UTalk Report

針生悦子

教育学研究科 准教授

赤ちゃんはどのようにして言葉を学ぶのか

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概要

人はどのようにして言葉を理解していくのでしょうか。1年に100人以上の赤ちゃんの協力を得て、言語を習得していくプロセスを解明している針生悦子さん(教育学研究科・准教授)。1月のUTalkでは、いろんな音を繰り返し聞いてもらう実験からみえてきた、赤ちゃんの言葉の聞き取りについてお話いただきました。

1月のUTalkは針生悦子さん(ご所属:教育学研究科)をお迎えして行われました。針生さんは赤ちゃんがどのように言語を学ぶのかということについて、ユニークな心理実験を用いて研究されています。

たとえば私たち大人がまったく知らない言語を聞いたとき、それは単なる音の連なりに聞こえて、意味のある単語を切り取ることは難しいでしょう。一方、母語を聞いた場合は意味の切れ目で言葉を分けて内容を理解することができます。では言葉の意味をほとんど知らない赤ちゃんはどのように音の連なりから意味のまとまりとなる単語を切り出しているのでしょうか。針生さんは単語を切り出す目印として「犬が歩く」の「が」のような助詞が果たす役割に着目されたそうです。助詞は単語の間のつなぎ目として文の中に繰り返し出てくるので、単語の区切れ目を見つけ出す手がかりとなり得ます。このように助詞は単語の目印になりえる一方で、実際には2歳前後の単語をつなげて言葉を話せるようになり始めた時期の子どもは「ワンワン オサンポ」のように助詞を抜かすことが多々あります。このことから助詞を学ぶ時期は遅いのではないかという説も唱えられていました。果たして、それよりもだいぶ早い,言葉を話し始める前後の赤ちゃんは助詞を聞き取って、単語を切り出す目印としているのでしょうか。

針生さんは、この問いに迫る二つの実験を紹介してくださいました。一つ目の実験では赤ちゃんが助詞を聞き取れているのかを調べたそうです。しかし相手は赤ちゃん。質問しても答えてはくれません。そこで「るめ が むわっているよ」などの聞きなれない名詞や動詞を用いた文を繰り返し聞かせたあと、助詞の「が」が抜けた文や、「が」が「き」など別の音に置き換わった文を聞かせて、赤ちゃんの驚き反応を計測しました。すると、10~11ヶ月の赤ちゃんは、「が」が抜けたことに気づくこと、14~15ヶ月の赤ちゃんは抜けたことには反応しないが、別の音に置き換わった文には反応することがわかりました。このことから赤ちゃんは助詞を聞きとっていて、15ヶ月になると抜かしても良いということもわかっているようでした。そうすると,2歳ころ,単語をつなげて話すようになった子どもが助詞を抜かして発話するのは,わかって抜かしていると考えられそうです。
二つ目の実験では,助詞がその直前の単語を"名詞"と分類する目印になっているのか、特に動詞と名詞の区別に役立っているかを調べたそうです。「ぬさ が~」を含む文章を繰り返し聞かせたあと、「ぬさ を」などの名詞らしい表現と、「ぬさ らない」などの動詞らしい表現を含む文を聞かせたときの反応を比べてみました。その結果、15ヶ月の赤ちゃんは名詞らしい表現にはあまり驚かず、動詞らしい表現には驚くことがわかり、助詞が「ぬさ」という初めて聞く単語を、名詞として認識する目印となっていることが示唆されました。

UTalkの会場では、針生さんにお持ちいただいたパネルや写真を見ながら、これらの実験の流れを追体験し、赤ちゃんの理解度を行動から知る実験の巧みさを感じることができました。参加者の方からの質問に「大人の外国語学習についてのアドバイスは?」というものがありました。針生さんは、子どもはよく語学の天才と言われるが、とんでもなく長い時間言葉を聴き続けてから学習している。大人はその点、ロジカルに速く学習することができ、大人と子どもの言語学習は種類が違うものだと回答されました。

赤ちゃんのとき、どのようにして言葉を話せるようになったのか覚えているという大人の方はおそらくいないでしょう。誰かと話すとき、自分ひとりで考えるときにも言葉は用いられ、こんなに近い存在であるのにその学習過程にはまだ謎がたくさんあるようです。その学習過程における助詞の役割を明らかにしたユニークな実験をわかりやすく説明してくださった針生さん、さまざまな角度からの質問で濃密な質疑の時間を作ってくださった参加者の皆様、ありがとうございました。

〔アシスタント:加藤郁佳〕

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