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黒瀬武史

工学系研究科都市工学専攻 助教

負の遺産を活かしたまちづくり

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概要

3月のUTalkでは、都市デザインについて研究していらっしゃる黒瀬武史さん(工学系研究科都市工学専攻助教)をゲストにお招きしました。工業によって汚染された土地をどう活かし、どう都市を再生していくか。その方法とアメリカでの事例についてお聞きしました。

2015年3月14日のUTalkは、黒瀬武史さん(ご所属:工学系研究科都市工学専攻)をお迎えして行われました。
黒瀬さんのご専門は都市工学で、アメリカの「ブラウンフィールド」を主に研究されています。熊本県の八代市で、工場が日常の風景にあるまちで育ったという黒瀬さんは、修士課程を卒業された後、設計会社に就職され、都市開発事業に携わっておられました。その後、助教として大学に戻られ、環境問題と都市計画の両面の課題を抱えた「ブラウンフィールド」を研究されているそうです。

「ブラウンフィールド」とは、土壌汚染の可能性があるために再開発が進みづらくなっている土地のことを指します。日本ではまだ馴染みがないですが、アメリカでは1990年頃から使われ始めた言葉だそうです。その背景には、汚染した土壌の浄化責任を誰がとるのか、という問題があったようです。一般に、汚染された土地の浄化責任は基本的に土地の所有者や汚染者に還元されます。アメリカでは1980年に、過去の土壌汚染に対する厳しい責任追及が法律で定められました。その土地の開発に融資する銀行にまで浄化責任が波及する可能性もあるとか。そのような厳しい規制のために、古くからの工業地帯の再開発が進まなくなっていきました。

もちろん、街の中心部では汚染された土地への浄化費用も再開発後の収益で採算がとれるので事業が進みますが、そうでない場所だと汚染されたまま放置されてしまっていました。そこで、汚染レベルを段階的に示し、極めて深刻なものは国が対応し、それ以外は州や自治体が、土地所有者と協力して対応していく制度が整えられました。その際にポイントとなるのが、環境保護と都市計画をセットにして、新しい土地利用について考え再開発していく動きだそうです。

黒瀬さんがこの日ご紹介くださった事例は、アメリカはボストン郊外のLowellの再開発です。Lowellでは、放棄されていた工場跡地からまち全体を活性化するため市役所が主体となって、運河や河川などを骨格に遊歩道をつくり、公共事業としてアリーナなどを再開発して工場跡地のイメージを大きく変えました。そして、その周辺を民間企業に開発してもらうことでまちを活性化していくことに成功したようです。土壌汚染は浄化された部分もあれば、住宅でない場合は古い建物の地下に封じ込められている部分もあるそうです。本来は、環境の専門・建築の専門と別々に対応していくところを、建物と環境の問題をセットで再生するという考え方によって、比較的低コストで安全に土地を再生することが可能になりました。

実は、Lowellのはずれには、この事例よりも汚染レベルが非常に高い地区もあるそうです。こちらは、国の環境保護庁により直接汚染への対応が行われています。このように、汚染のレベルを分類し、対応の方法を変えているのがアメリカのやり方だそうです。

日本でも、福島の問題など土壌汚染の問題に関心が集まっています。参加者の方からは、「福島はどのように対応していくべきか?」という質問がありました。「日本とアメリカでの制度は異なる」と黒瀬さん。たとえば、先ほどにもありましたが、アメリカは、汚染の深刻レベルを区別し、国が対応するこころと自治体が対応するところが明確にわかれています。そうすることで、汚染のレベルが比較的低いところは、自治体や住民の考えに沿って、浄化や再開発を進めていくことができるようになりました。跡地の使い方によっては、汚染を残したまま建物や舗装で封じ込めるという方法も使われています。一方で、日本は、現在でも汚染した土地をすべて浄化してから再開発を行うというのが主流です。そうすると非常にお金がかかることもあり、どのようにまちを再生していくか?という議論が後回しにされてしまったり、まち全体ではなく儲かる部分のスポットの再開発のみが優先されてしまったりする傾向があるようです。

他にも、参加者の方からの質問に「工業がなくなった後、そのまちの産業はどのようになっているのか?」とうものがありました。黒瀬さんの答えは、実は教育と医療だということでした。工業が盛んだった時代に街につくられた大学や病院は、工場がなくなったあとの街の産業の中心になっていて、Lowellにもマサチューセッツ州立大学のキャンパスがあるそうです。

これから人口が減少していく日本で、この土壌汚染と再開発の問題は避けては通れないものです。その際に、環境の問題と都市計画の問題の双方のアプローチから、よりよい都市デザインが行われるようになるといいなと感じました。黒瀬さん、参加者のみなさま、ありがとうございました。

[アシスタント:青木翔子]

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