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野村亮太

教育学研究科 特任助教

落語家のうまさを科学する

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概要

9月のUTalkでは、「間」の研究をしている野村亮太さん(大学院教育学研究科 特任助教)をゲストにお招きします。落語家の噺のうまさとは何なのか。当日はそのメカニズムを解明するためのアプローチを紹介しつつ、落語家の技に迫ります。

2015年9月のUTalkは、教育学研究科・特任助教の野村亮太さんにお越しいただきました。野村さんは心理学や認知科学の観点から、落語家のうまさ、特に「間」について研究していらっしゃいます。

落語を研究対象にするのは中々に珍しく思いますが、そこには「噺家のうまさは何か」という興味深い問いが潜んでいました。例えば、噺家の動きの出し方や顔の向きと、お客さんの笑いのあいだに関係があり、そこには噺家の熟練のわざがあるようです。修士に入ってからしばらく、野村さんはモーションキャプチャーを自作し(購入するにはとても値段が高かったとのこと!)、噺家とお客さんの身体動作を分析していらしたそうです。分析してみると、噺家の身体動作のタイミングに合うように、お客さんの笑顔が出てきていました。そこから、落語のコールアンドレスポンスの本質には、言葉ではなく身体が関わっているのではないかと思うようになったそうです。

落語における身体に注目した理由には、身体性が心理学のトピックになっていたこともありますが、野村さん自身が落語を実践していく中で着想を得た面もあったそうです。いくら自分が落語を練習しても、お客さんと「間」が合わなければ、結局あまり良いものにならない。だからこそ、「噺家--お客さん」というまとまりを分析ユニットにし、その身体に着目したのでした。元々落研にいた野村さんだからこそ研究できたのだともいえそうです。

ただ、九州大学の助教になってしばらくは、研究があまり進まず、落語を取り上げるのも、一時ストップしたこともあったそうです。再び、落語が前面に出てきたのは、東京大学で日本学術振興会特別研究員になったときでした。落語の本場である東京に来た野村さんは、たくさん寄席に通い、噺家やお客さんをたくさん観察したといいます(研究者目線のため落語を純粋に楽しめなかったそうです)。関西の笑わせる落語と違い、東京の落語だと「話を聞かせる」部分がある。目立った動きはないけれども、何もしてないわけでもない...そんな噺家のうまさをどのように研究したら良いのか、試行錯誤する日々が続きました。1日中、お客さんの様子を映したビデオを見ていたといいます。そしてある時、はたと気づいたのが「まばたき」の存在でした。どうも、落語を聞いているお客さんには、まばたきに特徴が現れているらしい。このアイデアをもとに野村さんは実験を行いました。

実験は、プロの噺家と落研に所属している大学生にそれぞれ落語をしてもらい、それを落語初心者の大学生が聞くという形式で行われました。実験で注目したのは、お客さんである大学生たちのまばたきです。彼らの様子を分析したところ、プロの噺家がしゃべった時には、大学生のまばたきが集中するタイミングがありました。それは例えば、場面転換で噺家が座り直すときや、人物転換をするとき、あるいは落ちの直前でした。そこから言えるのは、プロの噺家は、何も口に出さずにお客さんの注目を集めることに成功している、ということです。そして、彼らはそれを意識的にやっているわけではありませんでした。落語において「間」が大事と言われるのは、実はこのことを指しているのではないか。野村さんはそう結論づけたのです。

こうしたお話を受けて、参加者の方からは「まばたきとは、そもそもどういう意味があるのか」という質問をいただきました。野村さんからのお答えは、まばたきには、そもそも反射的に起きるもの、意図的に起きるものに加えて、周期的に起きるものがあり、それは目の潤いを得るだけでなく、コミュニケーションの機能をもっているようだ、というものでした。実験における落語のお客さんのように、皆のまばたきが集中=シンクロするということは、彼らがどこで何に注意を向けているのかが、全員で共通していることを示している、とのことです。

野村さんは最新の研究では、噺家--お客さんだけでなく、お客さんどうしの影響についても実験をされているそうです。今回のお話を聞いて、言語化されにくい芸事のわざが、こうして明快に説明されていくのは大変スリリングで面白く感じました。野村さん、参加者のみなさま、どうもありがとうございました。

〔アシスタント:杉山昂平〕

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