新領域創成科学研究科自然環境学専攻 助教
第86回
5月のUTalkは、都市の農や緑地保全について研究されている寺田徹さん(新領域創成科学研究科自然環境学専攻 助教)をゲストにお招きします。現代の都市はもはや貸し農園だけでなく、庭さえも借りられる時代だそう。空地を期限付きで市民グループに貸し出し、緑を楽しむ庭に変化させてしまうという千葉県柏市の「カシニワ」という取り組みについてお話を伺います。公園づくりとはひと味違った地域の庭づくりという新たなスタイル。
5月のUtalkは寺田徹さん(ご所属:新領域創成科学研究科 自然環境学専攻 助教)をお迎えして行われました。大学では都市計画を専攻した寺田さん。学んでいるうちに計画されすぎた町並みへの違和感を覚え、住んでいる人が積極的に町づくりにかかわれるような仕組みに興味を持ったそうです。そして博士課程からは緑地やランドスケープについて学び、現在それら二つの専門を生かして「カシニワ」制度に取り組まれています。
「カシニワ」制度とは、空地を貸したい所有者と、空地で活動したい団体を柏市が仲介に入ってマッチングし、サポートを行う取り組みです。制度が始まって五年目になり、「カシニワ」として登録された空地は120件ほどで、空地を借りた団体は農園を作ったり造園をしたりという緑を育む団体を中心に、自由に活動されているそうです。
次にこの取り組みが都市計画の研究の文脈からどのような意義を持つのかについて説明していただきました。地方都市では人口が減少しているため、広い範囲に点在する公園などのインフラや増えていく空き家や空地を国や自治体が税収で運営していくことが困難になるという問題があります。このような問題を解決するためにそこに住んでいる人が楽しく管理し、場所作りができる仕組みとして、自治体では初の試みが柏市の「カシニワ」制度なのだそうです。空地と団体のマッチングの際に、市が仲介に入って、互いの条件を明文化し、期限付きで貸すという制度のもとでやることが、トラブルを防ぐために重要なのだそうです。
また、「カシニワ」を通して最初にマッチングが成立した例を紹介していただきました。市の開発用地を町会に貸し、町内会の祭りを開催したり、小さな菜園をつくったりしているそうです。カシニワでは貸主とのルールに基づいていれば、公園では禁止されている、農作物をつくることや、火を使うこと、野球やサッカーをすることもできるそうです。
この「カシニワ」の立ち位置は、「私:Private」と「公:Public」の中間的な存在である、「共:Common」だと寺田さんはおっしゃいました。国や自治体が所有する公園のような「公:Public」は万人に開かれている場所であるため、みんなが使えるようにルールが多くなり自由にできないことも多いです。「共:Common」は公私の中間にあたり、特定の範囲の人々で共有してある程度自由に使うことができます。公私だけでなく「共:Common」な場所もあることで持続的で、住民が積極的に参加できる町づくりが可能になるそうです。
しかし、このCommonに関しては上記のようなメリットがあるにもかかわらず、制度があまり整備されていなかったため、「カシニワ」を通じて柏市と大学が協力して制度作りを行っています。今回のUtalkには、実際にこのプロジェクトに関わった市の職員の方にも参加していただき、市からの指示や制約はできるだけ少なくして、「カシニワ」に参加する人のやる気を引き出すことに注力しているといった現場の貴重な意見も聞けました。
参加者した方から「カシニワ」はコミュニティー形成の役割を果たせるのではないか、という声がありました。すると寺田さんいわく、公園とは違い自分達で変化させながら自由に使うことができるので、地域のコミュニティー維持だけではなく、新しいつながりの輪も広がっているのだそうです。
人口減少に合わせたよりよい町づくりに、住んでいる方々が楽しくかかわれる仕組みづくりは今後ますます重要になっていくだろうと思われます。「カシニワ」制度の具体的なお話や写真を通じて、町づくりにおける「共:Common」の重要性についてお話してくださった寺田さん、それぞれの地域の身近なエピソードも交えながら議論してくださった参加者の皆様ありがとうございました。
〔アシスタント:加藤郁佳〕