカワシントン州、ルイジアナ州に本拠地のあるLIGO、イタリアピサ郊外に本拠地のあるVIRGO、そして日本の岐阜県飛騨市神岡町にあるKAGRAといった、世界各地の重力波望遠鏡が建設され、協力しながら重力波の観測が目指されています。

そしてついに、2015年9月14日に、太陽の重力の36倍と29倍のブラックホール同士の合体からの重力波の信号が確認されました。ブラックホールとは、星が自分の重力に耐えられなくなった時に大爆発を起こし、その後にできるなんでも吸い込む星のことを指します。このブラックホール合体から放出された重力波の振幅は10の-21乗ほどの非常に小さいものでした。ブラックホールを直接観測するには、光が吸い込まれるので、電磁波では不可能で、重力波しかないのです。

ウェーバーが重力波の直接観測実験を開始してから、三代木さんが現在のような重力波の研究に関わるまで、実に4半世紀の年月が経っています。三代木さん自身は、元々は'重力'に興味があり、今は重力波の研究に関わりましたが、本当にそのような研究をやっていて良いものかと何度も悩んだそうです。今から約400年前にさかのぼる「光」の天文学の誕生は、ガリレオ・ガリレイの天体観測の成功に端を発しています。このように長い長い時間と多くの人の力で、重力波天文学が始まったことを考えると、ただ事ではない気がします。

アインシュタインの唱える相対性理論は、長い間その正しさが証明され続けています。物理学者たちの本音は相対性理論では説明できない現象がみつかることでした。重力波もその可能性の内の一つです。結局、重力波が本当に存在することが証明されましたが、このような壮大な研究は一人ではなしえないことで、人が一人ではなく、他の人と一緒に過ごすことを選ぶ理由にもなる気がします。

ここで、アインシュタインの見つけた「時間」という視点から、宇宙の成り立ちを考えてみます。宇宙が誕生したのは今から約138億年前。宇宙誕生から38万年間、光は直進できず、重力波とスーパーカミオカンデでおなじみのニュートリノ振動だけが通過できたと言われています。つまりこの2つの波だけが見える世界があるということです。月に帰るかぐや姫も、きっと未来からやって来た使いなのでしょう。道を歩いていて、月が近いなと思ったことはありませんか。それは決してスーパームーンだからなのではなく、かぐや姫が笑ったり怒ったりしていつもと違った波を起こしてくれているからかもしれません。

私たちが地球と長く付き合っていくためには、私たちの起こす揺れが小さすぎても、大きすぎても、いけないのでしょう。外を歩く時、電車に乗る時、スマートフォンばかり見ていませんか。情報通信技術の発達でますます忙しい世の中にはなりましたが、たまには公園で、鳥の声を聞きながらゆったりとお茶をするなどいかがでしょうか。夜空から星や月がなくならないために、私たちも上を向いて、夜空に浮かぶ星たちににっこり微笑んでみませんか。きっとあなたも重力波を感じることができるでしょう。もし重力波を感じられたら、銀河鉄道の旅への切符があなたのもとにも届くかもしれません。

【アシスタント:東野美夢】