UTalk / ニューヨークのみち空間の広場化

中島直人

工学系研究科都市工学専攻 准教授

第91回

ニューヨークのみち空間の広場化

中島直人さん(工学系研究科都市工学専攻 准教授)のご専門は都市デザインで、主に都市計画の遺産や公共空間の再編について研究されています。今回のUTalkでは、道路空間を歩行者に開かれた広場に変えていく、昨今のニューヨークの公共空間の進化についてお話を伺います。大都市ニューヨークさえも人々の力で変えることができるという事例について学ぶ格好の機会です。

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2015年10月10日のUTalkは、中島直人さんをお迎えして行われました。中島さんのご専門は都市デザインで、公共空間の再編などを主に研究されています。ニューヨークの道路空間を広場化する動きは、すべて合わせると60を超えるほどあるそうです。最初にタイムズスクエアとブルックリンの事例からお話がはじまりました。

タイムズスクエアの中心は、現在、車が一切通ることがない広場となり、たくさんの人々がくつろぎ、多くの観光客で賑わっています。このような道路を広場化する動きの背景に、もともと交差点であったタイムズスクエアでは、人も車も集中するため交通事故が多発していたことが挙げられます。危険へ対処するため、地元の人々が中心となり、車の通行をストップさせ広場化しようとしました。その動きに、当時NY市長だったブルーバーグ氏の強いリーダーシップが手伝い、実現化する運びとなりました。

ニューヨークのマンハッタンには、貨物列車の路線を再開発したハイラインが、ブルックリンには川沿いにあるブリッジパークなど新たな空間が生まれています。特に、ブルックリンブリッジパークは夕暮れ時になると、ウォール街のビルの灯りが浮かび上がり、ライトアップされた自由の女神も見え、景色も素晴らしいのだとか。他にも公園・広場化された場所は、道路や、駐車場、倉庫街など様々。こうした20世紀の工業・産業が必要としたインフラの遺産ともいえる場所が、公共空間に変わり人間の生活中心のまちが再生されていきます。

広場化を推進したブルーバーグ前市長は、ITメディア企業の社長であったという経歴もあり、様々な人材を行政に巻き込み、改革を進めていったそう。最終的には、60-70箇所の広場をつくることになったのですが、一体どうやってそんなにたくさんの広場化を進めることができたのでしょうか。

 

ひとつのポイントとしては、それぞれの地域の団体が主体的に、広場化したい場所を市へ提案するという「NYCプラザ・プログラム」という方法を採用していることが挙げられます。市は提案された場に関して、周りのオープンスペースの数や、サイトコンテクストなどの項目で評価し、採択するかどうかを決定します。また、広場をつくった後のマネジメントも、地域ごとに行われているそうです。その地域ごとの土地所有者や不動産所有者が集まりBIDが組織され、掃除やイベントなどの運営を行うことになっています。

しかし、実際のところ、マネジメントはそう簡単にはいっていないようです。NY市長は現在ブルーバーグ氏に代わり、民主党のディブラジオ氏となり、マネジメントをしていくなかで出てきた課題を乗り越えることに焦点をあてているようです。例えば、それぞれの広場をネットワーク化してノウハウを共有する、掃除などの仕事を労働能力開発プログラムのひとつにするなどの取り組みがあるそうです。

参加者の方からは、このモデルが他の地域で導入されている事例はあるのか、という質問があがりました。実は、前市長のブルーバーグ氏は、この都市政策の実績をパッケージ化し、コンサルティング会社をたちあげ、輸出する動きもはじめているそう。アメリカのなかでは、サンフランシスコも取り組みはじめているそうで、自動車中心社会から、"人間生活"を中心とした社会への動きはこれからますます広がっていくのではないか、と思いました。また、中島先生ご自身は広場に対してどのようにお考えですか、という質問もありました。中島先生は、ご自身のエピソードも交えつつ、都市の機能としての、「人との結びつき方、出会いのあり方」という広場的な現象の可能性についてお話をされていたのがとても印象的でした。

他にも、たくさんの質問が参加者の方からあがり、UTalk終了後もたくさんの参加者の方が中島先生とお話しされていました。私自身は、ニューヨークに行ったことがないのですが、是非機会があれば、立ち寄って豊かな広場での時間を過ごしてみたいと思います。中島さん、参加者のみなさん、ありがとうございました。

[アシスタント:青木翔子]