UTalk / 若者の居場所と社会参加

御旅屋達

社会科学研究所 助教

第92回

若者の居場所と社会参加

11月のUTalkは、フィールドワークを通して若者コミュニティの研究を進めておられる御旅屋達さん(社会科学研究所 助教)をお迎えします。 若年無業者の数は56万人と言われています。彼らにとっての居場所とはどのような場なのでしょうか。「ひきこもり」と呼ばれる人たちの自立支援現場での調査をもとにお話いただきます。

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201511月のUTalkは、社会科学研究所の御旅屋達さんをお迎えして行われました。御旅屋さんには、ひきこもりと呼ばれる人たちの自立支援の現場に関してお話いただきました。

御旅屋さんが教育社会学の立場から「若者」「ひきこもり」「居場所」といったテーマを研究していらっしゃるのは、修士課程の時の研究からつながるものだそうです。「青少年団体にのめりこむ若者はなぜそれほどまでにのめりこむのか」という疑問を抱き研究を行ったことから、「若者」や「居場所」について考え始めたそうです。

御旅屋さんの研究テーマは言葉の定義がそもそもあやふやであり、まずその定義について考えなければならない難しさがあるようです。例えば、「居場所」という言葉の意味は時代とともに変遷し、異なる文脈で使われてきました。この言葉は、もともとはただ「居るところ」といった意味でしか社会で認知されていませんでしたが、1980年代頃から「自分が認められるところ、落ち着けるところ」といった意味合いも付加されるようになります。国や自治体でも「居場所づくり」が政策的な課題となる一方、マスメディアでも90年代から使用が増えました。

このように言葉の定義について調査をなされた後、御旅屋さんは居場所づくりをしているひきこもり支援のNPOにおいて現地調査を始めました。この時、自立支援は支援の外部に利用者を押し出すという目的を持つはずにもかかわらず、「居場所」ではその場に「居続ける」ことが目的とされる、という矛盾が気になっていたそうです。御旅屋さんが中心的にフィールドワークを行ったNPOでは、テレビなどを置いて普通の家の中のようにした施設を運営しています。登録した人が自由に出入りでき、勉強会や調理会などのイベントもよく行われるようです。「ひきこもり」の背景は多様であり、外に出て他者との関係性を結ぶ場所の不足が「ひきこもり」と呼ばれる人たちの共通点である、と御旅屋さんは指摘します。

その施設においては、ひきこもりの方の状態に応じた次のような支援の段階が見られるとのことです。まずひきこもりの方が施設を利用し始める時、当人は非常に苦しい思いをしているので、施設側はゆるゆると受け入れます。施設に行くことを嫌がったり、もっと他にするべきことがある、といった意識を持っていたりすることがありますが、気軽なイベントに誘い、まずその場所に「居られる」ようにするのです。そして利用者が「居られる」ようになると、第二段階として、施設側はさらに施設という居場所に浸かりきることを促します。イベントを通じどんどん居場所の中にひきこんでいこうとするのです。そして最後に、利用者に就職つながりそうな兆しが見えてくると、支援は段々少なくなっていきます。この段階においては、自立のための道具として支援を活用するようになります。また、発達障害などの障害を抱えている方の場合は、自分の障害を受け入れ、福祉就労につながることを前向きに検討し始めることもあるそうです。

現在このような居場所づくりの支援がなされていますが、そうそう上手くいかない現状があります。ひきこもりの方が一度施設から出て就職しても、また支援の場に戻ってきてしまうケースも多いのです。また2000年代には行政によるひきこもり支援が活発になりましたが、行政による支援や助成にも難しい課題があるそうです。課題の要因は事業を評価する指標が就労者の数であることです。うまくいきそうな人だけが支援の対象となってしまいがちなのです。

こうしたお話を受けて、参加者の方からは「海外ではどのようなひきこもり対策をしているのか」という質問が出ました。それに対する御旅屋さんの返答は、ひきこもりの人に特化した居場所づくりの支援の例はあまりない、というものでした。そもそも「居場所」という言葉自体が日本独自のものであり、英語などでも「居場所」を表す語が無いそうです。日本では独特のひきこもり支援が行われているようです。

社会の中で見えにくくなっているひきこもり支援の現状について、現場での調査に基づいたお話をきくことができ、大変ありがたく思いました。当日雨の中おいでくださった御旅屋さん、参加者のみなさま、ありがとうございました。

[アシスタント:東秋帆]