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成瀬昂

医学系研究科 助教

地域のニーズを可視化する

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概要

医師、看護師、介護職員、ケアマネージャー、行政そして患者と、在宅ケアをとりまく人びとは多岐にわたります。よりよい仕組み作りのためには、どのような環境を、どのようにして整えていけばいいのでしょうか。6月のUTalkでは、在宅ケアの仕組みについて研究されている成瀬昂さん(医学系研究科 助教)をゲストにお迎えします。地域住民の生活とケアの現状やニーズをいかにして調査し、研究や提言につなげていくのかについてうかがいます。

 2015年6月のUTalkは、医学系研究科・助教の成瀬昂さんをお招きしました。成瀬さんには、地域と在宅医療(在宅ケア、在宅療養支援、等表現はいろいろあります)に関してお話をいただきました。

 成瀬さんは、もともと東大病院で2年間、看護師として働いていらしました。また、地域看護の専門家である保健師の資格もお持ちです。実務経験を経たのち、研究者の道を歩むようになった理由には、高齢社会に対して不安をあおる言説は多いけれども、自分たちで進むべき方向性を打ち出すことができていない、という問題意識があったからだそうです。

 病院の外で行われる在宅医療には、独特の問題や困難があります。こんな事例があったそうです。人工呼吸器をつけている患者さんのもとに訪問看護師が車でかけつけた際に、駐禁をとられた。「お風呂に最後入りたい」と言って気持ちよく入浴し、亡くなった方の遺族が、「何で風呂に入れたのか!殺したのか!」と問い詰めてきた...。人それぞれ幸せのあり方は違い、患者のためにやるべきことも異なります。特に高齢者が増えてくると、様々な立場から「やってほしいこと」が出てくることでしょう。そうしたときに、私たちは合意したり、一致したりすることができるでしょうか。

 こうした問題に直面し、地域は何かできるでしょうか。難しいことに、地域だからこそ、当事者のニーズが見えにくくなるという側面もあります。興味をもたないと問題は見えてこないし、そもそも問題として認識されていないこともあります。しかし一方で、地域だからこそ、問題を解決できるという側面もあります。病院で問題解決をしようとすると、病院のリソースしか使えません。でも、地域ならば、様々な人の協力で問題に取り組むことができます。例えば、地域のコンビニが駐車場を開放してくれたことで、医療・介護サービスが車で訪問するときの駐車場所の問題が解決できた例があります。

 成瀬さんは、地域の可能性を活かすためには、地域自身が自分で問題を考えることが必要だと言います。地域ごとに、何を問題とするのかは異なります。とある山間部のまちでは、孤独死を自然と受け入れる風土があり、問題とされていないということもあるそうです。こうした地域の多様性に配慮した上で、国や都道府県が今後の方向性を語ろうとすると、どうしても抽象的で将来が見えにくい、と言われてしまいます。そもそも、行政単位だけでものを考えることが、適していないかもしれません。地域や文化圏と、市や町は必ずしも一致しないからです。だからこそ、地域が自分自身で動き、考えることが重要なのです。成瀬さんは調査に携わることで、地図に付箋を貼っていきながら、医療・介護施設の良し悪しや地域の困りごとを整理していき、地域に固有の問題を探る助けをされています。

 成瀬さんの話を受けて、参加者の方から「終末期になった人が医療者の意見とどう向き合ったら良いのか、そもそも医療者が在宅医療に理解がないのではないか」という質問が出ました。成瀬さんは、確かに在宅医療に対する理解は不十分な場面もあり、病院・地域の医療・介護職者のあいだで情報共有や役割分担ができていないこともある、とお答えになりました。地域全体や、個別の患者さんの生き方そのものについて目標が共有できていないと、関わる職員間や患者・家族との間にすれ違いがうまれ、問題の本質から関心をそらすことになります。専門家だけでなく、非専門家も含めて、その方にかかわるすべての人が、互いに尊敬をもって接することが大事だと、成瀬さんはおっしゃいました。

 成瀬さんのお話を聞いて、自分自身、住んでいる地域の医療事情について何も知らないなと気づかされました。まずは身近なところから考えていくことで、高齢社会と向き合うことが必要だと感じます。成瀬さん、参加者のみなさま、どうもありがとうございました。

〔アシスタント:杉山昂平〕

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