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薄井宏行

工学系研究科都市工学専攻 助教

歩行距離とベンチの密度の関係性

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概要

12月のUTalkは、数学的手法を用いて都市空間を分析・研究されている薄井宏行さん(工学系研究科都市工学専攻 助教)をお迎えします。変化に富んだ都市を扱う都市計画は体系化しにくい一方で、新たな計画の合意形成や説明のために、客観的な数字が求められる場面も増えています。例えば高齢者の休息用にベンチを増やすべきという合意ができたとしても、どの程度、どんな間隔で設置すべきなのか客観的に分析することで、はじめて現状を変えるための理論的なたたき台が生まれます。普段の街を数学的に分析することで見える意外な姿に出会ってみませんか。 みなさまのご参加をお待ちしております。

2016年12月のUTalkは、工学系研究科都市工学専攻助教の薄井宏行さんにお越しいただきました。薄井さんは都市の姿を数理的に分析する都市解析の研究をされています。

都市解析とは、都市を数理的に分析する研究分野だそうです。たとえば、今から30、40年くらい前は道路の長さをいちいち測っていたそうですが、交差点の数、面積、円周率の積の平方根から道路の総延長を簡便に推定する式が発表されました。近年、ガチに数学というわけではなく、客観的・定量的な政策提言に貢献できる研究も増えています。最近まで省庁で実務を行っていたという薄井さんが現在行っている研究の一つは、東京駅周辺の理想的なベンチの数に関する研究です。ベンチがどれくらいの密度で設置されていれば人の歩行距離が適切になるのか研究されています。この研究の出発点には、東京駅八重洲口のベンチがひどく少ないという薄井さんの個人的な実感があったそうです。

ベンチの密度と人の歩行距離について研究することには様々な意義があります。まず現在日本では高齢化が進行していますが、高齢の方が連続して歩ける距離には限度があり、適度な距離に座ることのできるスペースがあることが必要です。また、ベンチを多く設置することは、現在政府が推進している「歩きたくなるまちづくり」にもつながります。さらには、ベンチの密度の基礎となる理論は樹木の管理にも応用されているそうです。樹木の最適な密度についてもベンチと同様に考えることができるのです。このような事情もあり、どれくらいベンチを設置すれば歩行距離を抑えられるのか、薄井さんは研究されています。

ベンチの密度によって人の歩行距離はどのように変化するか。この問題に対して都市解析ではどのようにアプローチしていくのでしょうか。実際の都市の事情は非常に複雑ですが、都市解析の研究では話を単純化して、議論の出発点となるモデルを作ろうとします。まず、東京駅周辺の地図上に、ベンチの密度を変えたときの仮想的な設置場所が赤丸で示してあります。「ベンチの密度を変えて」と言いましたが、ベンチの密度はどう計算してどう配置しているのでしょうか。よくある例として、ベンチをマス目状に配置することを想定した設置基準が示されます。地図の縦方向と横方向に直線を設置間隔に応じて等間隔に何本も引いていくイメージです。現実には、ベンチがマス目状に設置される事例は稀で、ベンチの設置間隔にはバラツキがあります。データのバラツキを扱うための基礎は確率・統計です。確率論に基づき、ベンチをランダムに配置することを考えます。任意のベンチから最近隣のベンチまでの距離の分布を理論的に導出することができます。最近隣距離の平均値は密度の逆数の平方根という関係があります。この関係から、先ほどのランダムにベンチを配置したときに、どのくらいの設置距離がどの程度あるのか、歩行距離の分布として得られるわけです。地図を見ればわかるように、だいたいマス目の一辺の長さが表す距離くらいの間隔でベンチが配置されるように思いますが、そううまくはいきません。点はランダムに配置されているので、50mのマス目に配置したベンチたちの中には、隣のベンチとの距離がほとんど無かったり、逆に100m近く間隔が空くベンチもでてくるのです。そこで、先ほどのような数学的な処理をすることで、「マス目の一辺の長さがこうだったらベンチ間の歩行距離の分布はこのようになる」ということを明らかにすることができます。

さらに、より具体的で現実的な数値を導き出すこともできます。薄井さんの研究では、「100m以上歩く人を一割以下にしたい時、マス目の一辺の長さは何mにすればいいのか」という問いに答えをだすことができました。例えば100mの間隔でベンチを配置するためには、だいたい100mくらいのマス目であればいいと予想できますが、実際計算を行うと、間隔は93mより密度を高くする必要があるそうです。実際の都市計画ではベンチを設置する管轄が複雑に入り組んでいてうまくベンチの設置が進みませんが、広いエリアを見て物事を考えていくことが重要だと薄井さんはおっしゃっていました。

このような薄井さんのお話を受けて、参加者の方からは、「歩行距離を抑えるためにはベンチを設置するのではなく、パリのようにカフェを作るのはどうか」という質問をいただきました。これに対して薄井さんは、確かにそのような策も有効だとご回答されていました。フランスのディジョン市ではトラムのルートとなるメインストリート沿いの建築物の1階部分には必ず開口部を設けなければならないという決まりがあるそうです。この決まりにより、道路沿いに店舗やカフェのような休めるスペースが誘発されているそうです。

薄井さんのお話をお聞きし、数学の美しいモデルと雑多な事情を持つ現実との両方に目配りをする都市解析の面白さを感じました。その間の大きな乖離を埋めることは難しいことでもありますが、複雑な現実を把握するとっかかりとして、数値による都市の把握は意義の大きい研究だと感じました。薄井さん、参加者の皆さま、ありがとうございました。

〔アシスタント:東秋帆〕

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