UTalk / "謎解き"こそが歴史学―モノが歴史を語り出す―

杉山巖

史料編纂所 学術支援専門職員

第103回

"謎解き"こそが歴史学―モノが歴史を語り出す―

歴史とは暗記すること?いえいえ、歴史学はモノの5W1Hをときあかす“謎解き”からはじまります。駅弁のチラシも、一見すると読みづらいくずし字で書かれた本も、じっくり見てじっくり考えることで手がかりが浮かびあがり、来歴に迫ることができます。 10月のUTalkは、杉山巖さん(史料編纂所、学術支援専門職員)をゲストにお迎えし、参加者みんなでの謎ときを通して、どんなものでも歴史を探る素材になることを実感していきます。 みなさまのご参加をお待ちしております。

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2016年10月8日のUTalkは、杉山巖さん(史料編纂所・学術支援専門職員)をお迎えして行われました。杉山さんは、文献史料を中心に歴史学の研究をなさっておられます。今日は文字だけではなく、他の素材(その史料が作られた年代や描かれた対象など)から分かる歴史について、ワークショップ形式でお話しを伺いました。

まず杉山さんは、1枚の浮世絵を見せ、本郷のどこを描いているか尋ねました。答えは東大キャンパス赤門付近だったのですが、全く異なる部分もあれば、同じ部分も見受けられ、非常に興味深かったです。

杉山さんがおっしゃるには、歴史研究の素材となる史料を分析するには、5W1Hを考えるのだそうです。5Wとは、いつ・なぜ・どこで・誰が・どのように、1Hとは、どのように、を指します。

この6つの水準に従って、歴史研究を進めていくのだそうです。冒頭の浮世画では、作者のサインの変化でその時期の作品なのか、そもそもその絵画がその作者自身の作品なのかどうか、などという点で考察がなされました。

さらに、絵画をはじめとするあらゆる歴史資料は、「成立」・「機能」・「伝来」を経て現代へと伝えられるとも杉山さんはおっしゃいました。成立とは文字どおりその史料がつくられた経緯、機能とはその史料が果たした何らかの歴史的な役割、伝来とは、ある経過をたどってそれが現在に伝えられた事です。例えば、浮世絵は明治初期、盛んに陶磁器が海外に輸出される際に梱包紙としてたくさんの作品が流出してしまいました。その際、作品が切り取られた事で本来持っていた情報量が削られてしまったり、オリジナルの物が紛失されてしまったり、などという事態も起こったのだそうです。

また杉山さんは、昭和13年2月2日に名古屋駅で発売されたお弁当の写真を見せてくださいました。その弁当には3つの国旗(日本・ドイツ・イタリア)が描かれており、その場にいた誰もが昭和15年締結された「日独伊三国軍事同盟」を想起しました。しかし、このお弁当はその軍事同盟よりも前に生産されたものなのです。実は12年にソ連に警戒せよということで、15年の前座となる同盟が結ばれていたのですが、そう言った歴史事実を考慮に入れなければ史料の解釈を誤ってしまうということになります。

今回のUTalkでは、様々な史料を用いたワークショップ型の企画を楽しむことで、杉山さんと参加者の対話が多く生まれたように感じています。私自身もお弁当や本郷の絵画に関心が湧き、それまで苦手意識を持っていた歴史学への認識が変わったと思っています。杉山さん、ありがとうございました。

[アシスタント:小寺はるか]