UTalk / 宇宙からみる地球の変形

青木陽介

地震研究所 助教

第81回

宇宙からみる地球の変形

毎年数センチずつ動いているという地表。どのように動きをとらえ、動きから何が明らかになるのでしょうか。12月のUTalkは、火山にGPSを設置して地面の動きを観測し、火山活動について調査研究されている青木陽介さん(地震研究所・助教)をお招きしました。自然災害と密接につながる地球の変形を先端技術でとらえる研究についてお聞きしました。

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気持ちの良い青空と、身の引き締まる寒さの中、12月のUTalkでは地震研究所で助教をされている青木陽介さんをゲストにお迎えしました。「『動かざること山の如し』と言われる山も実は動いているんです」とお話を始められました。青木さんは、様々な技術を用いて山も含めた地球上の大地の変形を観測されており、その結果を元に地震や噴火などに対する防災につながる研究もされています。

地球が変形することの最もわかりやすい例は潮汐で、満潮と引き潮に合わせて、私たちの立っている地面も40cm程度上下に膨らんだり縮んだりしているそうです。微妙な地面の変形は人には感じ取ることができませんが、地球の大地は私たちが考えているよりも柔軟に動くようです。このように実は活発に動いている大地を観測するために昔から様々な技術が用いられてきましたが、この20年くらいは人工衛星の活用によって以前より能率よく観測が行えるようになったそうです。以降では人工衛星を使った地形の観測の主流である、GPSと合成開口レーダーを用いた観測についてのお話を伺いました。

GPSは30個程度の人工衛星による測位システムで、複数の衛星からの距離を元に地上の受信機の位置を測ることができます。身近なところでは、わたし達が使っている携帯電話にもGPS機能が搭載されており、5メートル程度の誤差で利用者の位置を測ることができます。しかし、そのような一般的なGPS(単独測位)の精度では数㎝という単位で発生する大地の変形は観測することが出来ません。そのため青木さんのご利用されているGPSでは、複数の受信機で複数の衛星からの距離を同時に測定し、受信機間の相対的な位置関係を計測する相対測位という手法を用いており、これにより誤差が3mmから1cm程度の精度で位置を計測することが出来ます。この技術によって、例えば日本列島とハワイ諸島は年に10㎝程度近づいているということが判明し、地球の表面がプレートという岩盤で構成されており、これがその下のマントルの対流によって動いているというプレート・テクトニクスによる理論的な予測値を確認することができました。GPSの受信機は国土地理院によって全国で1000箇所以上設置されており、その他にも必要な部分に関しては青木さん達がご自身で設置され、それらを用いて大地の動きを観測されています。これによって東日本大震災の際の5m程度もの地殻変動や、浅間山の噴火の際のマグマの挙動などが観測できたそうです。

人工衛星を使った観測手法として主流なもののもう一つである合成開口レーダーでは、人工衛星が移動しながら地上の対象に電波を送り、対象に当たって反射された電波を観測することで、3m程度の分解能で地上の様子を観測することが出来ます。観測の位置的な精度に関してはGPSに劣る合成開口レーダーですが、GPSと異なり地上に設置する受信機を必要としないため、地上のあらゆる場所の様子を観測することができるのが強みとなっています。青木さんの研究では、この2つの観測手法のそれぞれの特徴を活かしながら、大地の変形を様々な観点から観測されています。

青木さんからの話題提供が終わると、参加者の方からはそれらの技術を用いた地震や火山の噴火の予測についての質問が次々と出てきました。「最近は東日本大震災や御嶽山の噴火など、日本で自然災害が異常に活発化してきているのではないか」という質問に対しては、「統計的に見てみると、日本では高度経済成長期以降の数十年間、例外的に災害が少なく、近年の災害の頻度に関してはむしろ正常に戻っていると考えることが出来る」という眼から鱗が落ちるようなお答えを頂きました。最近火山の活動が盛んなのは東日本大震災の影響だと考えられており、これに関しては理論的な予測にある程度沿った状況だそうです。「実用できるレベルの災害予測が不可能ならば、このような研究は防災には役に立つことができないのか」という鋭い指摘も参加者の方から出ましたが、それに対しては「今は直接的な災害の予知はできなくとも、マークすべき火山や地盤の応力などが把握できるようになってきている。地震に関しては現時点では予知が可能になるかどうかもわからないが、火山活動に関しては10年から20年である程度の予測が可能になるかもしれない」とのお答えでした。このようなやり取りからは、先の見えない事に対して取り組むのが科学の醍醐味であり、取り組むのを諦めない限り先が開ける可能性は0ではない、という気概を感じることが出来ました。

地球に関する研究ではまだまだ人の力の及ばないことが多いですが、今回のお話を通じて自分が住んでいるこの星や国のあり方について、いつもとは違う視点で捉えることが出来ました。師走の忙しい時期にお時間を割いて貴重なお話をして頂いた青木さん、様々な観点からの質問で盛り上げてくださった参加者のみなさま、本当にありがとうございました。

〔アシスタント:森俊彦〕