農学生命科学研究科 助教
第77回
8月のUTalkでは、野鳥という観点から生態系を研究されている藤田剛さん(農学生命科学研究科 助教)をゲストにお招きし、ライフワークにされている野鳥観察のお話や、野鳥の行動やデータから見えてくる生物のつながりについてお聞きします。
2014年8月のUTalkは、藤田剛さん(ご所属: 農学生命科学研究科 )をお迎えして行われました。インパクトのある鳥の標本を持って登場された藤田さんは、ユーモラスがありながらも考えさせられるところの多い鳥にまつわる様々な話をして下さいました。
「元々鳥はそんなに好きじゃなかったんですよ。」という衝撃的な発言で、藤田さんはご自分が今の研究を始めることになった経緯を説明してくださいました。小学生の頃から虫が大好きで、虫と暮らせる生活がしたいということを心に決めた藤田さんは、大学生になるころには猿の魅力に目覚め、学生のうちは年に100日は猿と一緒にいる生活を送っていたそうです。
その後大学院へは進まれず、野鳥の会で働かれていた藤田さんは、貴重な休日を潰したりしてまで何十年も鳥の観察を続けるようなアマチュアの愛好家の方がたくさんいる、鳥の魅力に惹かれていきます。最近でも我慢できずに年に1回は猿を見に行かれるという藤田さんですが、そのような経緯で鳥にまつわる研究をされることになります。
現在、藤田さんは国によって実施される自然環境保全基礎調査のために、タカ科の鳥であるサシバの分布を調べていらっしゃいます。この分布は20年毎にアマチュアの方が主体となって調べていらっしゃるそうですが、20年間でサシバの分布は3割減少し、全体として北側に移った事が明らかになったそうです。このような推移の謎を解明するために、まずは、標本として持ってきてくださったサシバのはく製を眺めつつ、サシバの生態を解説して頂きました。
人が植える木の上に好んで巣を作り、田んぼにいるカエルや森にいる芋虫を餌とするサシバは、そのような環境が整っている場所として、人の手が入った里山に多く暮らしています。熱心に観察している愛好家の方が多く里山という生態系と密接な関係を持っていながら、個体の減少という憂き目にあっているサシバの特徴に惹かれ、藤田さんはその研究を選ばれたそうです。
サシバの数が減っていることの理由の一つとしては、田んぼの土壌が整備されたことでカエルの数が減り、結果としてそれを餌としていたサシバも減ったということが考えられるそうです。また、サシバの分布が北へと移ったことの理由も、地球温暖化によって餌となるカエルなどが北で増えたことが大きいだろうと言われており、サシバは餌とする生き物に強く依存して生きていることがわかります。しかし、一方で南部ではサシバはイナゴやキリギリスを餌として生活していることから、案外たくましい適応力を持っている可能性もあるそうで、今後の生態系の移り変わりが気になってくるところです。
後半の質問タイムでは、普段なかなか触れることのない鳥愛好家の方と鳥との関わり方についての質問が多く出ました。一見すると見当も付かなそうな鳥の居場所は、その鳥の好きな木の生え方などから特定する、といったことや、鳥の種類は見た目より鳴き声で判別するため、他の愛好家の方よりレパートリーの少ない藤田さんも200種類もの鳴き声を聞き分けられる、といった話は、聞いていてワクワクするものでした。
藤田さんのお話の中で出てきた、好きな餌を見つけた時は喜ぶ素振りを見せるサシバの話や、メスが集まって浮気をするツバメの話は、鳥が思っていた以上に人間と近しい生き物であることを感じさせてくれました。一方で、それを観察していく中で人間が鳥の暮らしを追い込んでいる状況が明らかになっているというお話は、改めて自分たち人間のあり方を見つめるきっかけを与えてくれました。
夏もそろそろ後半を迎えていますが、自然と触れることの多いこの時期だからこそ、いつもと少し視点を変えて自分が生きている環境のことを考えてみる機会になりました。お盆の忙しい時期に時間を割いて話していただいた藤田さん、質問で場を盛り上げてくださった参加者のみなさま、本当にありがとうございました。
[アシスタント:森俊彦]