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後藤絵美

日本・アジアに関する教育研究ネットワーク 特任准教授/東洋文化研究所 准教授

ヴェールを選んだイスラームの女性

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概要

9月のUTalkでは、イスラームの思想文化を研究されている後藤絵美さん(日本・アジアに関する教育研究ネットワーク 特任准教授/東洋文化研究所 准教授)をゲストにお招きします。イスラームの女性といえばヴェールをまとった姿が思い浮かびますが、実はヴェールは20世紀半ばには、中東諸国から姿を消しかけていたんだそう。ミニスカートをはき、髪の毛をカールさせていた女性たちがヴェールに回帰しはじめたのは1970年代に入ってから。西洋では女性の抑圧の象徴と捉えられがちなヴェールは、実は彼女たち自身が選んだものでもあったのです。西洋化する社会と自分たちのアイデンティティの中で揺れる彼女たちの心境は、日本の私たちにも通じるものがあるのでは。

2017年9月のUTalkは,日本・アジアに関する教育研究ネットワーク,東洋文化研究所准教授の後藤絵美さんにお越しいただきました.後藤さんには,現代のイスラームの女性たちの多くがなぜヴェールを身にまとっているのかについてお話いただきました.

後藤さんがまずお見せになったのが,1970年代に撮られたという若者たちの写真です.そこにはジーンズやミニスカート,ブーツといった西洋的な装いの女性たちが写っていました.いったいこれはどこで撮られた写真なのか――その答えはイランです.当時のイランでは,現在のようなヴェールの女性は見られなかったのです.それが変わったのは1979年のイラン・イスラーム革命以降のこと.はじめは「ヴェールを被ったほうがいい」というくらいの空気だったのが,しだいに「被らないとだめ」と警察が注意するほどになったといいます.

イランに滞在されていた後藤さんは,ルールだからと当たり前のようにヴェールを被っていたそうです.ところが,あるときイランからトルコへ向かうと,一緒にバスに乗っていた女性たちがトルコに入った途端,いっせいにヴェールをぬいだという経験をしました.ヴェールをまとうのは当たり前のことではない,ということに気づいた後藤さんは,その後エジプトに留学する機会を得ます.エジプトのでは,女性たちは1920年代にヴェールを脱いでいました.それがどのような経緯だったのかを調べることにしたそうです。たからです.

ところが,最近のエジプトでは,女性たちが再びヴェールを身にまとうようになっていました.それがとくに顕著になったのは1990年代以降のことです.なぜそのような変化が起きたのでしょうか.いくつかの理由を後藤さんはお話しくださいました.コーランに布ですっぽり体を包み込むようにという記述があること.ヴェールを被ることで顔の腫れが治ったという奇跡を伝える「かざりたてること」という宗教パンフレットが流行したこと.有名な女優が「悔悛」をしてヴェールを被ったこと,などなど.女性たちにとって,ヴェールを被ることは神様を喜ばせることであり,自分たちに安心感をもたらしてくれる行いでもあったというのです.

いったんヴェールを被ることが一般化すると,宗教的な考えは特にないままヴェールを被る若い女性も増えていきました.1990年代末にヴェールの専門店が,2004年にはヴェールのファッション誌が登場し,現在ではヴェールはおしゃれアイテムとしての地位を獲得しています.

後藤さんがお話しくださったように,ヴェールを身にまとうことの意味や価値は,時代や社会によって刻一刻と変化しています.2010年代のアラブ革命以降は,またヴェールを脱ぐ人たちも増えつつあるそうです.女性たちにとってのヴェールの意味は複雑で多様なものなのでした.

参加者の方から,ヴェールが美しいことはイスラームにとって良いことなのか?という質問が出ました.これについても賛否両論があり,美しいヴェールなどもってのほかで地味なものがいいと主張する人もいれば,おしゃれなヴェールを通して神様と親しむことができるならばよいではないかと主張する人もいるそうです.

後藤さんの話を聞いていて,イスラームの女性を日本で見かけることも増えているけれど,彼女たちにとってヴェールがもつ意味は,その人がどんな人かを知らないかぎり分からないよな,ということを考えていました.後藤さん,参加者のみなさま,ありがとうございました.

[マネージャー 杉山昂平]

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