大学総合教育研究センター 特任講師
第109回
4月のUTalkでは、ゲームと学びについて研究している藤本徹さん(大学総合教育研究センター 特任講師)をゲストにお招きします。最近ではソーシャルゲームやアプリゲームなど、楽しいゲー ムが日々生まれていますが、ゲームは楽しいだけで終わるものな のでしょうか?多様な学びの切り口からゲームの研究をされている藤本さんと、ゲームが生み出している新しい世界を覗いてみませんか?
2017年4月のUTalkは、大学総合教育研究センターの藤本徹さんにお越しいただきました。藤本さんは教育工学やシリアスゲーム(災害や教育、環境問題などの現実的な社会問題解決をテーマとするゲーム)について研究なさっており、アメリカから日本にこの領域の学問を導入した第一人者です。MOOCの開発・運用にも携わっておられます。今日はそのような藤本さんから、「楽しいゲームの先にあるもの」という題で、シリアスゲームの持つ可能性について伺いました。
藤本さんは大学入学を機に教育プログラムや生涯教育の可能性について関心を持ち、2002年に渡米してそこで展開されていた高度なゲーム研究に触れたそうです。加えて2000年代から政府もこの「ゲーム以外の何か(社会問題など)」と「ゲーム」を結びつけて活用しようと主張するようになったため、その分野で10数年キャリアを築くことになったとのことでした。
シリアスゲームは当初から、選挙ボランティアや英単語、食糧支援など様々な題材で開発されてきたそうですが、時代を経てゲームの内容も発展してきたそうです。ここで藤本さんの研究に関するゲームがいくつか紹介されました。中でも特に興味深かったのは、『ジョブスタ』というキャリア学習向けのカードゲームです。「自分に何ができるのか?」という自己分析をする従来の就活とは違い、このカードゲームは色々な課題と職業が描かれたカードを引いた上で、「この職業でこういう課題を解決するにはどうすれば良いのか?」ということを考えるもので、ゲームを通して様々なキャリアをイメージできるようになっています。また、「ねこあつめ(エサやグッズを与えてねこを集めるゲームアプリ)」を遊ぶ世界中のプレーヤーが猫の柄を覚えたり、日本の文化に興味を持つようになる学習事例も、可愛らしい絵と共にお話しいただきました。他にも学生が作成した算数・数学のゲームをウェブ上で公開し、お互いにコメントを付け合うプラットフォームも紹介いただきました。「ゲームで遊ぶだけではなくゲームを作ることそのものが高度なゲームであり、ゲームを作る人が一番頭を使うのだ」という藤本さんの言葉はその通りだと感じました。
参加者の方からは、「子どもが勉強しないでゲームばかりしているのだが、どうすれば良いのか?」という質問が出ました。これに対し藤本さんは、ゲームをやりなさい、と強制させられると嫌がるようになるかもしれませんねと笑いながら話した後、勉強もゲームのようにチャレンジしたくなるゴールやルールを設定したり、まずは自分が面白いと思えることから始めると良いと提案されていました。加えて、現在のMOOCのようなオンライン教育は、勉強が好きな人に対してはアプローチができているものの、そうではない人が継続して学ぶための支援についての研究はまだ進んでいないので、これからゲーミフィケーションの手法を取り入れたりして改善したいとも話されていました。その後も、実際にどのような社会問題がシリアスゲームに応用されうるかについて興味深い議論が続きました。その中で私自身も、運良く勉強の楽しさを体験したからこのUTalkに参加しているのであって、そうでなかったら東京大学にすら来ていなかったかもしれないと思っていました。
とても刺激的な議論を行ってくださった藤本さん、参加者のみなさま、ありがとうございます。
[アシスタント:小寺はるか]