UTalk / ワークショップが創造するモノ

会田大也

ソーシャルICTグローバル・クリエイティブリーダー育成プログラム 特任助教

第106回

ワークショップが創造するモノ

1月のUTalkには、会田大也さん(ソーシャルICTグローバル・クリエイティブリーダー育成プログラム 特任助教)をお迎えします。会田さんは、人が集う場であるワークショップをメディアの一形態ととらえてさまざまな実践を企画されています。まちづくりやものづくりなど何かを作り出すものとされているワークショップの新たな創造を求めて共に語りませんか。 みなさまのご参加をお待ちしております。

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2017年1月のUTalkは、文科省のプログラムである「ソーシャルICTグローバル・クリエイティブリーダー育成プログラム」の特任助教を務めている会田大也さんにお越しいただきました。会田さんはワークショップの手法の研究や、その実践・応用に取り組まれています。

会田さんは現職の前に、山口情報芸術センターというミュージアムで働いていたそうです。ミュージアムの立ち上げから関わり、教育普及の仕事に携わっていました。会田さんは初めワークショップを怪しいものだと思っていたそう。成果が曖昧であることに納得がいかなかったそうでうすが、いくつかワークショップを見学して改良点を思いついたり、また学生時代から作家やアーティストとして活動したりしていたこともあってモノをつくることへの興味もあり、次第にワークショップに興味を持つようになったそうです。

自身の創作活動の経験から会田さんは創造性に興味を持っていて、AIと比較した人間の脳の特性に関連して次のように考えています。「人間の脳にはロジックでは通じない、いい加減な思考法が備わっていて、そのことが創造性につながっているのではないか」、と。論理を飛躍してなんとなく推測する、といった思考法などのことです。そして、このように論理を飛び越えるためには、ワークショップという大勢で考える形式が有効ではないかと考えるようになったそうです。ワークショップで話し合いをしていると、誤解など、論理の整合のつかないことが起こります。それも含めて何かを作りだす力がワークショップにはあると考えているのです。

ワークショップの歴史を紐解いてみると、ワークショップはまず芸術の分野で行われるようになりました。ダンスなど身体表現の分野や演劇などの分野で、演出家が役者からの意見を募って舞台を構成する、といったことを始めた例がありました。そして次第に芸術の分野にとどまらず、「公園設計」の例から始まりまちづくりの中でも取り入れられるようになりました。ワークショップには、創造的であることの他にも良いことがあるそうです。それは、作った後の状況に関してです。そもそもどんな方法をとるにせよ、完成品に対してはいつも不満がでます。専門家が作った際には悪かった点を専門家のせいにできますが、ワークショップの話し合いでできたものに対してはそうもいきません。みんなに責任を分担しておだやかにすごすことができたり、また不満があればまたみんなで更新したりしていけばいいということになります。このワークショップ的なあり方は、様々なデザインに採用されるようになり、例えばWikipediaもこのような形を取っています。このようなワークショップの場を活性化させるのは「ファシリテーター」というワークショップをまとめていく役割の人で、会田さんはファシリテーターのすべきことについてモデルを作成していますが、モデルでは捉えきれない細かいところまで注意してワークショップを行う必要があると考えています。

会田さんがワークショップの手法を応用していこう構想している分野は、コミュニティーの消失に関する事柄です。現在日本は人口が減少しており、村などのコミュニティーが閉鎖される状況が増えてきていますが、心のケアが十分でないケースも多いのです。うまく「コミュニティーを閉じる」ためにワークショップの手法を使おうとされているのです。実際、コミュニティーを閉じる際に、石碑を集めた施設を作ったり、モニュメントを使ったりなどの例があります。会田さんは、デジタル技術やネットなどを使って、元住民がいつでもアクセスできるような形のものを作ることを構想しています。実際何かを作ってみると、それを管理するために住民同士がいつまでも交流を持つことができている事例もあります。このように、ワークショップのメリットが社会の中でうまく活かされようとしています。

このようなお話を受けて、参加者の方からは「ワークショップを実際に実施する時に、話を膨らませるのはやりやすいが、最終的に取捨選択をするのが難しい。何か良い考え方はあるか」という質問をいただきました。これに対し、会田さんは「捨てる」ことがクリエイティブであることを参加者に伝えるようにすることが大事だとおっしゃっていました。「捨てる」ことはネガティブなことに思われますが、それが次の機会、別の機会に活かされたり、また実現することはなくとも、人の心の中に蓄積が生まれたりするからです。

今回のお話を伺い、ワークショップの良さを改めて認識することができました。一見効率が悪そうに見えるワークショップですが、様々なメリットがあることを納得することができました。ワークショップの良さを十分に活かすために、手法を十分に練る必要性も感じました。会田さん、参加者の皆さま、どうもありがとうございました。

〔アシスタント:東秋帆〕