UTalk / 芸術との関わり方をたずね歩く

高橋かおり

情報学環 特任助教

第117回

芸術との関わり方をたずね歩く

12月のUTalkは、文化社会学を専門とされている高橋かおりさん(情報学環 特任助教)をお迎えします。私たちにとって、プロの芸術家を目指すことだけが芸術との関わり方なのでしょうか。演劇、現代アート、オーケストラという様々な芸術の世界において,アマチュアをはじめとする「芸術周辺の人々」にたずね歩いてきた研究から、芸術と関わる人生のあり方を考えてみたいと思います。みなさまのご参加をお待ちしております。

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あなたと「芸術」はどんな関係ですか?と聞かれたとしたら、皆さんはどう答えますか。芸術との関わり方は多様に開かれているようで、実は生み出す側とそうでない側、仕事にしている人とそうではない人、と無意識に壁があるようにも思えます。本当は、芸術を鑑賞する、芸術の主体になる、芸術を応援する...といったように芸術との関係は多様なあり方があるのではないでしょうか。

12月のUTalkでは、文化社会学を専門とされている高橋かおりさん(情報学環 特任助教)をゲストにお招きし、様々な芸術の世界への「芸術周辺の人々」の関わり方を中心にお話をお伺いしました。

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2017年12月9日のUTalkは、高橋かおりさん(情報学環 特任助教)をお迎えして行われました。
高橋さんは、演劇、現代アート、オーケストラという様々な芸術の世界においてアマチュアをはじめとする「芸術周辺の人々」について研究されています。

トークは、配布された高橋さんの人生の年表に沿って展開していきました。大学時代、演劇にのめりこんだという高橋さん。そこで舞台を支えるスタッフをしながら疑問に感じたのは、「なぜみんな前に出て表現したいと思うのか?」ということ。大学という短い時間の中で、こんなに一生懸命になるのはなぜだろう、そして表現するのはなぜだろう?ということについて卒論を書かれました。

修士時代には、現代アートとして取り組みが盛んな「アートフェスティバル」を取り上げて研究されたそうです。芸術家が主導して、現代芸術を地方の中で行うアートプロジェクト。多くのアートプロジェクトは、たくさんのボランティアスタッフや美大生によって成立しています。特に高橋さんは、なぜ都内の美大生は、わざわざ地方の田舎に行ってこれを行うのだろう?ということに疑問を持たれ、そこで「展示会に参加したことがその人にとってどのような意味があったのか」ということを調査されたそうです。

こうした調査から見えてきたのは、キャリアと芸術の関係性。 演劇も美術も、芸術は一般的に、大学卒業後、それだけで食べていくのは大変、という進路の不安定さがあります。それゆえ、芸術においてプロとは何か?ということが定義しづらいのです。たとえば、自分の絵画作品の販売で収入はあるが、生活を支えるほどではない人。一方で、普段は他の仕事をしていて、休日に演劇をしていて、お金儲けではなくクオリティを追求し続けている人。研究者側で「プロ」を操作的に決めることはできますが、高橋さんはそうすることへ疑問をもち、それぞれの人たちにとっての「芸術」や「プロ」がどういうものなのかをインタビューされたそうです。今後は、どのようなモチベーションで芸術と関わっているのか、そして、その人のキャリアにとって芸術はどう影響しているのか?そのあたりを探っていかれるとおっしゃっていました。

参加者からは、芸術に関わるなかで精神的にしんどくなってしまう方がいるが、そういう人たちにアプローチする可能性はあるのか?という質問も。高橋さんは、芸術を続ける中で、「自分に才能がない」「これ以上続けていくことができない」と悩む人たちも見てきたそうです。売れないのは才能のせいではなく、社会学的にみると社会の構造の問題としても捉えられると伝えていくことで、悩んでいる方々の見方が少しでも変わると良いとお話しされていました。また、芸術への関わり方は創り手になるだけではなく、サポートするという芸術の場をアレンジする関わりもあります。そうした多様な関わり方を提示することで、芸術に対して社会が寛容になると良いという話もありました。

今回お話を伺った高橋さんご自身の「研究者としての関わり」も芸術への関わり方の1つと言えるかもしれません。そして、この日UTalkに参加された方も芸術の周辺と言えるでしょう。皆さんと自分なりの芸術の関わりについて考える時間となりました。高橋さん、参加者のみなさん、ありがとうございました。

[アシスタント:青木翔子]